コスプレと著作権の法的問題について文献をいろいろ調べてみた。
ファッションセンスが皆無なのでファッションローには踏み込めていないのですが、「コスプレと著作権」を研究(私的な勉強)すると、「衣装と著作権」という問題に帰結しやすいので、ファッションローは避けて通れないんですよねぇ。
— kaneko (@kanegoonta) May 3, 2019
と書いたので、ざっとまとめてみました。
※あくまで著作権法の観点からであり、その他の法律(例えば不正競争防止法)については対象外です。
【目次】
- 1.コスプレの法的問題点~各種文献~
- 1.1.角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)
- 1.2.池村聡『今、考える「“キャラクター”と著作権」』(コピライトNo.687 vol.58、2018)
- 1.3.平成 27 年度著作権委員会第 4 部会「コンテンツ内オブジェクトによるビジネスについての法的諸問題」(パテントVol. 69 No. 12、2016)
- 1.4.小倉先生の見解
- 1.5.福井先生の見解
- 1.6.江頭あがさ「ファッションローとコスプレ -コスプレ衣装貸与の法的問題点について―」(発明 2019年9月号、2019)
- 1.7.愛知靖之「マンガ・アニメ・ゲームの「キャラクター」をめぐる法律問題ー「マリカー事件」を素材として」(法学教室8月号 No.479、2020)
- 1.8. 栗原先生の見解
- 1.9.その他
- 2.個人的意見
- 3.最後に
1.コスプレの法的問題点~各種文献~
コスプレの著作権法上の問題について専門家の見解を紹介していきます。
※なお、引用部分の太字は、すべてkanekoによるものです。
1.1.角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)
まずは、角田先生・関先生の「ファッションロー」です。この書籍は、ファッション関連の法律問題について書かれた書籍ですが、コスプレに関しても以下の言及があります。
まず、
コスプレは、著作権法上は、著作物であるアニメ、マンガ、ゲームソフト、映画などの登場人物、つまりキャラクターを複製または翻案してコスプレイヤーがメイクアップやヘアデザインをし、衣装を身に付けて二次的利用をする行為である。
したがって、アニメ等との関係では、現著作物の二次的著作物について、コスプレイヤーには、二次的著作物の著作者としての著作権法上の地位が生じ、その著作権を有することになる。
角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)227ページ
と説明したうえで、
コスプレの制作は、キャラクターの翻案のうち、二次的な表現形式を立体的な表現形式に変更する変形行為(著27条)に当たり、原則として、それらの原著作物の著作者の許諾が必要となる。
コスプレは、個人で楽しむ場合が多く、通常は私的使用目的の複製または翻案という公正利用として原作者の許諾は必要ないが、初めから各種のイベントやTVなどで業務上の使用のために複製、翻案、展示、譲渡、貸与等により利用される場合のほか、個人のコスプレイヤーがコスプレショーやイベントに参加する場合には、原著作者の許諾を得る必要が生じる。
もっとも、アニメーションやゲームソフトなどの登場人物であっても、そのような登場人物の映像に普通にみられるごくありふれたものである場合には、「表現上の創作性がない」として著作物性は認められず、その複製または翻案は著作権侵害とはならないとされることがある。
また、コスプレは、通常の著作物の複製または翻案とは異なり、コスプレイヤーを通した原著作物の利用行為であり、そのコスプレイヤーの肖像ないし容姿とともに複製物や翻案物を制作し、そのコスプレイヤーがアニメや漫画のキャラクターに成りきってコスプレを公衆に提示することがある。そのため、コスプレの写真や映像を利用するためには、上記の著作権の処理に加えてコスプレイヤーの肖像権とパブリシティ権の処理が必要となる点が特徴的である。さらには、コスプレイヤーの動作は思想感情を創作的に表現する場合があり、舞踊または無言劇の著作物となる可能性があるし、実演として実演家人格権や著作隣接権が生じる。
コスプレにおける衣装の制作は、キャラクターを複製または翻案する行為であるが、原著作物の著作者の許諾を得ていない場合には、その著作権(翻案権)侵害となる。
角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)228,229ページ
と記載しており、
が読み取れます。
(なお、全体的に他の文献に比べるとコスプレの著作権侵害に肯定的の論調に読み取れます。)
また、同様の表現が以下からも同様の内容が読み取れます。
