「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」を読みながら「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化の拡大」を少し考えてみる
「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化の拡大」に関しては、パブコメでたらしっかり読んだ上でちょっと私見を呟こうと思います。
— kaneko (@kanegoonta) December 7, 2018
とつぶやいたので少しだけブログに書いてみた。
現在、音楽や映画等の動画コンテンツに限定されている「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化」の対象が書籍・写真・論文・プログラム等まで含まるように改正されようとしているようです。
この話を同僚としていた際に「あれ、そもそも違法じゃなかったの?なんで現状動画だけアウトなの?」と言われたので改めて以下の書籍を読み返してみました。
- 山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」(2011、人文書院)(以下、本書1)
- 山田奨治「日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか」(2016、人文書院)(以下、本書2)
「違法コンテンツ(静止画)の私的ダウンロード違法化」が検討されている今、改めて読み返してる。 pic.twitter.com/3DkKnPpqig
— kaneko (@kanegoonta) November 11, 2018
この2冊の書籍は、日本の著作権法の改正過程を考察し、批判的に記載された書籍です。
特に「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化」および「ダウンロード行為の刑事罰化」に関して詳細に記載されています。
なお、本書1のあとがきに以下の記載があるとおり、著者の立場は理解した上で読む必要があります。
わたしは、著作権を厳しくし過ぎることには反対の立場なので、文章の端々にそれが出ているだろう。著作権擁護派のひとが読んだら、きっと激しい反感をもたれる部分もあるに違いない。
本書1 201ページ
1.この2冊の書籍を読むとわかること
- 「私的録音録画補償金制度の抜本的な見直し」が議論ベースなため、私的ダウンロード違法化の対象となる違法コンテンツも「録音録画(動画や映画)」に限定されたこと
音楽と映画の業界団体の要望がベースにあり、動画や映画に限定されたようです。
- 海賊版による被害額の統計情報に関する数字の信憑性には疑問がある点が指摘されていること
本書1では、文化庁が権利者団体の資料から引用した「2004年の1年間にファイル交換ソフトでダウンロードされた違法音楽ファイル数:1億900万」
本書2では、「違法ダウンロードの被害額:6683億円」
についてそれぞれ数字の根拠に疑問がある点が指摘されています。
これは非常に興味深い内容になっています。
本書1において、違法ダウンロードの刑事罰適用について、以下のような記載があり、刑事罰化しない前提で違法化したことがわかります。
この「情を知って」の限定がかかっていることに加えて、中山は刑罰についても事務局案の確認を求めた。著作物流通推進室長の川瀬は、個人のためのコピーならば違法でも罰則は適用しないのが現行法の趣旨だと答えた。「情を知って」のコピーであることっと罰則は設けないこと、このふたつを条件としてダウンロードを違法化する案に合意するよう中山はうながし、津田もそれ以上の異論は出さなかった。
本書1 137~138ページ
にもかかわらず、違法化から2年後には刑事罰化したことがわかります。(詳細は本書2を参照)
- 従来から、私的ダウンロード違法化の対象となる違法コンテンツの「録音録画(動画や映画)」から全著作物への拡大は米国から要求はされているし検討もしていること
「録音録画(音楽や映画)」以外への適用に関しては 実は今に始まったことではないことがわかります。
2.静止画に拡大されることについて
さて、今回の ダウンロード違法化の拡大に関しては、やはり賛否両論のようです。
【賛成派の意見】
- ダウンロード違法化への意見、及び出版界の海賊版対策について(日本書籍出版協会提出資料)
- ダウンロード型海賊版サイトへの対応状況(日本雑誌協会提出資料)
