Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

リツイート事件最高裁判決に関するまとめと雑感

リツイート事件最高裁判決に関連して、少しだけメモしておきます。

 

 

まず、今回の最高裁判決に関する解説はすでに専門家の方々が以下のようなブログを書いていらっしゃるのでそちらをご参照ください。

 

1.専門家による解説一覧(※順次更新します) 

 

 

2.リンクによる著作者人格権侵害に関する議論(リツイート事件以前)

リツイート事件以前から「リンクの種類によっては著作者人格権侵害になり得るのでは?」という議論はありました。

 

2.1.リンクの種類

「リンク」と一言でいっても様々な種類のリンクがあります。

「普通にURLが表示されるタイプ」もあれば、今回のリツイート事件のようなインラインリンクやYouTubeの埋め込み型リンクといった「リンク先とリンク元が一体的に表示されるタイプ」のリンクもあります。

 

詳細は以前以下にまとめました。(続きを書いていない。。。)

 このブログでは後者をまとめて「一体型リンク」と呼ぶことにします。

 

 2.2.過去の議論

2.2.1.一体型リンクの同一性保持権侵害に関する議論

「フレームリンクやイメージリンクによって、リンク先である他人のウェブサイトや画像といったコンテンツの一部を切り取って、リンク元の自己のウェブサイトに一体となって表示させていること」が「意に反する改変」だと評価され得ると主張する説は従前からありました。

同趣旨の具体的な文献としては下記

  • 飯沼総合法律事務所編『デジタル著作権の知識とQ&A』(法学書院、2008)88頁
  • 松田政行編『著作権法の実務』(経済産業調整会、2010)160頁〔松田政行〕

 

なお、「フレームリンクについては、リンク元とリンク先はフレームにより明確に区別されており、また、リンク先の情報はほとんどの場合そのまま変更されることなく利用されること」を根拠に侵害を否定的に解する説もありました。(鈴木基宏『Q&A著作権法』(青林書院、2011)173頁)

 

2.2.2.一体型リンクの氏名表示権侵害に関する議論

「リンク先のコンテンツがリンク元の一部であるかのようにみえるため、リンク先のコンテンツの著作者がリンク元の著作者のような印象を与えること(=リンク先の著作者を表示しないこと)」を根拠に侵害を肯定する説が従前からありました。

同趣旨の具体的な文献としては下記

  • 飯沼総合法律事務所編『デジタル著作権の知識とQ&A』(法学書院、2008)88頁
  • 鈴木基宏『Q&A著作権法』(青林書院、2011)173頁
  • 松田政行編『著作権法の実務』(経済産業調整会、2010)160頁〔松田政行〕

 

一方、「インターネット上のコンテンツにつき氏名表示権を厳格に適用するのは非現実的なのではないか」と指摘する文献もあります。(壇俊充=板倉陽一郎「民事・刑事上のWebサイトリンク行為の違法性に関する比較についての試論」情報ネットワーク・ローレビュー第13巻第1号(2014)69頁)

なお、ロケットニュース事件(大阪地判平成25年6月20日判決、判例時報2218号112頁)では

本件記事自体に原告の実名、変名の表示はなく、本件ウェブサイトに表示された本件動画のタイトル部分に被告の変名が含まれていたに過ぎないが、(中略)被告は、本件動画へのリンクを貼ったにとどまり、自動公衆送信などの方法で『公衆への提供若しくは提示』(法19条)をしたとはいえないのであるから、氏名表示権侵害の前提を欠いている。また、原告自身、本件生放送において、原告自身の容貌を中心に撮影した動画を配信し、原告の実名をも述べていることに加え、「ニコニコ生放送」で本件生放送やその他の動画を配信する際にも「P2」の変名を表示していたことがうかがわれるのであるから、上記「公衆への提供若しくは提示」を欠くことを措いて考えたとしても、本件ウェブサイト上の上記表示が原告の氏名表示権の侵害になるとは認められない。

として氏名表示権侵害が否定されていました。(リツイート事件第1審も同趣旨で侵害否定。ただし、知財高裁と最高裁で侵害肯定)

 

3.今回の判決について

3.1.判決の(個人的)ポイント

リツイート事件最高裁判決の個人的なポイントは以下と理解しています。

  1. 氏名表示権(19条第1項)の適用は、法定利用行為(21条~27条の行為)に限定されない。
  2. 違法にアップされた著作物が、リツイートによって(仕様上)著作者名をトリミングされた状態で表示された行為は氏名表示権侵害になる(画像をクリックしたら著作者名を確認できる場合でも同様。なお、補足意見を踏まえると第19条第3項の解釈余地はありそう)。

 

3.2.判決の射程は?

