Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

【書評】「広告の著作権」実用ハンドブック~カオスな広告周りの著作権をわかりやすく解説~

こんな時、どうする?「広告の著作権」実用ハンドブック (ユニ知的所有権ブックス)

こんな時、どうする?「広告の著作権」実用ハンドブック (ユニ知的所有権ブックス)

 

 

広告の著作権(等の知財法)に特化した書籍です。第2版をようやく読了。

 

広く広告関係者向けのハンドブックとして、広告に関連する知的財産管理のポイントと、いざという際の実務上の対処方法が簡潔に理解できるようなものを発行しよう。これが本書の刊行趣旨であった。

3ページ

と書かれているとおり、法務以外の現場担当者もスコープに入るように書かれています。「カオス」としかいえない広告の著作権をわかりやすく記載されていると思います。

 

 広告の著作権については書かれた書籍は、現在であれば、電通法務マネジメント局編「広告法」がありますが、

  • 「広告法」が法務担当者向けと思われる一方(いかにもな法律書っぽい)、本書は法務以外の担当者もスコープに入っている点
  • 「広告法」は知財以外の法律(景表法や個人情報保護法等)も対象としている点

は大きく異なる部分かと思います。

 

本書の目次

Ⅰ.広告は知的財産権スクランブル交差点
Ⅱ.広告実務から見た知財
Ⅲ.広告素材ごとの権利
Ⅳ.広告自体に働く権利
Ⅴ.広告の著作者と著作権
Ⅵ.特に注意すべき広告素材達
Ⅶ.シンボル開発とパロディ
Ⅷ.使いたい素材への対応等
Ⅸ.広告の契約と契約書
Ⅹ.本格的ネット時代の広告と著作権
ⅩⅠ.こんな時、どう考えどう対応する?Q&A

 

本書の特徴

ずばり、「わかりやすさ」でしょうか。

 裁判になった事件のイラストが多数引用されていたり、記載内容も広告実務に即した具体例が多い点は評価できると思います。もちろん、「うーん...」と思う箇所が個人的にないわけではありませんが*1、現場担当者向けという点を踏まえれば十分かと思います。

 

※なお、改正著作権法(柔軟な権利制限規定等)には対応していません。TPP発行に伴う改正については少し言及があります。

 

・広告の著作権の構造の説明

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50、51ページ

 広告の著作権を「2段構造」として分けて解説されています。ちなみに、他のページではストックフォト利用時の注意点とかも書かれていたり。

 

 

・裁判例の解説

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102、103ページ
 裁判例の紹介は簡潔にまとめられており、図も多く使われています。わかりやすさを重視しているため、裁判例の事件番号はかかれていないですし、脚注もありません。(個人的には、参考文献くらいは巻末にいれておいてほしいなぁと思ったり)

 

・素材を使って広告制作をする場合のフローチャート

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158、159ページ

  「とあるコンテンツを利用して広告を使いたいときに、権利関係をどうかんがえたらいいのか」をフローチャートに沿って解決できるようになっています。もちろん、これだけでは不十分な面もなきにしもあらずですが、権利関係のハードルの温度感は理解できます。

 

 ・簡易的な契約書の雛形と説明

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192、193ページ

  契約書の雛形もあります。結構契約書を締結しない雰囲気のある業界でもあるので、簡易的なものでもいいので契約書は結んでおけ、ということですね。

 

 個人的には、本書を読んだ後に「広告法」を読むことをオススメしたいですね。

*1:特に著者の自説が述べられている箇所や著作権の制限規定の検討が甘いと思われる箇所、広告の「美術の著作物」への該当性の検討の箇所等