【書評】岡村久道「著作権法 第5版」
令和2年改正に対応した改訂版がでたので早速購入しました。
基本は第4版を踏襲しつつも、令和2年改正やリツイート事件等の最新裁判例をアップデートされたものになります。
本書の主な特徴は以下になります。
- 最新の改正にいち早く対応
- 図解の豊富さ
- 注が本番
- 見解ははっきりと
- 実務への配慮
各詳細については、第4版が出た際に以下の書評を出していますので、詳細はそちらをご確認いただければと思います。
本エントリーでは新たにアップデートされた箇所について、いくつかメモを残しておきます。
令和2年改正にいち早く対応
なによりも改訂スピードです。平成30年改正すら対応できていない著作権法基本書が多い中で、第4版から1年4カ月という短いスパンで改訂されています。
(もちろん、小倉先生・金井先生の著作権法コンメンタールは令和2年改正に対応しているようですし、中山著作権法も、補遺ということで巻末に令和2年改正分がフォローされています。)
個人的に実務でよく使用している書籍ですので、改正法対応はほんとうにありがたいです。
ちなみに、改訂スピードの秘訣もご教示いただきました。
ブログでのご指摘どおり趣味が高じ SL 写真集まで出してしまいました。
— 岡村久道 (@Lawcojp) 2020年12月11日
本書は日頃から時間の合間に次の改訂に向け新判例や記述、図表の入れ代え作業するので早く出せました。
改正は法案提出段階から改訂に着手し、国会答弁や文化庁サイトも見つつ、今回は政省令のパブコメの結果を待ち校了しました。
夏休みの宿題を最終週にやり始めるkanekoには絶対できないやつだ!
改正箇所に関する先生の見解も記載
以下、いくつか例をピックアップしています。
例えば、リーチサイト規制では
著作権のような財産権を、プライバシーや名誉権のような人格権よりも手厚く保護することの疑義を措いても、「リーチサイト」問題は改正前の本法によって対処可能であること等を考えると、立法論として疑問がある。
187ページ
としていたり、
違法コンテンツのダウンロード違法化拡大(30条1項4号)についても、
二次的著作物を除外している点について、
本号の趣旨に照らすと、なぜ119条3項2号のように正規版が有償で提供されている場合に限定しなかったのか、立法論として疑問が残る。
214ページ
と述べていたり、違法化の除外対象となる「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情のある場合」について、立法担当者が掲げる例を挙げたのちに
しかし、かかる不明確な基準では萎縮防止は望めないから、立法として疑問である。
215ページ
と述べられていたりします。
リツイート事件最高裁判決等の最新判例も収録
リツイート事件含め、最新の裁判例もアップデートされています。
他の返信にも付けましたが、こんな感じで最近の判例まで入れています。
— 岡村久道 (@Lawcojp) 2020年12月11日
改正内容も新判例もネット関係が多いので、ネット関係の法律専門家としての特質も活かせました。
最近はリツイート事件(最高裁)、インスタグラム投稿動画事件、10月に出たフェイスブック投稿事件など判例が出ていますので。 pic.twitter.com/G1pANjATY0
新規項目の追加
上記のネット関係の裁判例の追加を踏まえて以下の項目が追加されています。
ネット時代の著作権法の在り方に関する内容(懸念事項)が主に記載されている箇所ですが、SNS関係の問題(リツイート事件だけでなく、フェイスブック投稿事件やインスタグラム投稿事件を含む)やディープフェイク動画といったものにも言及されています。
だけど、総ページ数はほとんど変わらない。
- 第4版は539ページ
- 第5版は541ページ
となっており、改正法対応分を追加しつつも、全体のページ数はあまり変わらないようになっています。(値段も据え置き)
改正法対応するたびにどんどん厚くなる(値段も高くなる)書籍が多い中で、「ページ数の増加は最低限にしつつ、改正法に対応しよう」という姿勢を感じます。
なお、上記調整のため(と個人的に推測しています)に一部図解の大きさが少し縮小されている箇所も見られますが、読む分には全く影響しないです。
逆に、第4版の時より太文字がより太くなっていたりして、見やすさへの配慮を感じます。
その他
kanekoが気付いた範囲でしかありませんが、「創作性に関する判例・学説に関する箇所」の表記方法がわかりやすくなっていました。
また、応用美術に関する箇所について、第4版では、肯定説と否定説を両論併記しつつ、「下級審判例は否定説だが近年異なる判例も登場している」趣旨の内容が記載されていたところ、第5版では以下内容が本文の最後に追記されています。
展示権の対象となるか否かの境界を画するという性格上、「それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性」(ゴナ書体事件・・・中略・・・)を具備する必要があるというべきである。
58ページ
最後に
本書の評価については、第4版の時には以下のように記載しました。
個人的には、上記評価がよりゆるぎないものになったと感じています。
※第5版用の専門問題集は民事法研究会のHPに後日公開されるようです。(ソースはLaw &Technology 第90号の裏表紙の広告)
2021/2/7追記
専用問題集が民事法研究会のHPにアップされたようです。
http://www.minjiho.com/shopdetail/000000001221/005/P/page3/recommend/
2021/2/7追記ここまで
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