Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

H30年改正著作権法はAIの発展を後押しするのかちょっとだけ検討してみた。

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という少々煽った?題名をつけてみましたが、

先日ビジネスロージャーナルの池村先生の記事*1を読んだ後に早稲田大学上野先生のH30年著作権法改正に関する講演を聴いてきたのですが、AIを含む情報解析を生業とする企業にとっては影響が大きい部分がありそうだったのでメモ。

 

 

1.著作権法大改正?

 今年の著作権法に関係する改正は多岐にわたり、

だけでなく、

  • デジタル教科書関連の対応が含まれる「学校教育法等の一部を改正する法律」
  • TPP関連の「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(保護期間延長、一部非親告罪化、アクセスコントロール対応等)
  • 一般継承による著作権移転の対応要件の変更が含まれる「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」

と盛りだくさんとのこと。

 kanekoもカバーできていない部分もたくさんありました。

 

2.柔軟な権利制限規定

 これらの改正の中でも機械学習(AI)系で影響がありそうなのは柔軟な権利制限規定の項目です。今回の改正の目玉の一つだと思います。

 池村先生の記事の中では

「柔軟な権利制限規定」は、かつての「権利制限の一般規定」「日本版フェア・ユース規定」から名称こそ変化を遂げているものの、その意味するところは実質的に同一である。

と書かれている通り、日本版フェアユースとやらがついに導入されたわけですね。よく内閣法制局とおったなーというのが素直な感想です。

 

 著作物の利用に関して権利者の利益を害するレベルを3つに分けて各条文が作られているわけですね。

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池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126)より

 

 今回の改正法は現行法をゴッソリ変更しているため、対応関係を理解するのが大変です。特に47条シリーズはカオスの一言です。

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池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126)より

今回の改正は司法試験受験生泣かせの改正かもしれません(上野先生がそうおっしゃってました。)。

 弁理士試験に関しても、現在は論文試験には著作権法はありませんが、短答にはありますので、少なからず影響しそうです。(不競法改正もありますからね。)

 

3.AI関連で関係がありそうな条文(改正法30条の4と47条の5)

 さて、AI関連で影響がありそうなのは改正法30条の4と47条の5になります。

改正法の条文はこちら(新旧対照表)

 

(Ⅰ)30条の4 非享受利用

なんやねん、非享受利用って!意味わからんやん!

と思ったあなた。まったくの同感です。

 非享受利用とは、「視聴者等(需要者)の知的又は精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないこと」のよう。

 「視聴する人が一応見てはいるけど、楽しんだり鑑賞したりしない行為」はある程度OKよということかな。

 

 AI関連では2号がメインですが、1号から順に見ていきましょう。

 

(1)第1号 技術開発・実用化のための試験の用に供するための利用

 「動画圧縮技術の開発のためにテレビの放送番組を実用的に録画・変換すること」が例としてあげられているように、現行法30条の4の規定がほぼそのまま残っているイメージ。

 ただし、以下点が現行法と異なるので注意。

・未公表著作物も対象

・但書による限定(されるものの現行法で許容されていた範囲は引き続き許容されるよう)

 
(2)第2号 情報解析のための利用

 日本で機械学習が許容される根拠としておなじみの現行法47条の7がこちらにジョイン。権利範囲も拡大しています。

 変更のポイントは下記とのこと。

  • 「情報解析」の定義の変更

 「情報解析」の定義から「統計的な」が削除されたため、統計的ではない解析行為も許容されるようです。

  • コンピュータを用いない情報解析も許容

 (上野先生いわく、「新聞記事の解析のために紙でコピー」、「テレビ番組の解析のための録画」も含まれることになるとのこと)

  • 複数主体による情報解析も許容

 情報解析を行う第三者のために、著作物を複製し、当該第三者に譲渡や公衆送信することも許容されるよう。(上野先生いわく、「他社のためにAI開発用データセットを作成、複数事業者で共有」も可能とのこと)

 現行法で複数事業者(各社で役割分担をしているようなケース)で機械学習を行う場合の懸念が解消されたわけですね。

 機械学習系だと

・自社では完結できずに第三者に委託したり、第三者からデータセットを購入したりする場合

・自社で解析したデータセットを第三者に転売する場合

があると思うのでこの内容はいい意味で影響が大きいです。

 

 なお、1号と同じく但書による制限があるので注意。現行法で規定されていた解析用データベース著作物については引き続き許容されないもよう。

 
(3)第3号 電子計算機による知覚認識なき利用

 情報通信設備のバックエンドで行われる著作物の蓄積等の行為が許容されるよう。

 なお、第1号から第3号はあくまで例示であり、これらに該当しない行為についても非享受利用なのであれば30条の4柱書が受け皿規定として機能する可能性があるとのこと。(リバースエンジニアリングも柱書によって許容される)

※3号は、1号と2号の受け皿規定のようにみえるがそうではない。

 

(Ⅱ)47条の5 新たな知見・情報を創出する電子計算機器による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等

 現状許容されているインターネット検索サービス(現行法47条の6)を拡大させた条文です。AI関連では第1項第2号と第2項が影響しそうです。

 

(1)第1項第2号 情報結果&結果提供サービス

 「電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること」が許容される条文です。

 30条の4第2号と異なり、非享受利用である必要はありません。(軽微利用の条件はありますが)

 池村先生の記事には

2号は、新30条の4第2号(現47条の7)で権利制限の対象とされている情報解析の結果提供に伴う軽微利用を対象とするものである。現行法では、情報解析の結果提供に伴う著作物利用は、引用(32条1項)の範囲で行う必要があったが、改正により軽微利用に限定されるものの広く可能となり、AIを用いた各種調査解析サービス等への活用が期待される。