知財高裁判決含め、個人的には違和感(「いや、たしかに素直に当てはめるとそうなるかもだけどさぁ...もうちょっとさぁ...」という感じ)がある判決ですが、判決が出てしまった以上仕方ありません。

問題は判決の射程です。この判決がリツイート行為に限定されるのでしょうか。それとも広く適用され得る内容なのでしょうか。

上記専門家による解説のところから射程に関係してそうな部分をいくつかピックアップしてみます。(引用内の太字はkanekoによる。以下同じ。)

・杉浦先生

更に恐ろしいのは、最高裁判決の射程がリツイートのみならずインラインリンク一般に及ぶとすれば、ウェブページがSNSでシェアされたりWordpress等のブログに掲載されたりした際に表示されるサムネイル画像(OGP画像)についても、著作者人格権侵害と評価されかねない点です。
他サイトの紹介目的でなされるシェアやリンクに伴うOGP画像の表示にも著作者人格権侵害のリスクが及ぶとすれば、OGP画像の表示もはばかられる結果、記事では無味乾燥なハイパーリンク文字列のみが並ぶことにもなりかねません(本記事のように)。

杉浦健二「リツイート事件最高裁判決が実務に与える影響と、サービス事業者がとるべき対策」

https://storialaw.jp/blog/7281

 

・飯島先生

この判決の直接的な射程はごく狭い範囲に限られると思われます。しかし、判旨は同一性保持権にも適用可能なものであるほか、そのアナロジーが生じる潜在的範囲は決して狭くはありません。

飯島歩「他人の画像を無断でアップロードしたツイートのリツイートと氏名表示権侵害に関するリツイート事件最高裁判決について」

https://innoventier.com/archives/2020/07/10620

 

・伊藤先生

この判断は,ツイッターの仕様によるもので,インラインリンク全般に及ぶものではないとも考えられますが,特にスマートフォン中心の現在では,表示エリア,通信状況の制約から,サービス提供者側で一定の加工・編集が行われており,本判決に照らせば,これらの行為が著作者人格権侵害になりかねないということで極めて違和感があります。

伊藤雅浩「リツイート行為と著作者人格権最判令2.7.21(平30受1412)」

https://itlaw.hatenablog.com/entry/2020/07/22/231952

 

他の解説とは違う観点だと岡本先生

最高裁は、①リツイート等により、画像上の氏名表示が非表示となった点を捉えて氏名表示権侵害としており、②元の画像に氏名表示があることが前提と思えます。そうだとすれば、①氏名表示の位置により、リツイート画面上に氏名表示が残る場合だけでなく、②そもそも元の画像上に氏名表示がない場合には、リツイートしても氏名表示権侵害にはなり難いように思われます

岡本健太郎リツイート事件最高裁判決 概要と留意点をまとめてみた」

https://www.kottolaw.com/column/200728.html

 

今後多くの専門家の方々がこの判決に関する論文を書かれるのだと思います。見るの楽しみです。 

 

3.3.最高裁で判断されなかった同一性保持権侵害はどう考えるべきか?

今回、知財高裁で侵害が認められた同一性保持権に関する判断は保留されています。

ただ、専門家の方々がすでに言及しているように

  • 知財高裁では侵害が認められている点(上告申立理由からは除外されていますが)
  • 氏名表示権侵害のロジックはある程度同一性保持権にも適用できそうである点

を踏まえると、少なくともトリミングによる同一性保持権侵害は肯定的に解するべきなんでしょうかね。

 

3.4.この判決の良かった点

今回の判決で個人的に良かった点を挙げるとすれば

  • リツイート(インラインリンク)が法定利用行為には該当しない(財産権の侵害にはならない)のがほぼ確定的になった点

です。

特に公衆送信権送信可能化権含む)については、従前から侵害を肯定すべきではという議論があったところ、小倉先生のブログで言及されているとおり、今回の判決はリツイートが法定利用行為には該当しない前提で氏名表示権侵害の成否が判決されているようです。これは他の種類のリンクにも影響のある部分だと思われます。