-
静止画ダウンロードの違法化を推進する理由、講談社の見解 | 日経 xTECH(クロステック)←有料記事なのでkanekoは未読
【反対派の意見】
- 海賊版サイトブロッキングが去って、静止画ダウンロード違法化がやって来る? | YamadaShoji.net
- 文化庁文化審議会法制・基本問題小委員会で静止画ダウンロード規制に関して意見を述べました - MIAU
- ダウンロードの違法、犯罪化対象の拡大は権利保護に逆行
- 静止画や小説等ダウンロードの違法化/処罰化に強く反対する
その他の賛否については、まとめ案の57ページ以降に記載があります。
3.最後に個人的にもやもやしている点を吐き出してみる
個人的には強く反対はしないもものの、いくつか違和感を感じています。
- 著作権法が個人の範囲内にまで乱入してくる違和感
まとめ案の59ページに以下の記載があります。
違法にアップロードされた著作物から私的使用目的で便益を享受しようとするユーザーの行為には,個別的には許容され得るものはあるかも知れないが広く一般的に許容されるべき正当性はない,ということを前提に考えるべきである。
まったく ロジカルに説明できないのですが、個人的にはそもそも著作権法が個人(家庭)の範囲内にまで及んでくることにすごく違和感を感じています。(これは、音楽や映画の私的ダウンロードが違法化された時から感じている違和感です。)
まとめ案にある、『「違法にアップロードされた著作物であってもユーザーにはそこから私的使用目的で便益を享受する自由が一定程度存在し,それを尊重する必要がある」(ユーザーの自由が原則)』*1という立場ほどの考えではないのですが、「そこまでする必要あるの?」と感じてします。
もちろん、今回の改正検討の趣旨も理解できますし、要件に一定程度の限定を入れており、誤解を生まぬようにわざわざパブコメのまとめ案に留意事項を付しているように委員会(文化庁)として国民に対する配慮も見て取れます。
ただ、「抑止効果のため」だけにこのような広範囲の違法化を行うことには依然として違和感を感じます。
- 違法コンテンツの私的ダウンロード違法化を拡大することで、出版業界等のコンテンツホルダー側は本当に回復するのかという素朴な疑問
ここについては、別途統計データ等をひっぱってきて検討してみたいと思っているのですが、「音楽の私的ダウンロードを違法化&刑事罰化してCD売上や音楽配信売上は伸びたんだっけ?出版でも同じことがいえるんじゃないの?海賊版を規制することでどれくらい出版業界等のコンテンツホルダーの売上が回復するのかな?」という素朴な疑問を持っていたりします。
- 条文の内容によっては、二次創作物の私的ダウンロードも違法になるんじゃね?という懸念
現行法は以下のようになっていますが、
第三十条(私的使用のための複製)
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(中略)
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
(どのような条文になるのかによって大きく変わってきますが、)
もし対象を「デジタル方式の録音又は録画」から「デジタル方式の複製」とかになった場合、二次創作への影響も少なからずあるように思われます。
というのも「著作権を侵害する 」というのは翻案権侵害も含むと思われますので、『原作者に無断で二次的著作物である同人誌やイラストを作成した作者が自身でSNSに当該二次的著作物をアップした場合、これをフォロワーが私的にダウンロードする行為』も厳密には違法になるのではないかと懸念します。
まぁ、考えすぎなのかなと思ったりしますが。
- 「ダウンロード」は違法で「購入」は違法ではないという違和感
私的利用目的での違法著作物のダウンロードが違法になる一方で、海賊版(違法著作物)書籍等を私的利用目的で購入する行為は引き続き合法になると理解しています。ダウンロードは複製行為が発生するという違いはあるものの、形式的にはほぼ同じような行為なのに違法かどうかが変わってくることに違和感を感じます。
この点は、島並先生が連続ツイートされています。
著作権に含まれる各種の支分権の多くは、提示型(上演、上映等)・提供型(譲渡、貸与等)のいずれも、著作物を他者に伝える行為を規制している。つまり、著作物を他者から受け取り、それを楽しむ行為は広く適法とされており、その点は、たとえば海賊版書籍の購入や読書でも同様だった。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