原作の著作権者に無断で表現形式を変形してコスプレを制作する行為は、変形権ないし翻案権を侵害することになり、そのコスプレを販売する行為は(業界では、「物販」と称する)は、二次的著作物の利用権(著28)としての譲渡権(著26条の2)を侵害することとなる。もし、当初は私的使用目的で翻案したが、その後、公衆に展示すれば翻案権侵害とみなされる(著49条1項)と同時に展示権を侵害することとなり(著25条)、インターネットのホームページ等に掲載すれば翻案権侵害とみなされる(著49条1項)と同時に公衆送信権侵害にもなる点に注意すべきである(著28条)。
角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)233ページ
ここで興味深いのが、
- コスプレ・ショーでコスプレを見せる行為を「上演権」ではなく、「展示権」と整理している点
- コプレイヤーのメイクアップやヘアスタイル・動作について、単体で著作物性を認める余地があると述べられている点
です。
コスプレ・ショーは、コスプレの衣装、つまりアニメ、マンガ、ゲームソフト・映画のキャラクターの複製物または翻案物をコスプレイヤーがメイクアップやへアスタイルを施して身にまとい公に展示する行為である(著28条、25条)、原著作者の許諾を要する。
もっとも、非営利・無料・無報酬でなされるコスプレ・ショーは、無許諾で行うことが認められている(著38条1項)。
なお、コスプレ・ショーは、複製または翻案物の展示行為であるため、原作品等による公衆への展示にしか及ばない展示権は、一見、原著作者の展示権は及ばないと解される余地がある(著25条)。しかしながら、ここでいう原作品とは二次的著作物としてのコスプレ衣装の現作品を指すのであって、原作者の二次的著作物利用権は、公の展示に及ぶと解される点に注意である(著28条、25条)
コスプレイヤーのメイク・アップやヘアスタイルや動作については、それが思想または感情の創作的表現である場合には、それぞれ美術の著作物や舞踊または無言劇に類する著作物(著10条1項3号)としての保護が認められることとなる。また、その動作の振り付けの実演として実演かの人格権および著作隣接権による保護が認められる。
角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)234、235ページ
上記展示権について澤田先生から以下のコメントを頂きました。
コスプレと著作権についての議論がまとまっている素晴らしい記事
— 澤田 将史 (@swd_mss) 2020年9月4日
展示権に関して文献が引用されているけど、二次的著作物の原作品(コスチューム)の展示には、原作者の28条の権利が及び得るものの、コスチューム作成者(所有者)自らの展示であれば、45条1項により侵害とならない可能性があると思う https://t.co/rHHrwQd47t
展示権は、所有権との調整で大幅に制限されていて、屋外恒常設置の場合を除き、45条1項により所有者等による展示には権利が及ばない。45条1項の条文上は、二次的著作物の場合も排除されていないので、コスチューム(二次的著作物の原作品)所有者による展示であれば適法となるように思われる
— 澤田 将史 (@swd_mss) 2020年9月4日
もっとも、原作者との関係で、無許諾で二次的著作物を創作した当人の所有権との調整のために権利を制限するというのは、やや気持ちが悪い気もするので、この点で議論の余地はありそう。
— 澤田 将史 (@swd_mss) 2020年9月4日
大阪地判H28.7.19では、舞妓さんの写真(原著作物)をベースに無許諾で絵画(二次的著作物)を創作した人が、その絵画を自ら展示したという事案で、展示権侵害が認められたが、被告から45条1項の主張はされなかったようで、主張した場合にどう判断されたかは気になるhttps://t.co/YE5oo6U2Yv
— 澤田 将史 (@swd_mss) 2020年9月4日
1.2.池村聡『今、考える「“キャラクター”と著作権」』(コピライトNo.687 vol.58、2018)
池村先生もコスプレについて、以下のように言及しています。
たとえば、ゲームやアニメ、漫画等のキャラクター(イラストとしてのキャラクター)の衣装デザインを、実際の洋服として忠実に再現して制作すること等に著作権侵害は成立するかといった形で問題となり、いわゆるコスプレを著作権法的にどう考えるのかという問題と密接に関係する。
上記事例では、イラストとしてのキャラクターのうち、利用しているのは衣装デザイン部分のみであり、顔のパーツや表情等の利用は存在しない。したがって、利用している衣装デザイン部分に創作性が認められるか否かという問題に帰着することになり、特徴的で装飾的な衣装デザインであれば、創作性が認められる余地もあろうが、一般論としては、創作性が認められる衣装デザインはそう多くはないように思われる。
