俺的オススメ著作権本紹介
これは法務系 Advent Calendar 2017のエントリーです。
どうも。最近同僚に「米津玄師の髪を薄くしたような髪型してるね」と言われたkanekoです。それは褒められているのでしょうか・・・
みねメタルさんからバトンを受け取りました。
dtkさんのエントリーに触発され?なんとなくこんなことを呟いてしまったので
よーし。ブログは(独断と偏見に基づく)オススメ著作権本紹介にしよう。
— kaneko (@kanegoonta) 2017年12月2日
『著作権を体系的に勉強していく(知識をインプットする*1)うえで参考となる書籍』をkanekoの独断と偏見により書いてみることにします*2。
著作権法という法律の世界ではマイナー?な分野*3かと思いますので、基本的には自己満ですが、少しでも皆様の参考になれば幸いです。
なお、各書籍にはAmazonのリンクを貼っていますが、アフィリエイトリンクではないです。
【目次】
- 1.著作権を全く知らない人向け(新書レベル:だいたい200頁以内)
- 2.著作権をこれから勉強しようと思う人向け(300頁くらい)
- 3.本格的(体系的に)に勉強したい方向け~基本書シリーズ~
- 4.もはや趣味
レベルに応じて以下の流れで読んでいくといいと思います。
初心者:1.⇒2.
本格的に勉強しなおしたい人:2.⇒3.
3.だけじゃ物足りない人:とりあえず4.
1.著作権を全く知らない人向け(新書レベル:だいたい200頁以内)
非法学部の人も含めて著作権をゼロベースで勉強したい人にまず手にとって欲しい本をいくつかチョイスしてみました。
①福井健策「18歳の著作権入門」(2015年)
わかりやすい文章に定評のある福井先生の数ある書籍の中でも一番のオススメ。
☆オススメポイント☆
・文章としての分かりやすさだけでなく、写真や実際の事例も(新書としては)豊富なので全く著作権を知らない人にはまずこの書籍をオススメしています。
個人的にはミッフィー対キャッシー事件や廃墟写真事件を例にした著作権侵害の説明はとてもわかりやすいので何回も読みなおしています。(例えば、翻案権侵害の「原著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる」とかって正直文字だけ見ても意味わかんないじゃないですか)
なお、想定読者の中心は「18歳以上の学生や若い社会人」とのことで、この世代にはストライクな?話題がチョイスされています*4。が、心が18歳であれば、問題ないでしょう!!
②鷹野凌「クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。」(2015年)
クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本
- 作者: 鷹野凌
- 出版社/メーカー: インプレス
- 発売日: 2015/04/24
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (3件) を見る
クリエイター向けにはこの1冊。あ、これも福井先生の監修ですね。
☆オススメポイント☆
・会話形式で著作権についての説明がされており、自然と著作権とは何か理解できるような工夫がされています。
なお、書籍以外でクリエイター向けだと最近特許庁が出した「デザイナーが身につけておくべき知財の基本」の資料なんかも参考になりますね*5
③池村聡「はじめての著作権法」(2018年)
上記以外だと池村先生の「はじめての著作権法」も外せません。
☆オススメポイント☆
・わかりやすくしつつも必要最低限の基礎知識を入れ込んでいる
・具体的事例(裁判例含む)を挙げながら、説明をされているので著作権初心者でも著作権法全体のイメージを掴むことができます
書評はこちら↓
また、著作権だけでなく、知財全般としては【稲穂 健市「楽しく学べる「知財」入門」(2017年)】なんかはオススメです。インパクトのある表紙がtwitterでバズってましたね。
あとは、書籍ではないのですが、コピライトで小坂先生が連載されている「コピライト・ビギナー ―著作権のボーダーラインを学ぶ判例入門―」も(読者としては著作権に疎い法務の人をターゲットにしているものの)著作権法上の白黒を見極める上で非常にわかりやすい内容となっていてオススメなんですけど、これ書籍化されたりしないですかね?(特定の方面をじっと見つめる)
2.著作権をこれから勉強しようと思う人向け(300頁くらい)
1.を見て著作権法について大まかに理解した人や法律のバックグラウンドを持つ人向けへのオススメ本です。スタンダードな入門書の他、いくつか業界別のオススメもピックアップしてみました。
④島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門 第3版」(2021年)