支分権のうち唯一、複製権だけが著作物を他者へ伝える行為以外を規制する。ただし、複製により複製物の数が複製者の手元で増えるだけでは著作権者に損害はないはずであり、それが規制されるのは、あくまで事後の複製物拡散への準備行為が理由。(以上、20年近く前に書いたことの要約)
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
本題に戻ると、ダウンロード自体は、そもそも著作物を他者から受け取る行為に過ぎない。違法にアップロードされた著作物をDLするのと、海賊版書籍を路上で購入するのとは、形式的な「複製」の有無以外に、実質的な差はない。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
複製物が増えるとそれだけ事後的な拡散による損害発生(正規版の売上減少)の危険は高まるが、著作権法はその危険が「私的」領域に留まる限り複製行為を規制せず、そこから公的領域へ拡散させる目的があって初めて規制対象としてきた。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
現行法上すでに私的使用目的でないダウンロードは違法であり、さらにダウンロードしたファイルを公衆送信することも違法なので、それを越えて著作物を受け取る行為を(違法アップロード著作物&故意限定とはいえ)規制するのは、むしろそちらの方に強い正当化理由が必要ではないか。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
なお、違法アップロードされた著作物を「受け取る権利(ないし自由)」はネットユーザーにはないと思われるので、接続遮断を適法化する立法は可能だろう(その技術的有効性は別論)。先程来の私見は、あくまでダウンロード違法化、つまり複製により「受け取らない義務」の拡大に反対するもの。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
なお、 パブコメの締め切りは1/6まで。
法務にtwitterをおすすめする3つくらいの理由 #legalAC
これは法務系 Advent Calendar 2018のエントリーになります。
なぜか今年のとりまとめをすることになったkanekoです。
初っ端のエントリーですね。ハードルがっつり下げていきたいと思います。
さて、気づいたらtwitter歴8年目になるのですが、なぜか最近周りの人から「twitterって何がいいの?」とよく聞かれます。(一応IT系でありながら、うちの法務ってtwitterしてる人ほとんどいないんですよね。昨日「クソ物件オブザイヤー」とか言ってもまったく通じませんでした。)
ということでそういった人向けに「法務がtwitterするメリット」を思いつく範囲で書いてみようと思いました。*1
本当は「個人データの第三者提供時のトレーサビリティ義務ってちゃんとみんなやってんの?」というエントリーを書き上げたのですが、あまりにニッチすぎると思ってやめました。。。
1.情報収集、情報共有しやすい
個人的にはこれが一番のメリットだと思っています。
kanekoの情報収集の99%はtwitter経由です。間違いない。
・その道の専門家のコメント
・最新の法律関連のニュース(法改正情報や事件を含む)
・業務効率化ツールの紹介
・おススメ書籍の書評
とかが無料かつタイムリーに把握できます。
このAdvent CalendarもTwitterベースで拡散して始めているのでその一つだと思います。
kanekoの場合は、twitter経由で収集した最新情報を部内で共有していたりします。
なお、twitterは情報量が多く取捨選択していく必要があるので、kanekoはフォローとは別に情報収集用リストを作成していたりします。他のツイッタラーの方はどのようにされているのでしょうかね。
また、自分で情報を発信すれば、反応がすぐに返ってくるのもtwitterのいいところだと思います。*2
やり方を工夫すればインプットだけでなく、アウトプットにも向いていると思います。
ちなみにtwitterをしていると「この人スゲー」っていう人だけでなく、「この人いつ仕事しているんだろう」とか「この人いつ寝ているんだろう」という人が大量に出てきておもしろいですよね。
2.同業種の人とつながることができる
ただフォローして見ているだけでもよし、
オフ会に行って実際に会ってみるもよし、
実名でもよし、匿名のままでもよし