池村先生のご意見の特徴的な点は、
- コスプレの著作権侵害には否定的である点
- 衣装デザインの創作性の問題に帰結する(ファッションデザインの創作性) 点
です。
先のkanekoのツイートの背景はここからきています。
1.3.平成 27 年度著作権委員会第 4 部会「コンテンツ内オブジェクトによるビジネスについての法的諸問題」(パテントVol. 69 No. 12、2016)
パテント誌でもコスプレについての記事がありました。平成 27 年度著作権委員会第 4 部会「コンテンツ内オブジェクトによるビジネスについての法的諸問題」では、以下のように記載されています。
コスプレ用の衣装が,元ネタ(2 次元上で描かれた服の絵)の本質的特徴を全く感得させない程非類似なものならば,そもそも複製や翻案とはならないだろう。(つまり,衣装を作る側が本物に近づけようと努力すればするほど,侵害の危険性が高くなる,という皮肉な状況になっている)
コスプレ用の衣装が,元ネタの著作物の複製権や翻案権を形式的に侵害していると解釈された場合,私的複製の論点が生じる(30 条,43 条)。
著作権法 30 条には「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするとき」という要件がある。
この「限られた範囲」がどこまでなのかについては,明確な定義は無く,諸説あるようだ。コスプレイベントに一緒に参加する「数人の親しい友人グループ」程度であれば,一見,「限られた範囲」となり得るかに思える。
しかしここで,コスプレにおける「著作物の使用」とは何を言うのか? という問題がある。
服を着る事のみを「著作物の使用」と解するべきなのか,それとも,コスプレを誰かにカメラやビデオで撮影してもらう行為も含めて「著作物の使用」と解するべきなのか,という点だ。
後者の解し方の場合,当該コスプレ用衣装を着たコスプレイヤーの写真や動画を,上記「数人の親しい友人グループ」以外の大勢のイベント参加者が撮影することになる。とすると,この大勢のイベント参加者が「限られた範囲」を超えると解釈されるおそれも出てくる。
そして,「使用」とは具体的にはどこまでの範囲を意図したものなのか,著作権法の条文には定義がない。よって,この点は現状,グレーゾーンと言えるだろう。
なお,仮に私的複製と評価され,複製権や翻案権の侵害は免れたとしても,コスプレ写真や動画を SNSサイトなどにアップすると,公衆送信権(23 条)の侵害のおそれが生じる。また,有料のコスプレ撮影会等の場合は,上演権(22 条,38 条 1 項)の侵害のおそれもあるので,注意が必要だ。
この記事で興味深いのが、
- コスプレイヤーが本物(原著作物)に似ていれば似てるほど権利侵害の可能性が高くなると記載されている点
- 私的使用における「使用」の範囲に関する論点提示がされている点
です。
1.4.小倉先生の見解
2013年のエントリーですが、コスプレの著作権侵害の考え方として以下のように見解を述べています。
アニメのキャラクターが普段身につけている衣装のデザインは、アニメキャラクターという「著作物」の一部として、著作権法による保護を受けることになるのでしょうか。
これには2通りの考え方があろうかと思います。
1つは、衣装デザインがそのアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」にあたるといえる場合に限り、それを直接感得しうるような形状の衣装を作成することは「複製」に当たるとする考え方です。ただし、アニメキャラクターの表現上の本質的特徴部分は、顔立ちや体つきにあるのが通常なので、たいていの場合衣装デザインが似ていると言うだけでは、元のアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」を直接感得できることにはならないとする考え方です。
なお、コスプレイヤーの顔立ち及びスタイル、髪型等により、一層特定のアニメキャラクターを想起させるコスプレというのもあるとは思いますが、人体を用いて表現している要素を織り込んで著作物を「複製物」とするのは、「人を『物』として扱ってよいか」という問題を生じさせるように思います。「複製物」という場合の「物」は、有体物を指しているからです。
