待ちに待った作花文雄先生の著作権法の基本書です。
「詳解」と書かれている通り900ページ以上あるのでなかなかの分量です。
※通読するのに2ヶ月近くかかりました・・・
↓ぶあつい・・・
まず、個人的感想としては、
「法務にオススメの一冊か」というより
「実務書というよりも学術書の性格が強い本なので人を選ぶ本」
という感じです。
以下、本書の特徴を挙げながら感想をつらつらと。
【本書の特徴】
・日本だけでなく、海外判例もカバーしている
・時折見られる批判(作花説?)が興味深い
・判例索引が使いやすい
・その他
・日本だけでなく、海外判例もカバーしている
本書の最も特徴的なのはこの点でしょうか。
欧米の判例が非常に多く取り上げられています。過去作花先生がコピライトに載せた論文を要約して載せているようなイメージですが、分量は豊富ですので、日本法と比較しながら読むことができます。
特に、応用美術、間接侵害、(今話題の)サイトブロッキング、リンク、P2P、Google Books訴訟、パロディといった分野は欧米の判例がしっかり解説されています。
海外判例の紹介については、(日本法の解説の箇所とは異なり)自説を述べるのではなく、淡々と判例の解説をしているイメージです。
また欧米の判例だけでなく、世界的な著作権法の歴史(もはや印刷技術史の解説)や著作権関連の条約もカバーされており、著作権法の国際的な枠組みも理解することができます。
※EUにおけるリンクの解説
※著作権の歴史?
・時折見られる批判(作花説?)が興味深い
以下、いくつかピックアップしてみました。
中山著作権法に対して
例えば中山著作権法へのdisりとしてはこんな点が。
中山著作権法が「プログラムの著作物の創作性」について
『同じ「個性」という言葉を用いながらも、プログラムとその他の著作物(小説等)は異なる点を踏まえて、創作性概念を個性ではなく、表現の選択の幅として捉えるべきとしている』趣旨が書かれていることに関して、
しかし、プログラムの表現と小説等の表現に特性の差異があることは当然のこととしても、「個性」が「異なった概念」として用いられているわけでは必ずしもないと思われる。また、「表現の選択の幅」が存在することは、個性に基づく表現がなされる上での前提となるものであり、殊更に創作性概念を個性ではなく「表現の選択の幅」として捉える意味は、さほどないものと思われる。p68
といっていたり、「ありふれた表現」に関する捉え方についても批判的にコメントしています。あと46条の公開の美術の著作物の利用に関する箇所でも中山著作権法を痛烈に批判しています。
島並・上野・横山「著作権法入門」に対して
初学者のスタンダードな入門書である「著作権法入門」に対しては、
島並・上野・横山「著作権法入門」(有斐閣、2009年)では、本書第3版284頁を引用しつつ、「後者の立場では、通常の喫茶店や理美容室での雑誌の店内貸出しは、実質的に非営利・無料の貸与(38条4項)であるとして救済せざるをえないが・・・」と述べられているが(152頁)、本書第3版では本版と同様に「・・・料理飲食店や理美容室院等における顧客の待ち時間用に供されており、当該利用行為に対して著作権法上の排他的権利を認める合理性はない。」(第3版285頁)と記述しており、第38条第4項の適用による救済などは想定しておらず、同書では拙著の趣旨を歪曲的に引用して論が展開されていると思われる。p264
と書かれています。
わざわざ脚注でたくさん書くほどなので
作花先生、かな~りご立腹であったことが推測されます。
でも著作権法入門はいい書籍ですよ!!(謎のフォロー
※ちなみに著作権法入門は2016年に第2版が発売されています(初版は2009年)
著作権法上の「利用」と「使用」
次に非常に興味深かったのがコチラ(中略はkaneko)
著作権法上、利用とは支分権の働く行為を意味し、使用とはそれ以外を意味しているとの説明がなされることもあるが(例えば、斉藤・著作権法55~57頁)、必ずしもそのような制定趣旨があるわけではない。・・・(中略)・・・少なくとも、著作権の支分権の対象となるか否かで言葉が使い分けられているわけではない。p209~210