自分の希望する距離感でつながれるのがいいところだと思います。
※もちろん場合によっては粘着されたり、炎上したり(以下自重
特に法務の人はあまり外にでて積極的に交流していく人が少ない傾向にある(某氏談)ように思われるのでこういった交流できる場は意外と重要な気がします。
※ところでオフ会といえば、法務LTって最近ないですね。(特定の方面を眺める)
3.仕事にもつながるかも
twitterのつながりでお仕事を依頼したり、依頼されたりするケースもよく発生します。
依頼したケースではクオリティの高い対応を頂くケースしかなく、Twitterやっててよかったなぁと思ったりします。
(その一方で依頼されるケースではご依頼に添える対応ができていなくて心苦しい部分もあったりしますが)
あとTwitter経由で転職した人も最近よく聞くようになりましたね。すごい時代だ。
最後に:個人的にフォローするといいかもなアカウント
よく「誰をフォローするといいのか」も聞かれるのですが、とりあえずはっしーさんのブログを3連単で爆撃させてます。
企業法務マンサバイバル : Twitterでフォローすべき20人の偉大なビジネス法務系スター
企業法務マンサバイバル : Twitterでフォローすべき20人の華麗なる法務職人
企業法務マンサバイバル : ビジネス法務の話題を効率良くインプットしたい方にお勧めなtwitterアカウント20選
でも爆撃だけだとエントリー的には物足りないので
これ以外で(kanekoの個人的な独断と偏見で選んだ)フォローするといいかもなアカウント20選をお送りします。
※kanekoの個人的興味の関係上、知財と個人情報関係の方が多めです。
※掲載にあたり本人許可とってません。載せられるのを拒否りたい方はあとでコッソリ消しますので教えてください。
アカウント名 | ひとこと紹介 |
babel0101 | おなじみ「憲法ガール」シリーズ著者。 |
conductor_hvk | 特許分析のプロ。大学院時代にお世話になりました。 |
kengolaw | Link Taxのエントリーめっちゃ参考になりました。あと、とても風を感じます。 |
Toshimitsu_Dan | かの有名なWinny事件で弁護団事務局長を務められていた先生。 |
naoki_kurokawa_ | 法務に限らず気になるニュースをツイート。ラフランスおいしそう。 |
kaz_miyashita | 「逆引き」シリーズ著者。セミナー動画を公開されていて毎回更新が楽しみ。 |
NoroYuto | プライバシー関連のツイート参考になります。 |
wakateben | プライバシー関連が多いですが、自戒を込めた呟きに共感します。 |
gvashunyamamoto | おなじみAI-CONの人。僕も丸は巨人に行くべきではなかったと思います。 |
kenta_holmes | おなじみHolmesの人。 |
d_ta2bana | おなじみクラウドサインの人。 |
lawyer_alpaca | ファイナンス関係の呟きいつも参考になります。 |
tetsuyaoi2tmi | 「アドテク×法」といったら個人的にこの方。 |
kakurezat | こぶたパパさんと同じくツイートが増えると季節を感じます。 |
実は育児ブログが楽しみ(そこじゃない | |
keibunibu | 鋭い考察いつも参考にさせていただいております。 |
Junki_Kosaka | 現在鍵アカなのですが、欧州の法律関連のツイートとても参考になりました。 |
NakagawaRyutaro | 日本国内だけでなく、欧州系の知財判例を速報ツイート。 |
kaz_tan | リツイート事件の判例評釈は必読。 |
OKMRKJ | 著作権がご専門ですが、企業法務関連でもツイート多し。 |
ipfbiz | 弁理士×公認会計士という珍しい?先生。IPFbiz更新されないかな。 |
fr_toen | 著作権関連の欧米の判例がでると翻訳してブログにアップしてくれます。いったい何者なのでしょうか。。。 |
Fhijino | 商標×ブランディングについてアツくツイートしてくれています。 |
benrishikoza | 「独学の弁理士講座」管理人。弁理士受験生におすすめ。 |
hamhambenben | なんだか旅に出たくなります。『日本全国裁判所めぐり』『日本全国判例マップ』の管理人。 |
え、全然20人じゃないって?
いいじゃないですか判例百選だって(以下略
それではみなさん引き続き素晴らしいtwitterライフを!