と書かれている通り、機械学習の結果の提供についても引用の要件を満たす必要がないようです。

 ただ、上野先生が以下のように述べられていることからも(ちょっと混乱するのですが)許容される範囲は狭いように思われます。

あくまで情報解析の「結果を提供」するものである必要があるため、現存の著作物を学習したAIがその創作的表現を出力することが許容されるわけではない

[例]全ての鳥山明マンガを解析して同人の画風で作品を生成できようになったAIが、結果として現存のキャラクターと類似するイラストを生成した場合

 

  ここはkanekoもまだうまく咀嚼できていません。

 

(2)第2項 

 池村先生の記事に

2項は、1項の適用を受ける者のために行われる各種データセットの作成や提供を権利制限の対象とするものであり、検索サービス用データベースやAI学習用データセットの作成や提供が想定されている

 と書かれているとおり、30条の4第2号の説明で触れたのと同様にデータセットの提供を許容する内容になっているようです。

 

4.最後に ~H30年改正著作権法はAIの発展を後押しするのか~

 後押しすると信じたい。

 少なくとも権利制限規定の幅は広がっているため、著作権法上AI関連業務のできる範囲は広がっているように感じます。上野先生は現行47条の7を根拠に「日本は機械学習パラダイス」と述べておりましたが、よりパラダイスになると信じたいですね。

🔭コラム:機械学習パラダイス(上野達弘) – 早稲田大学知的財産法制研究所[RCLIP]

 

  ただ、どうしても条文が長文で非常にわかりにくい内容になっていると思うので、これらの条文の適用を検討する場合には慎重にあてはめを行う必要がありそうです。

 柔軟な権利制限規定とは「ある程度抽象的な」規定ですので、今まで以上にグレーな部分がでてくると思います。これらの規定の適用を検討する企業側としてはリスクを検討した上でビジネスジャッジしていく必要がありそうです。

 今回は深くは紹介しませんでしたが、47条の5第1項第3号は政令に委ねられており、このあたりについては今後も引き続きウォッチしていきたいと思います。

*1:池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126))

リンクと著作権(1)~リンクを分類する~

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 Twitterリツイート行為に著作者人格権侵害に該当する知財高裁の判決が話題になっています。

「RTで画像自動トリミング、著作者人格権侵害に当たる」 知財高裁判決、Twitterユーザーに衝撃 - ITmedia NEWS

リツイートは著作者人格権(同一性保持権)侵害だとした知財高裁判決に対するTwitterユーザの反応 - Togetter


 また、上記判決とは別にインラインリンクに著作権侵害の幇助が認められる旨の判決もでているようです。

著作権・知的財産権・ウェブ・デジタル法務特設サイト/I2練馬斉藤法律事務所

 

 Twitterリツイート行為もいわゆる「インラインリンク」に該当するため、どちらもリンクに著作権侵害(またはその幇助)が認められた事例といえるでしょう。

 ただ、今回の判決は日常で当たり前のように行われている「リンク」が全て著作権侵害に該当するわけではないと思っています。

  個人的にリツイート事件の判決には納得がいっていないのですが、今回の判決も含めて改めて「リンクと著作権」について検討してみたいと思ってブログを書いてみます。

 

※本エントリーはkanekoが個人的興味に基づき、過去調べてまとめたものです。正確性等については保証できませんのであらかじめご了承ください。(間違っていたら修正しますのでご指摘お願いします。)

 

 まず今回のエントリーではリンクの形式を分類していこうと思います。

 

 1.リンクの分類

 リンクとは「他のWEBページ等のコンテンツ(リンク先)を直接参照できるようにする仕組み」のことであり、経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成29年6月)においては、リンク様態を以下の5つに分類しています。

 

サーフェスリンク 他のウェブサイトのトップページに通常の方式で設定されたリンク
※「通常の方式で設定されたリンク」とは、ユーザーがリンク元に表示された URL をクリックする等の行為を行うことによってリンク先と接続し、リンク先と接続することによってリンク元との接続が切断される場合のリンク
ディープリンク 他のウェブサイトのウェブページのトップページではなく、下の階層のウェブページに通常の方式で設定されたリンク
イメージリンク 他のウェブサイト中の特定の画像についてのみ設定されたリンク
インラインリン ユーザーの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて、リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンク
フレームリンク ウェブブラウザの表示部をいくつかのフレームに区切り、フレームごとに当該フレームと対応づけられたリンク先のウェブページを表示させる態様のリンク

 

  ただ、ここでは

  • リンク元のHPを閲覧するユーザーからの見え方
  • リンク先のウェブサイトやサーバに違法にアップロードされた著作物(違法コンテンツ)があるかどうか

で以下の4つに分類し、検討を行うことにします。

 

パターン①:合法コンテンツへの非一体型リンク

パターン②:違法コンテンツへの非一体型リンク

パターン③:合法コンテンツへの一体型リンク

パターン④:違法コンテンツへの一体型リンク

 

(1)非一体型リンクとは

 リンク元のウェブサイト等に表示されたURL(Uniform Resource Locator)を踏むことで、著作物等を含んだコンテンツのある別のウェブサイト等へ飛んでいく形式を指すものとます。

 この形式だとブラウザ上の別タブ(ウィンドウ)や別ブラウザが立ち上がることが多いため、リンク元を閲覧していたユーザーは「リンク先とリンク元とは別のコンテンツであること」が容易に認識できる状態です。

