Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

【書評】岡村久道「著作権法 第4版」~注が本番~

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9月に入手して約3ヶ月かけて少しずつ読み進め、ようやく読破しました。

 

初学者向けの書籍ではありませんが、著作権の入門書を一通り読んで理解した人にとっては、著作権法を改めて頭の中を整理する上で最適な書籍と感じました。

 

以下、本書の特徴(感想)を書いておきます。 

 

 

1.H30年改正著作権法に対応した基本書

基本書系では初めてH30年改正著作権法に対応した本になります。

8月29日に発売ですので、現時点で把握できる範囲では高林著作権法12月に刊行され(絶賛積読中)、島並・上野・横山著作権法入門が年明け2月に刊行されることを考えると

非常に早い段階で改訂されたことがわかります。(本当にありがたい)


H30年改正著作権法に関する箇所は、文化庁等の資料に基づく内容が中心ですので他の箇所に比べると岡村先生の私見が少ないのですが、参考になります。

(ちなみに、岡村先生は一般包括的権利制限規定導入派のようです。198、199ページあたり

新30条の4の説明ページ↓

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218、219ページ

 


2.図解の豊富さ

本書の最大の特徴は、圧倒的な図解の多さです。

(私のような)中途半端に勉強していて一部概念や定義を混同して理解している人にとっては、最適だと思います。


例えば、以下のような権利関係が複雑な映画の著作物に関する図解は「なんとなく理解していたけど、図解で見ると頭の中でしっかり整理できるなぁ」と感じます。↓

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130、131ページ

 
口述権や展示権に関する図解↓

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168、169ページ


支分権と制限規定の条文のつくり↓

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200、201ページ

 
複製権、翻案権、同一性保持権侵害のそれぞれの枠組み↓

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446、447ページ

 


2.読者へのフォローアップも忘れない

別途読者向けに専用問題集がHPに公表されています。(178ページもあります!)

http://gigaplus.makeshop.jp/minjiho/image/pdf/TheCopyrightLaw4.pdf

本書を読んだ後に理解度を試すもよし

最初に問題を問いた後に間違ったところを本書で確認するもよし

ちなみに難しいです。

 


3.注が本番

はしがきに「各章は簡略な本文と詳細な注から成り立っている。」とあるとおり、注が充実しています。(たぶん中山著作権法よりも多い)

 


それゆえ、見開きページの3分の2が注というページも↓

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42、43ページ

 

おわかりいただけただろうか。

(あ、将譜が著作物性ないって書いてある)

 
なお、岡村先生の私見もほとんど注に書かれてます。

 

注が本番(2回目


4.見解はハッキリと

注に書かれている箇所には興味深い見解(私見)がたくさん書かれています。

支分権の制限規定と著作者人格権との衝突に関する見解や

twitterリツイート事件へのコメントは個人的には頷きながら読んでいました。

 
ちなみに、個人的には最も興味深かったのは、加戸著作権法逐条講義(カトチク)への明確な批判をしてる箇所です。

 
たとえば、いわゆる著作権制度の存在理由として説明される「自然権論」と「インセンティブ論」について、後者を支持しつつカトチクに関しては

立法担当者は、著作権は天賦人権ではなく法律によって与えられる権利であるとしており(加戸14頁)、その限度では正当であるが、他方で著作権憲法29条の財産権として保障されるとする(加戸13頁)。後者は全法体系上の多様な財産権全般に共通するものにすぎず、それ以上の特段の意味もなければ、著作権制度の存在理由を解明するものともいえない。

10ページ

※太字はkanekoによる。以下同じ

と書かれていますし*1

また、出所明示義務(48条)については、

制度趣旨に関する説明の中で

いずれにせよ著作者保護が目的の制度ではなく、あくまで著作権者をに対する義務である。著作権の制限規定の効果として定めている制度だからである。したがって、著作者も出所明示請求権者であるとする説(加戸381頁)には賛成できない。

207ページ

と言及されていたり、上記以外にもちょこちょこカトチクへの批判が見られて興味深いです(探してみてね)。


そういえばカトチクって改訂されるのだろうか。。。中の人が(おっと誰か来たようだ

 

 

5.実務への配慮

はしがきに

第1章から第6章までは、いわゆる理論書として作られている。・・・(中略)・・・これに対し、第7章及び第8章は実務書であり、契約実務と訴訟実務に対応できるよう、かなり踏み込んだ内容について言及している。

※中略はkanekoによる

と書かれているとおり、通常の基本書とは異なり後半は実務を意識したものになっています。

 
著作権の権利処理の手順」や「譲渡や利用許諾に関する当事者意思が不明な場合の考え方」、「譲渡契約時に存在していなかった支分権はどちらに帰属するのか」といった内容が個人的には興味深かったです。

 
権利侵害時の同一性・依拠性の議論も第8章で詳細に書かれています。

 

著作権の処理手順。隣接権にもちゃんと言及されています。↓

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370、371ページ 


ちなみに、本書の目次は下記です。

第1章 知的財産権制度と著作権制度

第2章 著作者の権利の客体(目的)─著作物

第3章 著作者の権利の帰属主体─著作者と著作権

第4章 著作者の権利1─著作権

第5章 著作者の権利2─著作者人格権

第6章 著作隣接権

第7章 著作権法上の権利処理と契約実務

第8章 権利侵害と救済─侵害訴訟の理論と実務

 

 


6.その他

(1)写真の著作物への言及

 あまり他の方が言及しない本書のさりげない特徴なのですが、写真の著作物性に関する議論が詳細に記載されている点があります。

たとえば、「写真の著作物」だけで4ページ近く割かれています。(73〜77ページ)

アナログ写真からデジタル写真まで幅広く著作物性(創作性)等について記載されています。

(別ページには、写真の著作物の同一性に関する説明もあります。450、451ページ

たぶん、岡村先生の趣味に違いない!