お次は Nakagawaさん(旧しょぼんぬさん)です。
アドテク関連データを個人情報として取り扱わなくていいのか
最近アドテク(アドテクノロジー:広告関連技術)領域の勉強をしているのですが、「アドテク関連で取り扱うデータは個人情報(データ)として取り扱うべきなのでは?」と思い、各種文献がどのように記載しているのか確認してみました。
といってもよさそうな文献はほとんど見つけることができませんでしたが。。。 *1
1.「オーディエンスターゲティング広告における匿名加工情報の利用に関する提言」
まずは、一般財団法人情報法制研究所オンライン広告研究タスクフォース「オーディエンスターゲティング広告における匿名加工情報の利用に関する提言」から。
この報告書は、広告代理店等の広告事業者が匿名加工情報を適法に利活用する方法を提言するものなのですが、前半部分はオンライン広告の仕組みや歴史、改正個人情報保護法上の懸念事項等の説明に割いており、アドテク初心者にも理解しやすい資料となっています。
この報告書のなかに、オーディエンスデータ(オンライン広告事業者が保有する、アドサーバを通じて蓄積されるユーザの閲覧履歴を基に構成したユーザ毎のデータ。要は広告事業者が保有するアクセスログデータ)の個人情報保護法上の扱いについて以下のように記載されています。
※下線部はkaneko
オンライン広告事業者が自ら作成する前記の「オーディエンスデータ」は、大抵の場合、個人情報保護法の「個人情報」定義(2条1項)で言うところの氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等を含んでおらず、また、オーディエンスデータと容易に照合することができる他のデータとして個人情報をオンライン広告事業者が保有しているわけでもないことから、これまで、オーディエンスデータは個人情報保護法が定義する「個人データ」(2 条 6 項)に該当しないものとして取り扱われてきた 。
他方、メディア事業者が保有する前記の「ユーザデータ」は、メディア事業者の事業形態によっては、氏名等と共に一体的に管理される情報となっていて、法の「個人データ」に該当するものとなっている場合がある。その場合に、「ユーザデータ」から一部の属性情報を切り出したものが当該事業者において「個人データ」に該当するかは、データの性質によるものであるが、データの内容が履歴情報である場合等、詳細なものとなっている場合には、元のデータとの照合によって「個人データ」に該当するものとなっている場合が少なくないと考えられる。
オンライン広告において、メディア事業者、オンライン広告事業者、広告主の各ステークホルダにおけるデータの取扱いが、個人情報取扱事業者としての義務(個人情報保護法第 4 章の規定)の対象となるかは、取り扱うデータが「個人データ」に該当するかによる。「オーディエンスデータ」は、前記のように、これまで、「個人データ」に該当しないものとして取り扱われてきたことから、日本では、オンライン広告の法令適合性を個人情報保護法に照らして検討することはなされてこなかった。
しかし、諸外国においては、特に EU(欧州連合)諸国においては、従前のデータ保護指令 (Data Protection irective) の下で、ターゲティング広告で用いるオーディエンスデータが「personal data」に該当するとされ 21、法の義務の対象であったこと、また、米国においては、連邦法による規制はないものの、連邦取引委員会 (FTC) の監視の下で業界団体による自主規制の取組みが続けられてきた 22 ことから、それらの国々でサービスされるターゲティング広告では、ユーザによるオプトアウトの機会を確保することや、透明性確保のため事実関係を公表することが、実務上必要な措置となってきた。その結果として、日本のオンライン広告事業者においても、特に国際的にサービスを展開している場合には、同様の措置が必要となっていた。p25
なお、本報告書では、オーディエンスデータとユーザーデータを「個人データ」と仮定して提言を行っているのですが、その場合、以下の論点が生じる旨が記載されています。
- 従前より行われているターゲティング広告の事業が、日本の個人情報保護法に照らして適法と言えるか*2
- ユーザ識別子(cookie、IDFA 等の端末識別子、メディア事業者が運営する媒体のアカウントID、メールアドレス等の識別性を持つ情報)によるターゲット指定の方法が用いられている場合には、ターゲット指定のためのユーザ識別子の送信が、個人データの第三者提供に当たるのではないか
2.「データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A」
続いてはこちら
データを取り扱う上で問題となる法律問題についてQ&A形式で書かれている書籍です。はしがきに「個人情報保護法以外を重視」と書かれている通り、個人情報以外の関連法についても幅広くかつしっかり記載されていて非常に参考になります。
もちろん、アドテク領域の言及もあり、AppleのITPに関する記載があるのには驚きました。