個人的入門書のスタンダード。若手知財学者*6によるわかりやすい説明が特徴です。初版が発売された2009年以降に著作権を勉強した人はこの書籍をベースにしている人も多いのではないでしょうか。
☆オススメポイント☆
・わかりやすさだけでなく、(入門書にもかかわらず)参考文献等の脚注情報が豊富。
・共著(章ごとに担当を分けている)であるにもかかわらず、ブレがほとんどないと感じます。
・令和2年改正に対応
※こんなかんじ(上記は第2版の画像です。)
※裁判例の紹介。比較写真があるのでわかりやすい。(上記は第2版の画像です。)
⑤高林龍「標準 著作権法 第4版」(2019年)
④の島並他著作権法入門と並んでわかりやすいというご意見も多い高林著作権法。ところで上野先生も高林先生も早稲田の教授だったと認識しているのですが、早稲田の学生はどちらの書籍を使うのでしょうか。
☆オススメポイント☆
・わかりやすさを念頭に書かれているが、各論点(例えば応用美術)に関しては詳細に解説されている。
・令和2年改正に対応
※こんなかんじ (上記画像は第3版です。)
⑥茶園成樹編「著作権法 第2版」(2016年)
「上記2つ以外では?」と聞かれると、この茶園シリーズ*7の著作権法でしょう。
☆オススメポイント☆
・章の中の各節ごとに最初にポイントや事例が書かれた後に本文が始まるので、理解しやすい。
・理解しにくい用語については解説項目をいれている。
・上記の2つの入門書より内容としてはあっさり書かれている印象です。
※こんなかんじ
⑦その他業界別
分野別だとこちらでしょうか。
・インターネット分野
福井健策編「インターネットビジネスの著作権とルール (エンタテインメントと著作権―初歩から実践まで5)」(2020年)
著作権以外も含まれますが、松井茂記・鈴木秀美・山口いつ子編「インターネット法」(2015年)
なお、この手の勉強を始めると必ずぶつかる「この謎のIT用語ってなんや」問題を解決するために1冊持っておくとよい本は影島広泰「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典 」(2021年)
書評はコチラ(下記は旧版です。)↓
・音楽分野
福井健策編「音楽ビジネスの著作権(第2版) (エンタテインメントと著作権-初歩から実践まで-3)」(2016年)
高木啓成「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」(2020年)
安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 6th Edition 」(2021年)
安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 6th Edition」(2021年)
・出版分野
福井健策編「出版・マンガビジネスの著作権(第2版) (エンタテインメントと著作権-初歩から実践まで-4)」(2018年)
・広告分野
志村潔「『広告の著作権』実用ハンドブック 」(2018年)
書評はコチラ↓
書評はコチラ↓
・ゲーム分野
福井健策編「映画・ゲームビジネスの著作権(第2版) (エンタテインメントと著作権-初歩から実践まで-2)」(2015年)
・ファッション分野
初心者向けではありませんが、角田政芳・関真也「ファッション・ロー」(2017年)。コスプレと著作権についても言及されている書籍です。
書評はコチラ↓
3.本格的(体系的に)に勉強したい方向け~基本書シリーズ~
いわゆる「基本書」です。コンテンツ系法務の机に1冊はあるのではないでしょうか。
⑧中山信弘「著作権法 第3版」(2020年)
もはや説明は不要でしょう。著作権の基本書といえば本書を挙げる方が多いかと。800頁越えのため、通読するのはキツイかもしれませんが、頑張りましょう(第2版から100頁くらい増えてる)。
☆オススメポイント☆
・「あれ、これってどうなってたっけ?」と疑問思ったときの調べ先
・脚注の情報(裁判例や参考文献)が豊富なため、不明点は脚注の文献からたどって確認できる
・法制度の背景もしっかり記載されている
なお、令和2年改正については、巻末補遺で解説する形式になっており本文でアップデートされていないことに注意です。(令和2年改正に関する解説についても改正内容の紹介に終始しており、中山先生個人の見解があまり反映されていません。)
⑨岡村久道「著作権法 第5版」(2020年)
今や個人情報保護法等のサイバー法の第一人者のイメージが強い岡村先生の著書(書籍の構成も「個人情報保護法 第3版」に近いかもしれません。)。
中山著作権法ともう一冊買う余裕があるのであれば個人的には本書をオススメします。
☆オススメポイント☆
・改訂スピードがとにかく速い(令和2年改正にいち早く対応。リツイート事件最高裁判決もフォロー)