えーーーーーーーーーーー
結構契約書をドラフトするとき等には先輩に指摘されることも多く、明確に使い分けされてると思ってたんですが違うんですか。個人的に衝撃です。
と思っていろいろ調べてたら同じように調べてるマンサバさんのエントリーを発見しました。
他の基本書では使い分けの説明がちゃんとされてるのもあるみたいですね。
フェアユースについて
賛否両論の多いフェアユースに対しては、
フェアユース規定がないために、現行著作権法は硬直的であり現実に対応し得ないという前提自体が、むしろ硬直的な考え方であると思われる。p330
ここまで言われるとしびれますね。笑
「フェアユース規定がないから日本の著作権法はダメなんだ」という人への強烈なアンサーです。笑
このあたりの考え方は中山先生とは違う点かもしれません。
今回の改正法(柔軟な権利制限規定の創設)に対する作花先生の評価が聞きたいところです。
38条の条文構成への批判
38条(営利を目的といない上演等)第3項のわかりにくい条文構成について
前段と後段の書き分けにより、そのように解するのであるが、条文の作りとしては不明瞭なものと言わざるを得ない。このように、知っている人には分かるという条文は、現行法において散見されるが、立法技術として妥当なものではない。p356(下線部はkaneko)
「うんうん」と頷きながら読みました。
これは著作権法を勉強した当初からずーっと思っていることではありますが、(特許等のほかの知的財産法に比べて)著作権って一般の人も触れることの多い法律なのに分かりにくいですよね。正直条文だけ読んでもちんぷんかんぷんです。
法制執務用語研究会の「条文の読み方」(有斐閣、2012年)のはしがきには以下のように書かれています。
法律をつくる場合(あるいは、契約書などの条項をつくる場合も同じですが)は、条文は、何よりも一義的に明確、かつ、平易なものであることが重要になってきます。必ずしも専門家ではない、条文を読む普通の人々=一般の国民にとって、行為の予測可能性が確保できるよう、そして、予期せぬ不意討ちを受け無用なトラブルに巻き込まれることのないように、あらかじめ配慮しておくことが極めて大切になってきます。p1
(「いや、法制局の作る法律条文全般的に一般人にはわかりにくくね?」というご指摘はここではなしでお願いします。苦笑)
例えば、今回の著作権法改正の条文案(前のブログ参照)だけを見て理解できる人ってどれくらいいるのでしょうか。少なくとも一般の人には難解すぎると思います。
個人的な感覚ですが、著作権法って身近な法律であるにもかかわらず、間違った理解をしている人が多いと思ってます。(企業の法務部員でさえ間違った理解をしている人が結構います。。。)
そして、間違った理解をした人が第三者にドヤ顔?で間違った指摘することも多いように思われます。
というわけで、もっとわかりやすい条文にしてほしいなと思うところです。(「契約書って何書いてあるかよくわかんないので確認してください!」という営業からのメールを見て遠い目をしながら)
・判例索引が使いやすい
この手の基本書は判例索引が最後についているのですが、判決の日付順になっており、使いにくいと感じることが個人的によくあります。
本書は「事件名のあいえうお順」になっているため、使いやすいです。
著作権の事件は変わった名前の事件も多いことがわかります。
・その他
以下、箇条書きに
- オランダ著作権法では、写真の著作物について、被写体である者が自ら写真を複製する行為は制限規定で許される(知らんかった)p95
- 著作権判例百選事件について、「本件の著作者性の認定の是非はともかくとして、この分野の刊行物の企画・編集の舞台裏が詳らかにされている点では、珍しい事案と言える」とコメントしていて個人的に笑ってしまった。
なお、本エントリーに合わせて、過去投稿したオススメ著作権本のエントリーも一部修正しました。
おしまい。