もう1つは、衣装のデザインの類似性は基本的に意匠法で対処すべきなので、アニメキャラクターの衣装デザインと類似する衣装が製作されたとしても著作物としての利用がなされていないので原則として著作権侵害とすべきではないが、例外的に、その衣装が純粋美術に匹敵する高度の観賞性を認められるようなものであった場合には、美術の著作物として有形的に再製されたとする考え方です。商標法においては、形式的には第三者の登録商標を使用している場合であっても、商品等の出所を識別するという商標本来の用法で使用されているわけではない場合には、「商標としての使用」ではないので、商標権侵害にはあたらないとするのが判例・通説です。この考え方を著作権法にも応用して、衣装のデザインが著作物たるアニメキャラクター衣装デザインと類似するものであったとしても、その衣装のデザイン自体が高度の観賞性を有せず、著作物としての評価を得られる類のものに至っていない(意匠として評価されるにとどまる)場合には、「著作物」としての衣装デザインが有形的に再製されたとはいえないので、「著作物としての利用」ではなく、著作権侵害にはあたらないとするのです。
前者の見解は、「衣装デザインをキャラクターの一部として考え、元ネタのキャラクターの衣装デザインがそのキャラクターの表現上の本質的特徴部分であるといえるときに、その本質的特徴部分を直接感得しうるようなコスプレ衣装を制作したときに複製権の侵害になる」という見解で、後者の見解は、「衣装デザインを「単体」でとらえ、コスプレ衣装が純粋美術に匹敵する高度の鑑賞性を認められるレベルではじめて複製権の侵害になる」という見解と理解しています。
ちなみに、小倉先生は別途とある雑誌のコラムでコスプレと著作権についての記事を出しているのですが、kanekoはまだ未読です
2021/1/23 追記
「1.1.角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)」に関する批判として追加のエントリーがnoteにアップされています。
上記「ファッションロー」に関して、コスプレがキャラクターの複製または翻案にあたることの論証がないことを批判しつつ、以下のように言及されています。
コスプレの本質は、アニメのキャラクターが身につけているものと似た衣装等を身につけ、アニメのキャラクターの髪型や髪色と似た髪型や髪色にし、時にはさらにアニメのキャラクターに似せた化粧をすることによって、特定の個人が、特定のアニメのキャラクターを彷彿させる外形となる点にあります。コスプレは、キャラクター絵という既存の著作物の「具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現する」ものではないので、二次的著作物創作行為の一つである「変形」行為にはあたりません。
また、キャラクターの絵の複製といえるかという点についても、
複製とは、著作物を有形的に再製することをいい、言い換えると、著作物たる表現を有体物に化体して、著作物たる表現を反復継続して人が知覚できるようにすることを言いますが、コスプレの場合、キャラクター絵を彷彿させるのは、上記衣装等を身にまとった人間であって、有体物ではないからです。法律の世界では、人と物とは峻別されているからです。
基本的に複製と考えるのは難しい旨が指摘されており、かつ衣装単体での複製についても以下の趣旨から否定的な見解です。
- 二次元であるキャラクターの衣装を実際に人に着させようとすると形状が大きく変わるので、元のキャラクター絵の本質的特徴を直接感得できないケースが多い。
- 衣装自体が応用美術となるので著作物性を否定される可能性がある。
2021/1/23 追記ここまで
1.5.福井先生の見解
福井先生もマリカー事件勃発時に以下の見解をコラムで公表しています。
まず、原著作物の著作権者に無断でコスプレ衣装を制作する行為については、もともとのアニメや漫画は著作物なので、立体的であれそれを無断で再現すれば著作権侵害である(複製権・翻案権)。
と原則論を書いた上で、マリカー事件については、
マリカーはどうか?話を貸与されたコスプレ衣装に限定すれば、原作マリオとの類似性は顔などを除いた、この「衣装部分」だけで考えることになる。そして繰り返すが「マリオとわかる」ことと「著作権侵害で法的に禁止される」ことは、別な問題だ。ふむ・・・。かなり際どいので自分の依頼者には勧めないが、何枚かの写真で見る限りは、まあ裁判結果を予測しにくい程度には微妙だろう。そしてこの手の、法的に微妙なコスプレや二次創作も世間には多い。
と著作権法的には微妙である点が記載されています。
なお、マリカー事件の地裁判決では、著作権侵害の有無については判断が回避されています。(詳細分析はSOFTICの判例ゼミの資料が詳しいです。)
また、市販のコスプレ衣装を購入して利用する場合については、
著作権は複製行為だけでなく、無断での「公衆への貸与」も禁じており、マリカー裁判ではここが問題視されている。仮に、市販のコスプレ衣装が著作権侵害になるレベルでオリジナルに類似しているなら、その「製造」には権利者の許可があっても「貸与」は無許可となって、侵害は成立するのだ。
まして、そうした衣装を着た姿の画像や映像をネットに上げれば無断の公衆送信である。今度は衣装だけでなく、着た人の表情など姿全体をオリジナルと比較することになるから、より侵害が成立しやすいケースもあるだろう。同じくDVD化すれば、そこで無断の複製をしたことになるので、やはり危ない。