・図解が豊富
・注が本番(注の私見が興味深い)
・基本書でありながら、著作権法の理論だけでなく、実務(契約実務と訴訟)の面からも書かれている
・読者へのフォローアップが手厚い*8
※翻案と複製の違い(上記は第4版の画像です。)
※権利関係が複雑な映画の著作物の著作者・著作権者(上記は第4版の画像です。)
個人的には中山著作権法で「いまいち理解できないなー」というところを本書で確認することが多いです。
詳しい書評はコチラ↓
⑩三山裕三「著作権法詳説 第10版」(2016年)
副題に「判例で読む14章」と書かれているとおり、判例分析を中心に構成されています。
三山先生は去年まで理科大MIPにて教鞭をとられており、個人的には理科大MIPのトップ3に入る満足度の講義でした。
ちなみにちょいとお高い(定価7000円)ため、版が古いのを中古で買うのもありですが、版が古いと縦書きの場合があるので注意です。(少なくとも10版は横書き)
☆オススメポイント☆
・判例の紹介が豊富
・コラムが非常に興味深い
※製作委員会方式の説明
※ネット上における著作権侵害時の裁判所管轄と準拠法
⑪その他
訴訟に特化した書籍としては
高部 眞規子「実務詳説 著作権訴訟 第2版 」(2019年)とかどうでしょうか。
あとは挙げるとすると
・作花文雄「詳解著作権法 第5版」(2018年)
・田村善之「著作権法概説 第2版」(2001年)
とかでしょうか。
作花文雄「詳解著作権法 第5版」の書評はコチラ↓
田村先生の本はいつか改訂版でるのでしょうか。。。
4.もはや趣味
趣味です。ええ。
⑫加戸守行「著作権法逐条講義 七訂新版」 (2021年)
現行著作権法の起草者である加戸先生(私、あのマフラーが気になります!)の著作。
人によっては、基本書の一つとして位置づけている方もいらっしゃるかと。
研究をするならまず必要。実務では・・・あまり使うことはないような気もしますがどうでしょうか。
(加戸先生が亡くなった後も改訂されて...おっと誰か来たようだ)
⑬小倉秀夫・金井重彦編「著作権法コンメンタール 改訂版 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」(2020年)
ゼミ生OBの端くれとして紹介しないわけにはいかないでしょう。
小倉金井著作権法コンメンタールがついに改訂されました(2020/10/16発売)
以下のアップデートがあります。
・令和2年改正まで対応
・1冊→3冊構成(鈍器を卒業)
・1,777頁→合計2,204頁
・14,000円(税抜)→合計21,100円(税抜)
旧版の分厚さがなつかしい。。。(写真は旧版の画像です。)
⑭松田政行「著作権法プラクティス」(2009年)
著作権法上の重要論点について30問の設問を設定し、それに対する解説がなされている書籍(2009年の出版)です。
新司法試験(著作権)での論文対策が前提になった解説がなされていますが、図表が(思ったより)豊富で説が分かれる論点はそれぞれの説の比較表が付されていたりと、一通り著作権を勉強した上で論点整理のために読むといいかもしれません。
2010年以降の改正には対応していないので注意です。
※インタラクティブ配信に関する説明
⑮山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」(2011年)
勉強用というよりも読み物として。
著作権法改正の立法過程を検証し批判的に述べた著書。著作権法を勉強していると時々感じる「違和感」の答えのヒントがもしかしたらこれを読むとわかるかもしれません。
続編の「日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか」も合わせてどうぞ。
簡単な書評はコチラ↓
⑯岡邦俊「著作物を楽しむ自由のために」(2016年)
こちらも勉強用というよりも読み物として。
パロディモンタージュ事件、選撮見録事件、ロクラクⅡ事件といった重要判例において代理人をしていた岡先生の著作。著作物を楽しむ自由をもっと与えるべきではないかという点から各判例を批評しているのですが、気持ちいいくらいに判例をdisっています。上の山田奨治先生の本とセットで読むと面白いと思います。
⑰小泉直樹他編「著作権判例百選 第6版」(2019年)
最後はおなじみ判例百選シリーズ。(あれ、おかしいなどうしても大嘘判例八百選を想起してしまう)
第5版については、著作権クラスタなら誰しもが知る悲しい事件に巻き込まれましたが、第6版は内容が一新されています。なお、この悲しい事件は第6版では判例の一つとして掲載されています。
ちなみに第4版と第5版を比較しながら悲しい事件の判決文を読むと非常に味わい深い。
書評はコチラ↓
コンパクトにまとめようとしたのに全然コンパクトにならなかった・・・orz
お次はHirohitoNakada先生です!