 例としては、サーフェスリンクやディープリンクを含む通常のハイパーリンクがあげられます。

サーフェスリンク:

http://kanegoonta.hatenablog.com/

ディープリンク

http://kanegoonta.hatenablog.com/entry/2017/12/10/130245

 

 

(2)一体型リンクとは

 リンク元のウェブサイトの中に埋め込むようにリンク先のコンテンツを表示させる形式を指すものとます。画面上、リンク元のウェブサイトとリンク先のコンテンツが一体になって表示されているため、技術上は複製されていないのですが、ユーザーからはあたかも複製されているようにみえます。

 例としては イメージリンク、フレームリンク、インラインリンクがあげられますが、ちょっと文字だけだとイメージしにくいと思うので画像を利用しながら説明していきます。

 

・イメージリンク

 一般的には HTML上のイメージタグ<img>を利用した画像に関するリンクのことをいうケースが多いと思います。

 

例えば以下の画像ですが

https://pbs.twimg.com/media/DZHiKd_UQAA-4at.jpg:large

 このエントリーのHTMLを見てみると以下になっており

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 この中に

https://pbs.twimg.com/media/DZHiKd_UQAA-4at.jpg:large

とあり、これはTwitterの画像が保存されているサーバから画像をもってきていることがわかります。 

※ちなみにこの画像は、kanekoが自分のアカウントで昔Twitterにアップした画像です。

 

・フレームリンク:

 HTML上のインラインフレームタグ<iframe>等を利用したリンクを指すものとします。従来は、自己のHPの一部に枠を作りその中にリンク先を表示させる使用方法が多かったのですが、現在では、主にYouTubeニコニコ動画等の動画共有サイトの動画を自己のウェブサイトに埋め込み型でリンクを行う際に使用されることも多いです。英語ではFramingやEmbeddingといった用語が使われるように思います。(詳細は作花文雄「詳解 著作権法 第5版」p665以降参照)

 古典的なフレームリンクとしては、例えば以下のサイトが分かりやすいかと思います。

 

情報ネットワーク法学会 第16回研究大会 会場案内のページ

 

HTMLのソースも合わせてみるとこんなイメージです。

 

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情報ネットワーク法学会 第16回研究大会 会場案内のページhttp://windy.mind.meiji.ac.jp/InLaw2016/Venue.htmlよりkenakoが一部加工

 

 見ていただければわかるかと思いますが、上記は情報ネットワーク法学会のHPの中に明治大学のHPがフレームリンクとして設定されています。

 ここでのポイントは、「技術的にはリンク元(ここだと情報ネットワーク法学会側)はリンク先のコンテンツ明治大学のHP)の複製も送信も行っていない(リンク先のコンテンツはリンク先のサーバからからユーザーに直接祖送信されている)」点です。

 

図にすると以下のイメージ

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情報ネットワーク法学会 第16回研究大会にてkanekoが個別発表した際の資料を一部加工 

 

動画共有サイトから埋め込み型リンクを使用するケースだと以下

 

www.youtube.com

ちなみにRADだと「もしも」 が一番好き

 

(3)インラインリンクについて

 一体型リンクの中にはインラインリンクも含まれますが、kanekoの理解では、インラインリンクは、イメージリンクとフレームリンクを含む概念と理解しています。

 リツイート事件で問題となったTwitterリツイート行為もインラインリンクと理解されていると思います。

「RTによる画像トリミングで著作人格権侵害」 知財高裁判決の意味と影響 弁護士が解説 - ITmedia NEWS

 

 なお、この事件に関しては控訴人(原告写真家)側の代理人である齋藤先生が以下のHPにおいてコメントを公表しております。

リツイート事件控訴審判決とコンバイニング(平成28年ネ10101号発信者情報開示請求事件)

以下、上記HPよりポイントとなりそうな部分を一部引用

控訴人が同一性保持権や氏名表示権、あるいは控訴審において追加した複製権侵害、公衆送信権侵害、公衆伝達権侵害を主張した土台となる技術は、コンバイニング(仮)(正式な用語法ではありません。)と、控訴代理人が読んでいる技術です。ここではコンバイニング(仮)とは、文章と画像データを結合したレンダリングデータを生成してクライアントコンピュータのブラウザに表示する技術です。

※コンバイニング(仮)はインラインリンクを含む広い概念で、インラインリンクを含むパターンと含まないパターンがあり得るそうです。

もっとも主張の中でインラインリンクとこれより広いコンバイニング(仮)という概念を明確に区別していたわけではなく、両概念の明確な区別は判決後に事案を整理するために行っています。ただし、実質的な控訴人主張は一審主張はインラインリンクを基礎に、控訴審追加主張はコンバイニング(仮)を基礎に行われており、リツイート事件控訴審判決を読む限り、このコンバイニング(仮)(データの結合行為)の著作者人格権侵害が認められた、と読み替えた方が正確或いは理解がスムーズではないかと感じています。また、そこまで広げないと判例の意図が正確に伝わらない懸念も感じています。

 

リツイート事件はリツイートそのものではなく、インラインリンクを審理対象とし、さらに、控訴人側からはインラインリンク(つまりリンクの延長のような事象)ではなく画像と文章の同時表示を目的としたコンバイニング(仮)というデータ結合行為の著作権著作者人格権侵害が主張され、データ結合行為の主体性が争われた事案である事にはご留意ください。

 この事件は今後判例研究の題材として論文が多く出ることが予想されますが、上記を踏まえて判決文をみていく必要がありそうです。

 