では一般的に、市販のコスプレ衣装を着てイベントに出るだけならばどうか?衣裳を着て演ずる行為は「上演」か?これはかつて、日本舞台美術家協会と新国立劇場との間で論争になったことがある。判例が出たことはないが、オリジナルにそっくりの姿で演じているなら「上演」のように思える。となればウェブ配信やDVD化はもちろん、十分似たコスプレは単にイベントに出演するだけでも上演権侵害の可能性があることになる。それが任天堂の許可を得た公式の市販衣裳だろうが、上演や公衆送信は製造とは別な利用行為なので基本的に関係がない。
と記載しており、たとえ市販のコスプレ衣装であっても、利用方法によっては、著作権侵害の余地がある旨が書かれています。
最後に、個人のコスプレ行為が許容される理由としては、「3つ考えられる」としてうえで、以下のように記載されています。
ひとつは、「単にあまり似ていない」。これは多い。ふたつめは、個人がコスプレ衣装を制作したり、対価などを受け取らずに人前で演ずる行為は、(仮に後者が上演だとしても)私的複製(私的翻案。30条)や非営利上演(38条)といって、現行法の例外規定があって許されるという解釈だ。もっともこれには異論もありそうだし、そもそも営利目的でイベントに出たり、写真などをアップする行為には例外規定はない。
そこで最後の理由、「見て見ぬふり」だ。日本のパロディや二次創作は伝統的に、権利者もうるさいことを言わない「お目こぼし」「見て見ぬふり」で成立して来たのだ。
「単にあまり似ていない」w
1.6.江頭あがさ「ファッションローとコスプレ -コスプレ衣装貸与の法的問題点について―」(発明 2019年9月号、2019)
コスプレ衣装貸与の法的問題点について、マリカー事件を踏まえて検討を行った論考になります。不競法の観点だけでなく、著作権法の観点からも言及されているのが特徴です。
本論考では、まず一般論として
このような著作物であるアニメ等のキャラクターのコスチュームを作成することは、二次元的な表現形式を立体的な表現形式に変更する変形行為に当たり、元のアニメ等(原著作物)の著作権者の許諾なしに行うと、著作権侵害(翻案権、著作権法27条)となり得る。また、原著作物の翻案物である(二次的著作物)であるコスチュームを、原著作物の著作権者の許可なしに第三者に貸与することも、原著作物の著作権侵害(貸与権、著作権法26条の3)に該当する。ここで、著作権は、複数の支分権が集まったものであるところ、コスチュームの作成(翻案)と、コスチュームの貸与(貸与権)とは、別の支分権に該当する行為であるため、それぞれについて原著作物の著作権者の許諾を得なければならないことに留意が必要である。*1
江頭あがさ「ファッションローとコスプレ -コスプレ衣装貸与の法的問題点について―」(発明 2019年9月号、2019)46ページ
としたうえで、マリカー事件では、コスチュームの作成は適法(著作権者からライセンスを付与された第三者が製造したコスチュームを購入して利用)であるが、貸与の点が問題になっている点が指摘されています。
そして、「翻案物の貸与といえるか」の「翻案物かどうか(表現上の本誌素敵な特徴が感得されるか)」について
- 白田先生の論文(白田秀彰「マンガ・アニメ・ゲームにおけるキャラクターの本質的特徴について」中山信弘・金子敏哉編『しなやかな著作権制度に向けて―コンテンツと著作権法の役割―』(信山社、2017年)
- 江差追分事件(最判平成13年6月28日)
- 釣りゲーム事件(知財高判平成24年8月8日)
- マリカー事件におけるマリカー側の主張(翻案物成立否定の旨の主張)
を引用しつつ、
キャラクターの表現上の本質的な特徴はどこなのか、著作物とコスチュームの共通部分はありふれた表現ではないのか、という点は難しい判断となるだろう。
江頭あがさ「ファッションローとコスプレ -コスプレ衣装貸与の法的問題点について―」(発明 2019年9月号、2019)48ページ
と締めています。
1.7.愛知靖之「マンガ・アニメ・ゲームの「キャラクター」をめぐる法律問題ー「マリカー事件」を素材として」(法学教室8月号 No.479、2020)
江頭先生と同じく、マリカー事件を例にコスチュームの法的問題について論じられている文献になります。
本文献では、「マリカー事件のキャラクター(マリオ、ルイージ、ヨッシー、クッパ)の画像」と「各キャラクターのコスプレ衣装の画像(本文献では【図2】とされています。)」を比較した上で、以下のように述べられています。
※各画像は判決文から引用されています。