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更新履歴
●2017/12/10
tanakakohsuke様からのコメントを参考に岡村著作権法のリンク先を修正
●2018/5/2
・池村聡「はじめての著作権法」を追加
・作花文雄「詳解 著作権法」の版を更新し、書評へのリンクを追加
・電通法務マネジメント局編「広告法」の書評へのリンクを追加
・福井健策編「出版・マンガビジネスの著作権」のリンクを修正(第2版が発売されたため)
●2018/5/31
・角田政芳・関真也「ファッション・ロー」を追加
・影島広泰「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典」を追加
●2019/1/5
・池村聡「はじめての著作権法」を微修正
・志村潔「『広告の著作権』実用ハンドブック」を追加し、書評へのリンクも追加
・山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」の書評へのリンクを追加
その他書式や文言を微修正
●2019/3/23
・小泉直樹他編「著作権判例百選 第5版」を「第6版」に修正し、書評へのリンクを追加(文言も一部修正)
●2019/12/27
・岡村久道「著作権法 第3版」を「第4版」に修正し、おススメポイントも修正。書評へのリンクを追加。
●2021/6/25
・以下について版をアップデートして一部文言とリンクを修正
- 島並良他著作権法入門
- 高林著作権法
- 影島広泰「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典 」
- 中山著作権法
- 岡村著作権法
- 小倉・金井「著作権法コンメンタール」
- 山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」
・新規で以下書籍を追加
- 高木啓成「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」
- 安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 5th Edition」
- 安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 5th Edition」
●2022/2/5
・各書籍の出版年を追記
・以下について版をアップデートして一部文言とリンクを修正
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*1:勉強って
・知識をインプットすること
・知識を元にアウトプットすること(実際の取引に当てはめること、問題集を解くこと、資格試験を受けること等)
の繰り返しですよね。できてないけど。
*2:正直、「著作権を勉強したいんだけど」という相談が来た場合は
「まずは知的財産権管理技能検定(2級 or 1級)とかビジネス著作権検定(初級 or 上級)の勉強するのがいいのでは?」という返答が無難な気もしますが、あえて攻めてみる。
*3:「マイナー」なだけではなく、「わかりにくい」とも指摘を受けますね。
よく著作権以外(特に特許)を勉強している人から、「著作権はあいまいでわかりにくい」とか「基本書見ても実務に当てはめられない」といった指摘を受けるケースがあります。(個人的には特許明細書の方が圧倒的に読みにくく分かりにくいのでは?と思っちゃったりしますが)
*4:YouTuberや初音ミク、総統閣下シリーズとか。あ、もちろん、プーさんとかキャンディキャンディとかもでてきますよ!
*5:あ、文化庁のHPにもWebで配信している教材ありましたね。(「著作権テキスト」はもうちょっと中の人に頑張ってほしいなぁ。。。)
*6:確か初版時にこう言われていた気がします。学者における「若手」ってどこまでの範囲なんでしょうね。
*7:茶園先生はほぼすべての知財法に関して著作がありkanekoが勝手に茶園シリーズと呼んでいる。いつか全て購入して並べてみたい