(4)【余談】直リンクについて

  よくkanekoも実務上「第三者のサイトに直リンクしてもいいですか?」という相談がくるのですが、ここでいう「直リンク」の意味が人によって

  • ディープリンク」のことを意味して使用しているケース
  • 「フレームリンク」等の一体型リンクの意味で使用しているケース

があって混乱するときがよくあります。

 通常は後者の意味で使用されていると理解しているのですが、違うケースもあるので法律相談をされた場合には「直リンク」という言葉は使用しないようにしています。

 

(5)リンク先が違法コンテンツかどうか

 リンク先のウェブサイトやサーバに違法コンテンツがあり、ユーザーは違法コンテンツに容易にアクセスが可能な状態を指すものとします。アクセス形態としては、ユーザーがリンク先で違法コンテンツをダウンロードするパターン又はユーザーがリンク先の違法コンテンツの動画をストリーミング再生したり、画像又は文章等を閲覧するだけのパターンが想定されます。

 

 (6)まとめ

 以上をまとめますと、リンクを分類するにあたり、まずリンクの様態から2つに分類しました。

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情報ネットワーク法学会 第16回研究大会にて個別発表した際の資料を一部加工

 

 そして、さらにリンク先のコンテンツが違法にアップロードされたコンテンツかどうかでさらに分けました。

 

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情報ネットワーク法学会 第16回研究大会にて個別発表した際の資料を一部加工

 

 上記パターンを踏まえて次回以降のエントリーでは各パターンごとに法的問題点を検討していきたいと思います。

 

 少し先出しでそれぞれのパターンに該当する事件でkanekoの知る限り当てはめてみると

パターン① 合法コンテンツへの非一体型リンク

知る限り日本の裁判例はなし。(って昔言ったらとある方からYOL事件はどうなの?って言われた)

EUだと「Svensson事件先決裁定(Svensson and Other v. Retriever sverige AB(C-466/12)」とか。

米国だと古いですが「Ticketmaster事件(Ticketmaster Corp. v. Ticket.com,inc. (C.D.Cal.Mar.27,2000,54U.S.P.Q2d.)」とか

 

パターン② 違法コンテンツへの非一体型リンク

 日本だとちょっと特殊ですが、「どーじんぐ娘。事件(LEX/DB 文献番号25446210)」。あ、DVD Shrink事件って裁判なったんでしたっけ?

いわゆるリーチサイトの議論は主にこのパターンの場合が多いですかね。

EUだと「GS Media事件先決裁(GS Media BV v. Sanoma Media Netherlands BV and Others(C-160/15))」とか

 

パターン③ 合法コンテンツへの一体型リンク

kanekoの知る限り日本で裁判になった事件はない、はず。

裁判ではないですが、まとめサイトの炎上の際には第三者委員会によってイメージリンク(直リンク)の法的問題点が検討されていました。

また、JASRACは「営利性のあるサイト(広告収入含む)に埋め込み型リンクで動画共有サイトの動画(音楽)を利用する」行為に関して、インタラクティブ配信の許諾手続きを求めていますね。(あ、kanekoはこのブログに広告収入設定してないっす。hatena側の広告表示がされてる件については知りません。笑)

EUはCJEUレベルだとない認識ですが、Svensson事件先決裁定の中でパターン③についても言及されています。

 

パターン④ 違法コンテンツへの一体型リンク

最初に言及したリツイート事件やインラインに著作権侵害の幇助が認められた事件、「ロケットニュース24事件(東京地判平成28年9月15日 平成27年(ワ)第17928号発信者情報開示請求事件)」が該当しますが、今後も増えていきそうですね。

EUのCJEUレベルだと「BestWater事件(BestWater International GmbH v. Michael Mebes and Stefan Potsch(C-348/13))」とか(ただし、CJEUにおいてReasoned Orderとして判決がだされており、かつリンク先が違法コンテンツであることが考慮された判決ではないようです。その後ドイツ国内においてどのような判決が下されたかはkaneko未確認)

米国だと「Perfect10事件(Perfect 10, Inc. v. Amazon.com, Inc., 508 F.3d 1146 (9th Cir. 2007)とかPerfect 10 v. Google,Inc., et al.,416 F. Supp. 2d 828(C.D. Cal. 2006))」。最近はTwitterのエンベットが著作権侵害になりうる判決がでている見たいですね。

米地裁、ツイートのエンベッドが著作権侵害にあたりうるとの判決を下す – P2Pとかその辺のお話R

 

こんな感じ?

 

 

つづく。

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【更新履歴】

6/23 インラインリンクに関する見解を追記・修正

自炊を始めてみた。

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料理でありません。念のため。

書籍の自炊を始めてみたのでメモ。

 

 

 

1 自炊までの流れ

(1)裁断機器とスキャナを買う

何事も始めるには道具がいります。

テニスを始めるにはラケットがいるように。

自分に合った道具探しは重要です。

ということで、Kanekoのネットリサーチ能力を駆使した結果、以下の相棒をチョイスしました。

  

富士通 ScanSnap iX500 (A4/両面)

富士通 ScanSnap iX500 (A4/両面)

 
DURODEX 自炊裁断機 ブラック 200DX

DURODEX 自炊裁断機 ブラック 200DX

 

 

(2)閲覧するデバイスを決める

のいずれかと思いますが、通常はタブレットでしょうか。

ちなみにkanekoはタブレット検討中です。

お勧めあれば教えてください!