4つのキャラクターの内、「ヨッシー」と 「クッパ」に関しては、キャラクターの顔の表現も含めたキャラクター全体の表現自体は共通して再現されている。他方、本件では、キャラクターの体付きの表現が大きく異なるほか、(「クッパ」の甲羅の大きさなど)デザイン各部の表現に違いもあり、さらに、【図2】だけからはよく分からないが、このコスチュームは、完全な着ぐるみと異なり、着用した人間の顔が見える状態になる。このような場合にまで、類似性(創作的表現の共通性)を肯定することが可 能かが問題となるだろう。本件を離れて一般的に言えば、キャラクターの衣装のみを利用するケースよりも、着ぐるみタイプ(本件と異なり、特に着用者の顔が覆われるもの)の方が類似性は肯定されやすいだろう。
これに対して、「マリオ」と「ルイージ」に関しては、衣装のみが利用されているにすぎず、キャラクターの顔の表現が共通して再現されていない。キャラクターの顔や体付きこそが創作的表現なのだと考える場合には、この部分を共通にしていない以上、類似性は否定される。他方、衣装自体も創作的表現と認められ、これが共通して再現されていると言えるのであれば、類似性は肯定され得る。しかし、「マ リオ」と「ルイージ」の衣装については、帽子部分や衣服部分を単体で見れば、ありふれた表現であって創作性が認められないようにも思われるため、類似性を肯定するのは困難であろう。単なる被服という実用品の機能を超えた創作性(特徴的な装飾デザインなど)が求められるのである。他方、(衣装の全体的な配色や帽子の「M」のロゴなど)衣装デザインの諸要素の組合せ全体を見れば、ゲームにおける視認性確保(キャラクターの区別等)などを目的として採用されたコスチュームの配色・デザインなど具体的な表現に一定の個性・創意工夫が看取できるとして創作性を肯定することが仮にできるとすれば、類似性を肯定する余地が出てくるだろう。愛知靖之「マンガ・アニメ・ゲームの「キャラクター」をめぐる法律問題ー「マリカー事件」を素材として」(法学教室8月号 No.479、2020)47ページ
なお、本文献では、上記小倉先生のブログが脚注に登場します。普通にブログが脚注として引かれる時代なんですね。
1.8. 栗原先生の見解
例の「コスプレのルール化の記事」を契機に栗原先生が、『「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というのは本当か?』という記事を公開されています。
その中で、コスプレの上演権の該当性について以下のように言及されています。
上記記事中の気になる表現に「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というものがあります。本当でしょうか?著作権法で営利か非営利かが侵害に直接関係する条文は38条くらいです。非営利・入場無料・無報酬の上演・演奏・上映・口述等には著作権は及ばないという規定です。
ということは、コスプレは著作権法の「上演」にあたるということが前提なのでしょうか?確かにそのような解釈をされる人がいるようではありますが、戦隊ショーのようなドラマ仕立てなら別として、通常のコスプレイベントで元作品の演劇的要素を再現することはあるのでしょうか?
もし、他人の著作物を複製した衣装を身にまとって何かを演じると上演権を侵害するという広い解釈を行なってしまうと、自分で正規に買ったミッキーマウスのTシャツを着て、ライブハウスで演奏したり、劇場で漫才をしたりすると著作権侵害ということになってしまいかねません。
栗原潔『「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というのは本当か?』
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20210130-00220179/
1.9.その他
マリカー事件が勃発した当時に各識者(栗原先生、島並先生、小倉先生、奥邨先生)が呟いた内容を勝手にkanekoがまとめています。ご参考までに。
2.個人的意見
マリカー事件知財高裁判決でちゃんとコスプレの著作権侵害の有無について判断してほしかった。
以下、簡単に私見を。(といっても昔書いたブログの内容をほぼコピペですが)
※法的な見解として間違ってたらご指摘お願いします。
まず、ベース(元)となる原著作物として以下のどちらに着目するのかによって検討の方向性が変わってくると個人的には思っています。※小倉先生のご意見に近いです。
2.1.画像としての「キャラクターそのもの」に着目した場合
【原作品の著作物性(創作性)】
この場合には、画像としてのキャラクターについては、創作性は肯定されやすいと個人的には思います。(某人間とかだとキツイと思いますけど。)
※キャラクターそのものは法的な保護対象としては認められない点
【侵害有無】
第三者が無許可でコスプレをした場合の侵害有無については、「キャラクターとマジでそっくりなのかどうか」という観点で類似性の判断が必要になってくるように思われます。(=コスプレ時の衣装だけでなく、メイクや髪型までひっくるめて類似を検討する必要が生じるように感じます。)