(だからこそ、令和2年改正のリーチサイト規制の意味があるのだと明確に言えますね。)

この点が非侵害で明確になることにより、議論の終着点が見えてきたのは良かった点だと思います。

 

4.個人的に気になること

今回の判決は発信者情報開示請求事件である点は踏まえておく必要はあると言われていますが、(判決の射程の件以外で)個人的に気になる点を少しだけ書いておきます。

(なお、今回の判決の詳細な分析や今回の判決を踏まえた実務的対応については、前述の専門家の方々のブログで多く言及されていますので、そちらをご参照ください。)

 

4.1.そもそも著作者人格権が厳しすぎやしないのか?

日本の著作者人格権は、ベルヌ条約以上に手厚く保護がされており、世界最高水準と言われています。

一方で、中山著作権法でも以下のように言及されているとおり、権利が強すぎる故に今の時代に合っていないのではないかと思うところです。改めて考えるべき時期に来たのではないでしょうか。

特に、絵画・音楽・小説等の古典的著作物をアナログ的に利用する時代であれば、人格権を強く保護する意味は大きかったかもしれないが、デジタル時代になると、世界一強い著作者人格権が、著作物の利用・流通の阻害要因になり、日本だけが世界の進歩から取り残されることはないのか、と心配もある。

中山信弘著作権法 第2版」(有斐閣、2014)470頁

 

上記中山著作権法内でも言及されていますが、

  • 氏名表示権であれば19条3項
  • 同一性保持権であれば20条2項4号(いわゆる「やむを得ない改変」)

を時代に合わせてより柔軟に解釈できるように考えていけないでしょうか。(もしくはより柔軟に解釈できるように法改正するとか。)

 

なお、今回の最高裁判決の戸倉補足意見において、

著作権法19条3項により、著作者名の表示を省略することができると解される場合もあり得るであろう。

と言及されているとおり、少なくとも氏名表示権については道が完全にふさがっているわけではないようにも感じます。(そもそも19条3項について、twitter社側は主張していなかった?)

一方で、同一性保持権については、リツイート事件知財高裁判決において「やむを得ない改変には該当しない」旨が判示されおり、ここに突っ込んでいくのであればしっかりロジックを組む必要がありそうです。

被控訴人らは,著作権法20条2項4号の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得ない」改変に当たると認めることはできない。

 

4.2.フェアユース入れればいいってもんじゃない

最後にひとつだけ。

「今回のリツイート事件において侵害が認められたのは、日本にフェアユース規定がなかったからだ 」

という趣旨のご意見を拝見しました。

これはちょっと違うんじゃないかなーと思うところです。

 

以下、弁護士でも学者でもない一般ピーポーの素人意見です。(なので、間違ってたらご指摘お願いします。)

 

フェアユースは権利制限の一般規定です。

今回の判決においては、前述のとおり「リツイート行為を法定利用行為はない前提で判決されている」と考えるべきだと思いますので、権利制限の前提となる法定利用行為(公衆送信等)が発生していません。

また、日本法の権利制限規定は財産権が対象であり、著作権法50条より、権利制限規定は著作者人格権には影響しないはずです。

従って、そもそも権利制限規定は出番がないはずですし、50条がある限り仮に日本にフェアユースが導入されていたとしても、今回の争点であった著作者人格権侵害の成否には関係しないことになります*1

 

私個人はフェアユースに比較的肯定的な立場ですが、今回の最高裁判決からフェアユース規定の導入を主張するのは的外れな気がします。(素人の意見ですが)

 

フェアユース!」とただ叫ぶのではなく、「今回の判例を分析し、射程をしっかり議論すること」だったり、「著作者人格権の柔軟な解釈への議論」の方が大事な気がする今日この頃です。

 

*1:

もちろん、日本と違い、米国著作権法におけるフェアユース規定(107条)は、人格権(106条A)に優先するとされています。

(@AtsushiTanaka18先生にご教示いただきました。ありがとうございます!)

なので、日本の著作権法50条をぶっ壊して、権利制限規定が著作者人格権に優先する内容に法改正するのであれば、話が変わってくる部分はあるのかもしれませんね。