 

(3)電子化する書籍を決める

おっとまだ裁断するのは早い早い。

まずは自炊する書籍をチョイスせねばなりません。

蔵書から電子化する書籍の優先順位を確定させます。

おそらく優先順位の決め方としては

対象となる書籍の利用頻度

対象となる書籍の電子化のしやすさでしょう。

Kaneko利用頻度としては

  • 法律書籍
  • ビジネス書籍
  • マンガ
  • 雑誌

の順なのですが、電子化のしやすさはまったく逆ですね。苦笑

 

(4)ファイル格納先を決める

次は電子化したファイルの格納先を決めましょう。

選択肢としては

でしょう。(自宅に自前のネットワークサーバを立てる奴は除く)

複数の端末からアクセスできることを踏まえると圧倒的にクラウドサービスですね。

kanekoはいったんDropboxをチョイス。

 

(5)書籍を裁断する

これを

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※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」なお、サイ太先生直筆サイン入り

 

こうして

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※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」くどいようですが、サイ太先生直筆サイン入り

 

こうじゃ

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 ※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」何度でも言いますが、サイ太先生直筆サイン入り

 

(6)スキャンする

両面&OCRでスキャン。紙詰まりもなくするすると読み込みます。

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 ※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」

 

きれいにスキャンできました。

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※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」

 

OCRをかければ文字読み取りも可能(ちょっと感動

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※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」

 

(7)ファイルを格納する

(3)でチョイスした場所にファイルを格納した完了!

 

 

2 自炊のメリット・デメリット

(1)メリット

  • 省スペース化

当たり前ですが書籍が占領していたスペースが空きます。床が見える!

  • アクセス性

クラウドサービスを利用すればアクセスするのにデバイスや場所を選びません。

  • 検索性

地味に使えるのがOCRでの検索。

特に調べたいことを論文の中から探すのに最適です。

 

(2)デメリット

裁断とスキャンがメンドイ

 これしかない。

金を出してもいいから自炊代行したい。

 

3 自炊と著作権について

(1)自炊と著作権

一応知財クラスタとして触れておきましょう。

自炊は著作物を複製(コピー)する行為ですので、著作権法上の問題がある場合があります。

自炊について詳細に解説されている基本書を探したところ、 三山裕三「著作権法詳説 判例で読む14章 第10版」(勁草書房、2016)において以下のように書かれていました。

 

  1. 購読者本人によるスキャン(複製)は30条でセーフである。
  2. 購読者本人が書籍等を裁断、廃棄しても書籍等の所有権を有する以上、所有権の侵害にはならず、また著作物を利用しているわけでもないから、著作権の侵害にもならない。
  3. 裁断済み書籍等を譲渡しても、譲渡権はファーストセールですでに消尽しているので、譲渡権侵害にはならない。
  4. 30条でセーフの複製物を配布したり、公衆に提示したりすると、目的外使用(49条)となりアウト(複製侵害)になる。

P339 

 

要は「基本は自分で自炊して楽しむ分には問題ないよ」ということです。

では自炊代行の場合(業者による自炊の手助けがある場合)はどうでしょうか

 

(2)自炊代行と著作権

先ほどの三山本では自炊代行を3パターンに分けて法的問題を以下のように考察しています。

 

1.業者が道具と場のみを提供する形態

 顧客自身が複製しているので著作権法上はセーフであり、顧客に不法行為が成立しない以上、従属説(直接侵害の成立が間接侵害の成立の前提であるとする考え方であり、ここでは顧客に著作権侵害が成立してはじめて業者にも著作権侵害が成立すると考えることになる)の立場に立てば業者は幇助にもならず、書籍等の売上減もない。

 

2.業者が裁断済み書籍を提供する形態

 顧客自身が複製しているので著作権法上はセーフであり、顧客に不法行為が成立しない以上、従属説の立場に立てば業者は幇助にもならず、また店舗外への持出しがなく占有の移転もないから、貸与権侵害にもならない。書籍の売上減があるので著者や出版社の立場からはアウトにしたいところだが、著作権侵害か否かは書籍の売上減(実害)があるか否かにより影響を受けないので、セーフという結論は変わらない。もっとも、貸しレコード問題のところで指摘したのと同様に、「業者の貸与行為」と「顧客による複製行為」を一連のものとしてとらえるならば、アウトという結論も可能かもしれない。

 

3.業者がスキャンを代行する形態(業者がスキャンするので正確には他炊である)

 業者による複製は30条1項の「使用する者が複製することができる」の規定に反しているのでアウトであると解される。書籍の売上減はないが、著作権侵害か否かの結論は書籍の売上減(実害)があるか否かにより影響を受けないので、アウトという結論は変わらない。

P339~340

 

上記だと「スキャンは購読者(利用者)本人が行うが、裁断を業者が行う場合はどうなのだろう」という疑問が。

 自炊代行は訴訟になっているため、判決文(知財高裁平成26年10月22日判決)をざっと読んでみますと、

「ロクラクⅡ」事件最高裁判決(平成23年1月20日判決)における枢要行為論を利用して

 

本件における複製は、書籍を電子ファイル化するという点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ、その枢要な行為をしているのは、法人被告らであって、利用者ではない。

 

と述べられています。

電子ファイル化作業=枢要行為

電子ファイル化作業を行う者=複製行為の主体

ということですので、「スキャンして電子ファイル化するのが誰か」がキーになるということかと思います。

ところで少し話しがずれるのですが、藤田晶子「著作権法判例における規範的主体論」(コピライト2016年5月号、2016)は自炊代行の事件にジュークボックス法理での当てはめを検討していて非常に興味深いです。

 

とすると、裁断を業者が行うのはOKなのかなーと思ってググってみたところ、

一時期話題になった「自炊の森」が裁断の代行サービスをやっていることに気づきました。(というか、営業再開してたんやなここ)

www.jisuinomori.com

 

適法性に関するページまでわざわざ作ってたんですね。(なお、中身についてはノーコメントで)

www.jisuinomori.com

 