また、この場合、 コスプレ衣装を人が着用した状態を複製物(翻案物)として認定することになるので、人体を著作権法上の権利義務の対象とすることができるのかという問題が生じることになります。(ただ、人体の「入れ墨」を著作物として認定した判決がある点は踏まえる必要がありそうです。入れ墨著作権事件⇒東京地判平成23年7月29日 平成21年(ワ)第31755号)
2.2.キャラクターの「衣装そのもの」に着目した場合
【原作品の著作物性(創作性)】
2の場合には、創作性についてのハードルが1より高く、
- 衣装がアニメのキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」といえるか
- 衣装単体で創作性を肯定できるか(応用美術的な論点)
(例:赤帽子・赤シャツ・青つなぎで創作性ありなん?みたいな)
といった点を検討しなければならないような気がします。後者はいわゆるファッションローを含む応用美術の問題と同様の問題となるのだと思います。
※もちろん、そもそも応用美術の論点にはならないとする考えもあります。(1.6.のリンク先の島並先生の呟き参照)
ファッションローや応用美術の論点についてはちゃんと勉強してないのでこれ以上は語れないのですが、
- 角田・関「ファッションロー」47ページ以降
- 田村善之「意匠登録がない商品デザインの保護の可能性」(コピライトNO.676 vol.57、2017)
- 作花文雄「詳解 著作権法」(ぎょうせい、2018)117 ページ以降
- 駒田泰土「商品のデザインと知的財産法」『法学教室』(有斐閣、2018)
- 著作権研究43(有斐閣、2018)
あたりが参考になるものと思われます。
【侵害有無】
第三者が無許可でコスプレをした場合の侵害有無については、コスプレ時の衣装のみの類似性を検討すれば足りると認識しています。
なお、2の場合は、仮に権利の保護範囲が広すぎるといろいろ問題が生じるような気がします。
2.3.いろいろ実例を比較してみる。
ただ文字で見る見ているより、実物で比較して検討してみた方がいいですよね。というわけで、法クラのコスプレをみて比較考察していきましょう。(怒られたら消す)
以降、今回のエントリーの本題とは関係のないkanekoの個人的なネタです。ご興味のない方はすっ飛ばしてください。
2.3.1.エントリーナンバー1 渥美先生
まずは渥美先生。
むしゃくしゃしてやってしまった。反省はしていない(34歳 女性 弁護士) pic.twitter.com/VisJe6Nlyw
— 弁護士 渥美 陽子 (@atsumilaw) February 1, 2019
反省する必要はないでしょう。けものフレンズのギンギツネですね。
2021/1/31追記
ちなみに渥美先生、他にもコスして話題になってますね↓
2021/1/31追記ここまで
以下が原著作物です。
出典:けものフレンズ公式twitterより
ギンギツネの擬人化キャラクターですね。
キャラクターの見た目の特徴はざっとあげるとこんな感じでしょうか。
【髪やしっぽ】
1.髪は背丈ほどの長さで銀髪だが、耳や前髪周辺は黒
2.尻尾は根元が黒で毛先が白
【顔】
3.目は茶色
4.下まつげが強調されている
5.眉毛はほそい
6.耳は2種類あり、獣耳は黒で人の耳は肌色
【服装】
7.黒シャツ黒マフラー?に黒いネクタイ
8.紺のブレザー
9.黒のスカート
10.黒のタイツ
11.黒の手袋で手首にファーみたいなのがある
12.黒のブーツ
比較してみるとこんな感じでしょうか。
1⇒ほぼ類似(髪の長さが微妙に異なる)
2⇒不明(写真では確認できない)
3⇒類似
4⇒類似
5⇒類似
6⇒ほぼ類似(獣耳の色は黒ベースだが、一方はピンク色が含まれるため微妙に異なる)
7⇒類似
8⇒類似
9⇒類似
10⇒不明(写真では確認できない)
11⇒不明(写真では確認できない)
12⇒不明(写真では確認できない)
単純に衣装だけ比較すると、相違点がいくつかあるのですが、メイクやヘアスタイルまで含めると類似割合が多くなるのが特徴的で、原著作物の類似性を認める余地が(ry
(下まつげとかカラコンとか似せるための工夫が随所に見られるので先生コスプレ初心者ではなくけっこうガチめのレイヤーだと思われます。)
また、衣装単体(ヘアスタイルやメイクを除く)で 創作性が認められるのか(著作物として成立するのか)という点ですが、どうでしょうか。個人的には厳しい気がします。
ちなみにけものフレンズは二次創作ガイドラインがあり、コスプレも原則として許可されています。
2.3.2.エントリーナンバー2 よみめいと先生
続いて、筋肉弁護士ことよみめいと先生。
#新しいプロフィール画像 pic.twitter.com/chN7C1VwJh
