Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」を読みながら「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化の拡大」を少し考えてみる

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 とつぶやいたので少しだけブログに書いてみた。

 

 現在、音楽や映画等の動画コンテンツに限定されている「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化」の対象が書籍・写真・論文・プログラム等まで含まるように改正されようとしているようです。

 

 この話を同僚としていた際に「あれ、そもそも違法じゃなかったの?なんで現状動画だけアウトなの?」と言われたので改めて以下の書籍を読み返してみました。

 

 

 この2冊の書籍は、日本の著作権法の改正過程を考察し、批判的に記載された書籍です。

 特に「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化」および「ダウンロード行為の刑事罰化」に関して詳細に記載されています。

 なお、本書1のあとがきに以下の記載があるとおり、著者の立場は理解した上で読む必要があります。

わたしは、著作権を厳しくし過ぎることには反対の立場なので、文章の端々にそれが出ているだろう。著作権擁護派のひとが読んだら、きっと激しい反感をもたれる部分もあるに違いない。

本書1 201ページ

 

1.この2冊の書籍を読むとわかること

  • 私的録音録画補償金制度の抜本的な見直し」が議論ベースなため、私的ダウンロード違法化の対象となる違法コンテンツも「録音録画(動画や映画)」に限定されたこと

 音楽と映画の業界団体の要望がベースにあり、動画や映画に限定されたようです。

 

  • 海賊版による被害額の統計情報に関する数字の信憑性には疑問がある点が指摘されていること

本書1では、文化庁が権利者団体の資料から引用した「2004年の1年間にファイル交換ソフトでダウンロードされた違法音楽ファイル数:1億900万」

本書2では、「違法ダウンロードの被害額:6683億円」

についてそれぞれ数字の根拠に疑問がある点が指摘されています。 

 

  • 私的ダウンロード違法化の際にあれほど「刑事罰は適用しない」としていたのに結局刑事罰化されたこと

 これは非常に興味深い内容になっています。

 本書1において、違法ダウンロードの刑事罰適用について、以下のような記載があり、刑事罰化しない前提で違法化したことがわかります。

この「情を知って」の限定がかかっていることに加えて、中山は刑罰についても事務局案の確認を求めた。著作物流通推進室長の川瀬は、個人のためのコピーならば違法でも罰則は適用しないのが現行法の趣旨だと答えた。「情を知って」のコピーであることっと罰則は設けないこと、このふたつを条件としてダウンロードを違法化する案に合意するよう中山はうながし、津田もそれ以上の異論は出さなかった。

本書1 137~138ページ

 にもかかわらず、違法化から2年後には刑事罰化したことがわかります。(詳細は本書2を参照)

 

  • 従来から、私的ダウンロード違法化の対象となる違法コンテンツの「録音録画(動画や映画)」から全著作物への拡大は米国から要求はされているし検討もしていること

 「録音録画(音楽や映画)」以外への適用に関しては 実は今に始まったことではないことがわかります。

 

2.静止画に拡大されることについて

 さて、今回の ダウンロード違法化の拡大に関しては、やはり賛否両論のようです。

【賛成派の意見】

 

【反対派の意見】

 

その他の賛否については、まとめ案の57ページ以降に記載があります。

 

3.最後に個人的にもやもやしている点を吐き出してみる

 個人的には強く反対はしないもものの、いくつか違和感を感じています。

 

  • 著作権法が個人の範囲内にまで乱入してくる違和感

まとめ案の59ページに以下の記載があります。

違法にアップロードされた著作物から私的使用目的で便益を享受しようとするユーザーの行為には,個別的には許容され得るものはあるかも知れないが広く一般的に許容されるべき正当性はない,ということを前提に考えるべきである。 

 まったく ロジカルに説明できないのですが、個人的にはそもそも著作権法が個人(家庭)の範囲内にまで及んでくることにすごく違和感を感じています。(これは、音楽や映画の私的ダウンロードが違法化された時から感じている違和感です。)

 まとめ案にある、『「違法にアップロードされた著作物であってもユーザーにはそこから私的使用目的で便益を享受する自由が一定程度存在し,それを尊重する必要がある」(ユーザーの自由が原則)』*1という立場ほどの考えではないのですが、「そこまでする必要あるの?」と感じてします。

 もちろん、今回の改正検討の趣旨も理解できますし、要件に一定程度の限定を入れており、誤解を生まぬようにわざわざパブコメのまとめ案に留意事項を付しているように委員会(文化庁)として国民に対する配慮も見て取れます。

 ただ、「抑止効果のため」だけにこのような広範囲の違法化を行うことには依然として違和感を感じます。

 

  • 違法コンテンツの私的ダウンロード違法化を拡大することで、出版業界等のコンテンツホルダー側は本当に回復するのかという素朴な疑問

 ここについては、別途統計データ等をひっぱってきて検討してみたいと思っているのですが、「音楽の私的ダウンロードを違法化&刑事罰化してCD売上や音楽配信売上は伸びたんだっけ?出版でも同じことがいえるんじゃないの?海賊版を規制することでどれくらい出版業界等のコンテンツホルダーの売上が回復するのかな?」という素朴な疑問を持っていたりします。

 

  • 条文の内容によっては、二次創作物の私的ダウンロードも違法になるんじゃね?という懸念

現行法は以下のようになっていますが、

第三十条(私的使用のための複製)

著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

(中略)
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

 (どのような条文になるのかによって大きく変わってきますが、)

 もし対象を「デジタル方式の録音又は録画」から「デジタル方式の複製」とかになった場合、二次創作への影響も少なからずあるように思われます。 

 というのも「著作権を侵害する 」というのは翻案権侵害も含むと思われますので、『原作者に無断で二次的著作物である同人誌やイラストを作成した作者が自身でSNSに当該二次的著作物をアップした場合、これをフォロワーが私的にダウンロードする行為』も厳密には違法になるのではないかと懸念します。

 まぁ、考えすぎなのかなと思ったりしますが。 

 

  • 「ダウンロード」は違法で「購入」は違法ではないという違和感

 私的利用目的での違法著作物のダウンロードが違法になる一方で、海賊版(違法著作物)書籍等を私的利用目的で購入する行為は引き続き合法になると理解しています。ダウンロードは複製行為が発生するという違いはあるものの、形式的にはほぼ同じような行為なのに違法かどうかが変わってくることに違和感を感じます。

 この点は、島並先生が連続ツイートされています。

 

 

 

 

 

 

 

なお、 パブコメの締め切りは1/6まで。

search.e-gov.go.jp

 

*1:岡邦俊「著作物を楽しむ自由のために」(2016、勁草書房)において言及されている著作物の受け手としての自由を指すものと理解している。