というか、HPを見ると裁断代行だけでなく、三山本でいう「2.業者が裁断済み書籍を提供する形態」のパターンで今も営業しているっぽいですね。 取り扱えない作家リストもわざわざ作ってあるし。。。

 

 

おしまい。

 

エルレ復活

エルレ復活】
 契約書タイムバトルと同じ日にビックニュースが飛び込んできました。

 

www.huffingtonpost.jp

 

初めてエルレを聞いたのは高校2年生のときに友達から借りたアルバム「Riot On The Grill」で

 

アルバムの中の「RED HOT」と「虹」を初めて聞いたときは衝撃だったわけで

youtu.be

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※動画は全て公式YouTube動画のembedです。 

 

海外の人と間違えるくらい流暢な英語だったので、最初は(やたら日本語の上手い)外国人のバンドと誤解してたし

 

ELEVEN FIRECRACKERSのアルバムはMD(死語)に入れて壊れるまで聞きまくったし 

www.youtube.com

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カラオケで歌おうと思ったけど英語できなくて「ららららぁ~」で歌ったし

 

生まれて初めてのライブは幕張メッセエルレのツアーだったし

 

まぁ、青春が詰まっているわけです。

 

「17歳に聞いていた音楽は生涯聴き続ける」とかいうじゃないですか。(ソースは不明

 

kanekoの場合だとエルレの他にアジカンバンプ、ラッドであったり、

洋楽だとSimplePlan、Green DayAerosmithAvril Lavigneあたりなわけですが、

やっぱりいまだに聴き続けているわけですよ。

 

 それだけに、活動休止が発表された当時(たぶん大学生)は衝撃でした。

 

エルレが活動中止したあとは、The HIATUSとかNothing's Carved In Stoneとか聞いたけど

「やっぱこれじゃねぇな」と思ってたし 

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MONOEYESを聞いて「あ、なんかだんだん近くなってきたな」と思っていたところで。

www.youtube.com

 

もう10年ですか。

ようやくですか。

 

 

待ってました。

 久しぶりにライブ行きたいな。

 

 おしまい

契約書タイムバトルを観戦してきた。

 

法の専門家が決められた時間内にオンライン上の一つの契約書を編集しあうリーガルバトルゲーム「契約書タイムバトル」に観客として参加してきました。

概要はコチラ

 

Twitterのトレンド入りするくらい盛り上がりました。

 Togetterは↓

togetter.com

 

 

動画だとこんな感じでした↓

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個人的には「契約書なんかで盛り上がるのかな?」という感じを持っていましたが、予想に反して盛り上がりました。

 黙々と契約書を修正するのではなく、プロによるリングアナウンス、音響、はっしーさんの名司会(解説)によってお堅い契約書修正が見事にエンタメ化(e-sports化?)していました。

 

Twitterハッシュタグを追うと意外と法務以外の参加者の人が多いことに驚きつつも

このように(法務以外の人から見たらブラックボックスな?)法務の業務の一部が可視化されて法務以外の人にも認知されることになるのであれば法務の端くれとしては嬉しく思うのであります。

 

この企画には賛否両論あったと思うのですが(自分のTL上では少なくともそうでした)、個人的には面白いと思いましたし、今後も続けてほしいなと思います。

表彰の際に言われた

「AI vs 人間」の戦いも見てみたいものです。

 

個人的に勉強になったのは以下のポイント

 

  • 実態に合わせた契約書にする重要さ

改めて大事だなと。最後の伊藤先生の「訴訟になると契約書の文言の一字一句で争いになる。修正過程も含めて。」的なコメント(kanekoのうろ覚え)が響きました。

 

  • NDAにおける反社条項を削除するかという論点?がある。

 個人的には反社条項ってそこまで気にしてない(明らかに反社排除以上のレベル感の内容であったり、反社の対象に株主も含まれるような場合は修正するくらい。)のですが、ときどき削除してくる会社あるなぁと思ったり。

ちなみにkanekoはいつも

 

  • 最終手段はよくない

実はやられたことあるので。笑

 

  •  自社でやっても面白いかも

 

なるほど。これやったら面白そう。でもこれ実況(解説者)のスキルが大事だと思うんですよ。笑

 

おしまい。

【書評】詳解著作権法 第5版

 

詳解 著作権法(第5版)

詳解 著作権法(第5版)

 

 

 

待ちに待った作花文雄先生の著作権法の基本書です。

 

「詳解」と書かれている通り900ページ以上あるのでなかなかの分量です。

※通読するのに2ヶ月近くかかりました・・・

 

↓ぶあつい・・・

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まず、個人的感想としては、

「法務にオススメの一冊か」というより

「実務書というよりも学術書の性格が強い本なので人を選ぶ本」

という感じです。

 

以下、本書の特徴を挙げながら感想をつらつらと。

 【本書の特徴】

・日本だけでなく、海外判例もカバーしている

・時折見られる批判(作花説?)が興味深い

判例索引が使いやすい

・その他

 

 

・日本だけでなく、海外判例もカバーしている

 本書の最も特徴的なのはこの点でしょうか。

欧米の判例が非常に多く取り上げられています。過去作花先生がコピライトに載せた論文を要約して載せているようなイメージですが、分量は豊富ですので、日本法と比較しながら読むことができます。

特に、応用美術、間接侵害、(今話題の)サイトブロッキング、リンク、P2PGoogle Books訴訟、パロディといった分野は欧米の判例がしっかり解説されています。

海外判例の紹介については、(日本法の解説の箇所とは異なり)自説を述べるのではなく、淡々と判例の解説をしているイメージです。

また欧米の判例だけでなく、世界的な著作権法の歴史(もはや印刷技術史の解説)や著作権関連の条約もカバーされており、著作権法の国際的な枠組みも理解することができます。

 

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※EUにおけるリンクの解説

 

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著作権の歴史?