— 弁護士 小林航太@みんなで筋肉体操 (@yomimate) May 2, 2018
FGO(Fate/Grand Order) のオジマンディアス ですね。
原著作物はコチラ
©TYPE-MOON/FGO PROJECT Fate/Grand Orderゲーム画面より
クオリティが高すぎるw(腹筋・胸筋含めて)
もはや原著作物との相違点を見つける方が難しいレベルですね。(比較を放棄した)
ちなみにFGOも二次創作ガイドラインがあります。(コスプレは明記されてないので判断しにくいですが)
Fate/Grand Order 二次創作に関するガイドライン|Fate/Grand Order 公式サイト
2.3.3.特別枠 ののみーさん
現在の状況はわかりませんが、kanekoがフォローした当時、ののみーさんはロースクール生だったと思います。
海外だと最も拡散された私のコスはこの写真だと思う。男性だよ。 #平成最後に自分史上一番バズった写真を貼る pic.twitter.com/ilNPlhcjK7
— ののみー (@BeyondTheWishes) April 29, 2019
原著作物は東方Project(上海アリス幻樂団)の聖白連ですね。構図的にはイラストよりフィギュアの方が比較しやすいかも。
ガチですね。(比較を放棄)
なお、東方projectも二次創作に慣用であることは有名ですね。
東方Projectの版権を利用する際のガイドライン 2011年版 : 博麗幻想書譜
2.3.4.エントリーナンバー3 kaneko
さて、いままではガチのレイヤーを見てきましたが、「ガチでやると元のキャラクターをかなり再現できる」ということがわかったと思います。
では素人がやるとどうなるのでしょうか。
こうなります。
※自己のプライバシー保護のため、一部にモザイク加工をしております。
もはや何のコスプレかわかりません。今までご紹介して来た方々に謝ったほうがいいような気がします。
ともかく、真面目に著作権法的な観点から見ていきましょう。
無理やり着せられたので特に誰かのキャラクターに似せたわけではないのですが、ユニフォームは下記がモデルだと思います。
© 許斐 剛 「テニスの王子様 完全版」より
テニスの王子様の氷帝学園のユニフォームですね。(マンガ版とアニメ版では多少異なるのですが、この写真の衣装はマンガ版がベースっぽい)
まず、上記写真は特に特定のキャラクターに寄せていませんので(メイクやヘアスタイルを寄せてはいない)、キャラクターに似ているとはいえないでしょう。(そう信じてる)
福井先生のこの言葉がリフレインしてきますね。 →「単にあまり似ていない」
では
- 氷帝学園のユニフォームはそもそも著作物として保護されているといえるのか
- 保護されてるとして、写真の衣装は原作品を複製・翻案等しているといえるのか
を考えなければなりません。
氷帝学園のユニフォームの特徴としては下記でしょうか。
1.全体的に白地ベースに紺(or青)※アイスブルーというらしい。
2.襟が黒
3.左右非対称
4.肩に7本の縦の黒ライン
といはいえ、かなりシンプルなデザインなので創作性があると言うのはちょっと厳しいような気もします。(と書きながら米国のチアリーディングユニフォームに関する事件を思い出す。)
念のため写真の衣装との比較もしてみましょう。
主な類似点としては下記でしょうか。
1⇒ほぼ類似?(ただ、写真の衣装は青色が薄い気がする)
2⇒類似
3⇒類似?(ただし、デザインが左右逆)
4⇒類似?(ただし、デザインが左右逆なのでラインが右肩ではなく、左肩にある)
デザインが逆であるのをどうみるかというところでしょうか。
というか左右逆とかこの衣装もしかしてパチモn(略
というわけで、少なくともガチのコスプレイヤーの方々に比べると著作権侵害の可能性は低いのではないでしょうか。(個人的意見です。)
とkanekoが体をはった実験をしたところでそろそろ終わりましょうか。
3.最後に
「コスプレと著作権」に関する論文がもっとでてくると嬉しいなと思います。(マリカー事件以降だいぶ出てきたけど)
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【更新履歴】
2020/3/29:
- 江頭先生の論考を追加
2020/9/3:
- 愛知先生の文献を追加
- 「3.最後に」を修正(論文結構出てきたので)
2020/9/4
2021/1/23
- 小倉先生のnoteを追加
2021/1/31
- 栗原先生のYahoo!ニュース個人の記事を追加
- 渥美先生の記事を追記
*1:個人的にコスチュームを作成する行為については、私的使用目的の範疇内である旨の補足説明あり
*2:フィギュアを販売していたグリフォンエンタープライズは今年1月に破産。画像はamazonの販売ページより引用