70年代の蒸気機関車たち モノクロームの追想

70年代の蒸気機関車たち モノクロームの追想

  • 作者:岡村久道
  • 出版社/メーカー: LABO
  • 発売日: 2019/12/12
  • メディア: 単行本
 

 

ちなみに、美術品等を撮影した写真の著作物性が認められなかった裁判例があることを初めて知りました*2。スメルゲット事件やIKEA事件との比較すると興味深いですね。

 

(2)プログラムの画面表示に関する著作物性への言及

ページはあまり割かれていませんが、実務でよく問題になる画面UIに関する言及もされています。


(3)「使用」と「利用」を明確に分けて言及

本書は、著作権法上の各支分権の法的利用行為を「利用」とし、そうではない行為を「使用」として厳密に区別しています。

利用と使用の区別↓

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146、147ページ

 
ちなみに、各基本書によってここは違うようです。(作花「詳解著作権法」のレビューでも同様の言及したかもしれない)

詳細は以下マンサバブログ参照

企業法務マンサバイバル : 著作権法における「利用」と「使用」の使い分け


 

7.最後に

著作権の基本書といえば、中山著作権法」という声をよく聞きますが、「中山著作権法ともう一冊そろえるなら本書」と個人的には思っています*3

 

 

著作権法〔第4版〕

著作権法〔第4版〕

  • 作者:岡村 久道
  • 出版社/メーカー: 民事法研究会
  • 発売日: 2019/08/07
  • メディア: 単行本
 

 

 

なお、本エントリーに合わせて、過去投稿したオススメ著作権本のエントリーも一部修正しました。

kanegoonta.hatenablog.com

 

 

*1:ちなみにこれを取り上げた理由は下記ニュースでの朝日新聞の赤田記者とJASRAC浅石理事長のやりとりを見てモヤったからなんです。

JASRAC徴収額1155億円、過去2番目の実績…会長「きちんと分配している」 - 弁護士ドットコム

赤田記者:床屋やレストランなど、小さなお店で、マスターが好きな曲を流すこともあります。そういったものも法的措置の対象になりますが、微細な利用について、なるべく細かく網をかけず、音楽の利用をいきづまらせない工夫をなさる考えはないのか?

 

浅石理事長:著作権は人権です。人権侵害を「些細なことまで許す」ということが、社会にどんな影響を与えているのか。たとえば、いじめの問題を一つとっても、小さな芽が何かあったはずです。その芽をつぶしていかなかったために、今どういう状況になっているか。

われわれは著作権という基本的人権を守っている団体です。この団体が、小さな著作権侵害だろうが、大きな著作権侵害だろうが、人権侵害については一切目をつむるつもりはありません。著作権だからということではなくて、人権として考えたときに、今のような質問がされることに対して、はっきり申し上げて甚だ心外です。

 

赤田記者:著作権は、きわめて人工的な権利で、財産権として設定されているわけですが、そこにいろいろ制限もありますし、そもそもBGMはもともと適用除外になっていました。天賦人権のように言われていますが、天賦人権であるという説と、人工的に設定されたインセンティブのための権利だという説があります。

そういった観点で考えたとき、利用の萎縮を促してはいけない。音楽の利用をしにくくなるといけない。著作権法1条にも「利用と保護」の両方のバランスをはかる、と書いてあるわけです。そのバランスを欠いてはいませんか?

 

浅石理事長:現行の著作権法をお書きになった加戸守行さん(元文化庁官僚、元JASRAC理事長)も「著作権は天賦人権ではない」「法律によって制定されるものだ」「その法律は憲法29条にある」と言っています。憲法29条(財産権)は、基本的人権です。そして、条約によっても、基本的人権と宣言しているわけです。

このことをまずおさえないで、そんな中途半端な内容をもって、質問されることは、甚だ心外だと思っています。著作権は一体何なんだ。基本的人権であるとお考えいただきたい。

上記リンク先の弁護士ドットコムニュースより

https://www.bengo4.com/c_23/n_9669/

個人的に「著作権基本的人権」ということに違和感を感じているのですが、ストレートにこの内容に言及した書籍を発見できていなかったため、非常に参考になります。

*2:一竹辻が花美術館事件  東京地裁平成30.6.19平成28(ワ)32742著作権侵害差止等請求事件

事件に関する参考URL↓

ootsuka.livedoor.biz

*3:「文字が小さいと感じる方は自炊して大きめのタブレットで(拡大して)読むといい」ってとある友人が言ってました。