という少々煽った?題名をつけてみましたが、
先日ビジネスロージャーナルの池村先生の記事*1を読んだ後に早稲田大学で上野先生のH30年著作権法改正に関する講演を聴いてきたのですが、AIを含む情報解析を生業とする企業にとっては影響が大きい部分がありそうだったのでメモ。
1.著作権法大改正?
今年の著作権法に関係する改正は多岐にわたり、
だけでなく、
- デジタル教科書関連の対応が含まれる「学校教育法等の一部を改正する法律」
- TPP関連の「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(保護期間延長、一部非親告罪化、アクセスコントロール対応等)
- 一般継承による著作権移転の対応要件の変更が含まれる「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」
と盛りだくさんとのこと。
kanekoもカバーできていない部分もたくさんありました。
2.柔軟な権利制限規定
これらの改正の中でも機械学習(AI)系で影響がありそうなのは柔軟な権利制限規定の項目です。今回の改正の目玉の一つだと思います。
池村先生の記事の中では
「柔軟な権利制限規定」は、かつての「権利制限の一般規定」「日本版フェア・ユース規定」から名称こそ変化を遂げているものの、その意味するところは実質的に同一である。
と書かれている通り、日本版フェアユースとやらがついに導入されたわけですね。よく内閣法制局とおったなーというのが素直な感想です。
著作物の利用に関して権利者の利益を害するレベルを3つに分けて各条文が作られているわけですね。
池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126)より
今回の改正法は現行法をゴッソリ変更しているため、対応関係を理解するのが大変です。特に47条シリーズはカオスの一言です。
池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126)より
今回の改正は司法試験受験生泣かせの改正かもしれません(上野先生がそうおっしゃってました。)。
弁理士試験に関しても、現在は論文試験には著作権法はありませんが、短答にはありますので、少なからず影響しそうです。(不競法改正もありますからね。)
3.AI関連で関係がありそうな条文(改正法30条の4と47条の5)
さて、AI関連で影響がありそうなのは改正法30条の4と47条の5になります。
改正法の条文はこちら(新旧対照表)
(Ⅰ)30条の4 非享受利用
なんやねん、非享受利用って!意味わからんやん!
と思ったあなた。まったくの同感です。
非享受利用とは、「視聴者等(需要者)の知的又は精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないこと」のよう。
「視聴する人が一応見てはいるけど、楽しんだり鑑賞したりしない行為」はある程度OKよということかな。
AI関連では2号がメインですが、1号から順に見ていきましょう。
(1)第1号 技術開発・実用化のための試験の用に供するための利用
「動画圧縮技術の開発のためにテレビの放送番組を実用的に録画・変換すること」が例としてあげられているように、現行法30条の4の規定がほぼそのまま残っているイメージ。
ただし、以下点が現行法と異なるので注意。
・未公表著作物も対象
・但書による限定(されるものの現行法で許容されていた範囲は引き続き許容されるよう)
(2)第2号 情報解析のための利用
日本で機械学習が許容される根拠としておなじみの現行法47条の7がこちらにジョイン。権利範囲も拡大しています。
変更のポイントは下記とのこと。
- 「情報解析」の定義の変更
「情報解析」の定義から「統計的な」が削除されたため、統計的ではない解析行為も許容されるようです。
- コンピュータを用いない情報解析も許容
(上野先生いわく、「新聞記事の解析のために紙でコピー」、「テレビ番組の解析のための録画」も含まれることになるとのこと)
- 複数主体による情報解析も許容
情報解析を行う第三者のために、著作物を複製し、当該第三者に譲渡や公衆送信することも許容されるよう。(上野先生いわく、「他社のためにAI開発用データセットを作成、複数事業者で共有」も可能とのこと)
現行法で複数事業者(各社で役割分担をしているようなケース)で機械学習を行う場合の懸念が解消されたわけですね。
機械学習系だと
・自社では完結できずに第三者に委託したり、第三者からデータセットを購入したりする場合
があると思うのでこの内容はいい意味で影響が大きいです。
なお、1号と同じく但書による制限があるので注意。現行法で規定されていた解析用データベース著作物については引き続き許容されないもよう。
(3)第3号 電子計算機による知覚認識なき利用
情報通信設備のバックエンドで行われる著作物の蓄積等の行為が許容されるよう。
なお、第1号から第3号はあくまで例示であり、これらに該当しない行為についても非享受利用なのであれば30条の4柱書が受け皿規定として機能する可能性があるとのこと。(リバースエンジニアリングも柱書によって許容される)
※3号は、1号と2号の受け皿規定のようにみえるがそうではない。
(Ⅱ)47条の5 新たな知見・情報を創出する電子計算機器による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等
現状許容されているインターネット検索サービス(現行法47条の6)を拡大させた条文です。AI関連では第1項第2号と第2項が影響しそうです。
(1)第1項第2号 情報結果&結果提供サービス
「電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること」が許容される条文です。
30条の4第2号と異なり、非享受利用である必要はありません。(軽微利用の条件はありますが)
池村先生の記事には
2号は、新30条の4第2号(現47条の7)で権利制限の対象とされている情報解析の結果提供に伴う軽微利用を対象とするものである。現行法では、情報解析の結果提供に伴う著作物利用は、引用(32条1項)の範囲で行う必要があったが、改正により軽微利用に限定されるものの広く可能となり、AIを用いた各種調査解析サービス等への活用が期待される。
と書かれている通り、機械学習の結果の提供についても引用の要件を満たす必要がないようです。
ただ、上野先生が以下のように述べられていることからも(ちょっと混乱するのですが)許容される範囲は狭いように思われます。
あくまで情報解析の「結果を提供」するものである必要があるため、現存の著作物を学習したAIがその創作的表現を出力することが許容されるわけではない
[例]全ての鳥山明マンガを解析して同人の画風で作品を生成できようになったAIが、結果として現存のキャラクターと類似するイラストを生成した場合
ここはkanekoもまだうまく咀嚼できていません。
(2)第2項
池村先生の記事に
2項は、1項の適用を受ける者のために行われる各種データセットの作成や提供を権利制限の対象とするものであり、検索サービス用データベースやAI学習用データセットの作成や提供が想定されている
と書かれているとおり、30条の4第2号の説明で触れたのと同様にデータセットの提供を許容する内容になっているようです。
4.最後に ~H30年改正著作権法はAIの発展を後押しするのか~
後押しすると信じたい。
少なくとも権利制限規定の幅は広がっているため、著作権法上AI関連業務のできる範囲は広がっているように感じます。上野先生は現行47条の7を根拠に「日本は機械学習パラダイス」と述べておりましたが、よりパラダイスになると信じたいですね。
🔭コラム:機械学習パラダイス(上野達弘) – 早稲田大学知的財産法制研究所[RCLIP]
ただ、どうしても条文が長文で非常にわかりにくい内容になっていると思うので、これらの条文の適用を検討する場合には慎重にあてはめを行う必要がありそうです。
柔軟な権利制限規定とは「ある程度抽象的な」規定ですので、今まで以上にグレーな部分がでてくると思います。これらの規定の適用を検討する企業側としてはリスクを検討した上でビジネスジャッジしていく必要がありそうです。
今回は深くは紹介しませんでしたが、47条の5第1項第3号は政令に委ねられており、このあたりについては今後も引き続きウォッチしていきたいと思います。
*1:池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126))