本書ではDMPで取り扱うデータの個人情報保護法上の扱いについて以下のような記載があります。
※下線部はkaneko
DMPサービスやこれに付随するサービスでは、各利用者の様々なデータを連携するため、DMPサービスの利用業者が有する顧客データ、及び、DMPサービス事業者(又はDMP関連ツールサービスの提供事業者)が有することとなる顧客データのいずれもが、個人情報に該当してしまう場合が多いと考えられます。
顧客の氏名の情報を取得していなかったとしても、広告ID、SNS ID(例.Facebook ID)、メールアドレス等の容易に照合できる情報を通じて、本人を特定できてしまうケースがあれば、個人情報を含むことになるからです。特にメールアドレスについては、「個人名@ドメイン」等と、個人名を含むメールアドレスとしている利用者も少なくないですから、個人情報を含むと整理することが通常です。
関係先企業、あるいは、自社の関連部署から、個人情報を取り扱っていないとの説明を受けても、これをうのみにせずに、慎重な検討を行うことが重要です。
p118
3.少しだけ個人的に思ったこと
個人的に感じていることなのですが、今のアドテクを含めたデジタルマーケティング領域でのトレンドは「データとデータをくっつけていかにリッチするか」になっていると思っています。昔であれば、氏名や電話番号等を含まないデータ同士をくっつけるのは容易ではなかったはずですが、今ではCookieSYNCやIDSYNCといったアドテク手法やTreasureDataやDrawBrigdeを利用したデータ連携を利用すれば容易にくっつけることができるようになってきたと感じます。
非個人情報であるデータが転々流通していくなかでデータがくっついて突然個人情報になることも十分想定できるのではないでしょうか。(データを提供する際に提供元では個人データではないが、提供先で個人データに該当するケース)
たとえ氏名等に到達できないデータを保有していたとしても、長期蓄積性やデータ連結可能性があるのであれば、できるだけ個人情報として扱い、本人同意の取得等の対応を行っていくようにすべきなような気が個人的にはしています。
(また、GDPRやePrivacy規則案を踏まえてもアドテク領域のデータは日本でも個人情報として扱うほうがいいのではと思ったり。)
もちろん、広告ターゲッティングの仕組み上、難しい場合があることは理解しているつもりですが・・・
H30年改正著作権法はAIの発展を後押しするのかちょっとだけ検討してみた。
という少々煽った?題名をつけてみましたが、
先日ビジネスロージャーナルの池村先生の記事*1を読んだ後に早稲田大学で上野先生のH30年著作権法改正に関する講演を聴いてきたのですが、AIを含む情報解析を生業とする企業にとっては影響が大きい部分がありそうだったのでメモ。
1.著作権法大改正?
今年の著作権法に関係する改正は多岐にわたり、
だけでなく、
- デジタル教科書関連の対応が含まれる「学校教育法等の一部を改正する法律」
- TPP関連の「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(保護期間延長、一部非親告罪化、アクセスコントロール対応等)
- 一般継承による著作権移転の対応要件の変更が含まれる「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」
と盛りだくさんとのこと。
kanekoもカバーできていない部分もたくさんありました。
2.柔軟な権利制限規定
これらの改正の中でも機械学習(AI)系で影響がありそうなのは柔軟な権利制限規定の項目です。今回の改正の目玉の一つだと思います。
池村先生の記事の中では
「柔軟な権利制限規定」は、かつての「権利制限の一般規定」「日本版フェア・ユース規定」から名称こそ変化を遂げているものの、その意味するところは実質的に同一である。
と書かれている通り、日本版フェアユースとやらがついに導入されたわけですね。よく内閣法制局とおったなーというのが素直な感想です。
著作物の利用に関して権利者の利益を害するレベルを3つに分けて各条文が作られているわけですね。
池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126)より
今回の改正法は現行法をゴッソリ変更しているため、対応関係を理解するのが大変です。特に47条シリーズはカオスの一言です。
池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126)より
今回の改正は司法試験受験生泣かせの改正かもしれません(上野先生がそうおっしゃってました。)。
弁理士試験に関しても、現在は論文試験には著作権法はありませんが、短答にはありますので、少なからず影響しそうです。(不競法改正もありますからね。)
3.AI関連で関係がありそうな条文(改正法30条の4と47条の5)
さて、AI関連で影響がありそうなのは改正法30条の4と47条の5になります。
改正法の条文はこちら(新旧対照表)
(Ⅰ)30条の4 非享受利用
なんやねん、非享受利用って!意味わからんやん!