 

 

・時折見られる批判(作花説?)が興味深い

以下、いくつかピックアップしてみました。

中山著作権法に対して

例えば中山著作権法へのdisりとしてはこんな点が。

中山著作権法が「プログラムの著作物の創作性」について

『同じ「個性」という言葉を用いながらも、プログラムとその他の著作物(小説等)は異なる点を踏まえて、創作性概念を個性ではなく、表現の選択の幅として捉えるべきとしている』趣旨が書かれていることに関して、

しかし、プログラムの表現と小説等の表現に特性の差異があることは当然のこととしても、「個性」が「異なった概念」として用いられているわけでは必ずしもないと思われる。また、「表現の選択の幅」が存在することは、個性に基づく表現がなされる上での前提となるものであり、殊更に創作性概念を個性ではなく「表現の選択の幅」として捉える意味は、さほどないものと思われる。p68

といっていたり、「ありふれた表現」に関する捉え方についても批判的にコメントしています。あと46条の公開の美術の著作物の利用に関する箇所でも中山著作権法を痛烈に批判しています。

 

 島並・上野・横山「著作権法入門」に対して

初学者のスタンダードな入門書である「著作権法入門」に対しては、

島並・上野・横山「著作権法入門」(有斐閣、2009年)では、本書第3版284頁を引用しつつ、「後者の立場では、通常の喫茶店や理美容室での雑誌の店内貸出しは、実質的に非営利・無料の貸与(38条4項)であるとして救済せざるをえないが・・・」と述べられているが(152頁)、本書第3版では本版と同様に「・・・料理飲食店や理美容室院等における顧客の待ち時間用に供されており、当該利用行為に対して著作権法上の排他的権利を認める合理性はない。」(第3版285頁)と記述しており、第38条第4項の適用による救済などは想定しておらず、同書では拙著の趣旨を歪曲的に引用して論が展開されていると思われる。p264

と書かれています。

わざわざ脚注でたくさん書くほどなので

作花先生、かな~りご立腹であったことが推測されます。

でも著作権法入門はいい書籍ですよ!!(謎のフォロー

※ちなみに著作権法入門は2016年に第2版が発売されています(初版は2009年) 

 
著作権法上の「利用」と「使用」

 次に非常に興味深かったのがコチラ(中略はkaneko)

著作権法上、利用とは支分権の働く行為を意味し、使用とはそれ以外を意味しているとの説明がなされることもあるが(例えば、斉藤・著作権法55~57頁)、必ずしもそのような制定趣旨があるわけではない。・・・(中略)・・・少なくとも、著作権の支分権の対象となるか否かで言葉が使い分けられているわけではない。p209~210

えーーーーーーーーーーー

結構契約書をドラフトするとき等には先輩に指摘されることも多く、明確に使い分けされてると思ってたんですが違うんですか。個人的に衝撃です。

 

と思っていろいろ調べてたら同じように調べてるマンサバさんのエントリーを発見しました。

blog.livedoor.jp

他の基本書では使い分けの説明がちゃんとされてるのもあるみたいですね。

 

 フェアユースについて

賛否両論の多いフェアユースに対しては、

フェアユース規定がないために、現行著作権法は硬直的であり現実に対応し得ないという前提自体が、むしろ硬直的な考え方であると思われる。p330

ここまで言われるとしびれますね。笑

フェアユース規定がないから日本の著作権法はダメなんだ」という人への強烈なアンサーです。笑

このあたりの考え方は中山先生とは違う点かもしれません。

今回の改正法(柔軟な権利制限規定の創設)に対する作花先生の評価が聞きたいところです。

 

38条の条文構成への批判

38条(営利を目的といない上演等)第3項のわかりにくい条文構成について

前段と後段の書き分けにより、そのように解するのであるが、条文の作りとしては不明瞭なものと言わざるを得ない。このように、知っている人には分かるという条文は、現行法において散見されるが、立法技術として妥当なものではない。p356(下線部はkaneko)

「うんうん」と頷きながら読みました。

これは著作権法を勉強した当初からずーっと思っていることではありますが、(特許等のほかの知的財産法に比べて)著作権って一般の人も触れることの多い法律なのに分かりにくいですよね。正直条文だけ読んでもちんぷんかんぷんです。

 

法制執務用語研究会の「条文の読み方」(有斐閣、2012年)のはしがきには以下のように書かれています。

 

法律をつくる場合(あるいは、契約書などの条項をつくる場合も同じですが)は、条文は、何よりも一義的に明確、かつ、平易なものであることが重要になってきます。必ずしも専門家ではない、条文を読む普通の人々=一般の国民にとって、行為の予測可能性が確保できるよう、そして、予期せぬ不意討ちを受け無用なトラブルに巻き込まれることのないように、あらかじめ配慮しておくことが極めて大切になってきます。p1 

 (「いや、法制局の作る法律条文全般的に一般人にはわかりにくくね?」というご指摘はここではなしでお願いします。苦笑)

例えば、今回の著作権法改正の条文案(前のブログ参照)だけを見て理解できる人ってどれくらいいるのでしょうか。少なくとも一般の人には難解すぎると思います。

個人的な感覚ですが、著作権法って身近な法律であるにもかかわらず、間違った理解をしている人が多いと思ってます。(企業の法務部員でさえ間違った理解をしている人が結構います。。。)

そして、間違った理解をした人が第三者にドヤ顔?で間違った指摘することも多いように思われます。

というわけで、もっとわかりやすい条文にしてほしいなと思うところです。(「契約書って何書いてあるかよくわかんないので確認してください!」という営業からのメールを見て遠い目をしながら)

 

 

 ・判例索引が使いやすい

この手の基本書は判例索引が最後についているのですが、判決の日付順になっており、使いにくいと感じることが個人的によくあります。

本書は「事件名のあいえうお順」になっているため、使いやすいです。

 

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著作権の事件は変わった名前の事件も多いことがわかります。

 

 

 ・その他

以下、箇条書きに

  • オランダ著作権法では、写真の著作物について、被写体である者が自ら写真を複製する行為は制限規定で許される(知らんかった)p95
  • 著作権判例百選事件について、「本件の著作者性の認定の是非はともかくとして、この分野の刊行物の企画・編集の舞台裏が詳らかにされている点では、珍しい事案と言える」とコメントしていて個人的に笑ってしまった。

 

なお、本エントリーに合わせて、過去投稿したオススメ著作権本のエントリーも一部修正しました。

kanegoonta.hatenablog.com

 

 

おしまい。

【メモ】今月のビジネスロージャーナル

 

 

どうでもいいのですが、このツイートとても好きです。

 

というわけで最近ブログ更新できていなかったので更新。

 

今月のビジネスロージャーナルのうち、いくつか気になった記事の感想をメモ。

Business Law Journal(ビジネスロー・ジャーナル)2018年 06 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロー・ジャーナル)2018年 06 月号 [雑誌]

 

 

↓メモした記事

 

 

【あの商品を支える知財法務のチカラ 「脱臭炭」】

エステーの法務の方へのインタビュー。

気になったのは「この商品の肝ともいえるゼリー状の炭に関する特許出願明細書は、急いで作成し、弁理士に相談する余裕もなくそのまま出願したぐらいです。」という1文。

どの特許だろうと思って調べてみました。

 

J-PlatPatで

「権利者:エステー」and「全文:炭」で雑に検索し、2000年頃に出願された特許を閲覧してみると、いくつか該当しそうなのがヒット。

「特開2001-157706」あたりかな。

出願内容はこちら

 

請求項1が「 炭素系またはシリカ系吸着剤をゲル中に分散してなるゲル状脱臭剤」なのでこれかなぁと。(間違ってるかもしれません。)

 

ちなみに請求項は修正されていますが、2010年に特許になっている模様(特許第4562838号)。10年くらいかかったんですね。

 

 

【上場会社のD&O保険の論点と社内手続】

オリックのポートフォリオ管理部の方の記事。

D&O保険って

  • 支払限度額どうするか
  • 補償範囲をそうするか
  • カバーする地域的範囲をどうするか(現地証券を発行するか)

は本当に悩ましいと個人的に感じます。

(決裁権限のある(可能性の高い)役員の方々は自分の身を守るためのものでもあるので「高ければ高い方がいい」というのでしょうが・・・)

「各社の個別事情が反映されるものであり、一概に一般化できない部分も少なくない」と書かれているとおり、企業の業種・規模等によって変わってくるとは思いますが、適切な落としどころを見極めていきたいものです。

「ふむふむ」と思った点は以下3点

  • 支払限度額が適切かどうか、最終的な判断のよりどころは「もし株主や投資家にD&O保険の情報を開示した場合に、理論性前途説明できるかどうか」
  • 支払限度額は一般的な東証一部企業だと7~10億。意識高いと50億以上
  • 国によっては現地証券発行していないとマズイ
  • 米国型D&O保険が必ずしも適切ではない(比較するといい保険に見えてしまうけど不要な補償も結構ある。内枠方式だとクリティカルではない部分で貴重な支払限度額を使ってしまうかも。)

 

外国人役員がいる場合は外国基準を求められるケースもあると思うので難しいよなぁと。

ちなみに、保険料の役員個人負担が一定条件の下、会社負担にできるようになったのは画期的だと当時思いました。外国人役員がいると大変なんですよねこれ(遠い目

 

【AIによる個人情報の取扱いの留意点】

「ふむふむ」と思った点は以下

  • 取得時には要配慮個人情報を含まないが、AIの推論の結果、出力される個人情報に要配慮個人情報が含まれる場合は要配慮個人情報の取得には該当しないと思われるが、実務的には同意とっておくのが無難
  • 利用目的の特定(個人情報保護法15条1項)は、一連の取扱いにより最終的に達成しようとする目的を特定することを求めているため、「AIを用いる」というここの取扱いのプロセスを利用目的として特定することは必ずしも求めていないが、「AIを用いる」ことが事業の重要な内容となっている場合には利用目的として含めるのが無難。
  • AIによる推論の結果(評価)自体は訂正等請求の対象にならない。

 

【債権法改正がシステム・ソフトウェア業界に与える影響】

今回は「定型約款の規定が利用規約にどう影響を与えるのか」という点の解説。

この分野は民法改正の本を読んでもあまり記載がされていない部分なので助かります。利用規約の内容をどうするか(不当条項が含まれているか)、同意はどのように取得するのか、変更時はどのような手順をとるか、といった点は個人情報保護法における同意の取得の話と合わせて考える必要ありますよね。

利用規約を作成する側としては、ここも悩ましいところです。(裁判例も少ないですし)

 

企業会計法】

ICOの会計処理」がテーマなので興味深く拝見しました。

ただ、前提となる会計知識の不足を感じました。勉強しよう。。。

 

【法務部門における品質確保・向上の方法論】

個人的にここに課題感をもっているので、参考になりました。第1回から読み直そうかな。

 

 

ところで、なんか今月号、T○Iの人の記事が多くないですか?気のせい?笑