と思ったあなた。まったくの同感です。
非享受利用とは、「視聴者等(需要者)の知的又は精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないこと」のよう。
「視聴する人が一応見てはいるけど、楽しんだり鑑賞したりしない行為」はある程度OKよということかな。
AI関連では2号がメインですが、1号から順に見ていきましょう。
(1)第1号 技術開発・実用化のための試験の用に供するための利用
「動画圧縮技術の開発のためにテレビの放送番組を実用的に録画・変換すること」が例としてあげられているように、現行法30条の4の規定がほぼそのまま残っているイメージ。
ただし、以下点が現行法と異なるので注意。
・未公表著作物も対象
・但書による限定(されるものの現行法で許容されていた範囲は引き続き許容されるよう)
(2)第2号 情報解析のための利用
日本で機械学習が許容される根拠としておなじみの現行法47条の7がこちらにジョイン。権利範囲も拡大しています。
変更のポイントは下記とのこと。
- 「情報解析」の定義の変更
「情報解析」の定義から「統計的な」が削除されたため、統計的ではない解析行為も許容されるようです。
- コンピュータを用いない情報解析も許容
(上野先生いわく、「新聞記事の解析のために紙でコピー」、「テレビ番組の解析のための録画」も含まれることになるとのこと)
- 複数主体による情報解析も許容
情報解析を行う第三者のために、著作物を複製し、当該第三者に譲渡や公衆送信することも許容されるよう。(上野先生いわく、「他社のためにAI開発用データセットを作成、複数事業者で共有」も可能とのこと)
現行法で複数事業者(各社で役割分担をしているようなケース)で機械学習を行う場合の懸念が解消されたわけですね。
機械学習系だと
・自社では完結できずに第三者に委託したり、第三者からデータセットを購入したりする場合
があると思うのでこの内容はいい意味で影響が大きいです。
なお、1号と同じく但書による制限があるので注意。現行法で規定されていた解析用データベース著作物については引き続き許容されないもよう。
(3)第3号 電子計算機による知覚認識なき利用
情報通信設備のバックエンドで行われる著作物の蓄積等の行為が許容されるよう。
なお、第1号から第3号はあくまで例示であり、これらに該当しない行為についても非享受利用なのであれば30条の4柱書が受け皿規定として機能する可能性があるとのこと。(リバースエンジニアリングも柱書によって許容される)
※3号は、1号と2号の受け皿規定のようにみえるがそうではない。
(Ⅱ)47条の5 新たな知見・情報を創出する電子計算機器による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等
現状許容されているインターネット検索サービス(現行法47条の6)を拡大させた条文です。AI関連では第1項第2号と第2項が影響しそうです。
(1)第1項第2号 情報結果&結果提供サービス
「電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること」が許容される条文です。
30条の4第2号と異なり、非享受利用である必要はありません。(軽微利用の条件はありますが)
池村先生の記事には
2号は、新30条の4第2号(現47条の7)で権利制限の対象とされている情報解析の結果提供に伴う軽微利用を対象とするものである。現行法では、情報解析の結果提供に伴う著作物利用は、引用(32条1項)の範囲で行う必要があったが、改正により軽微利用に限定されるものの広く可能となり、AIを用いた各種調査解析サービス等への活用が期待される。
と書かれている通り、機械学習の結果の提供についても引用の要件を満たす必要がないようです。
ただ、上野先生が以下のように述べられていることからも(ちょっと混乱するのですが)許容される範囲は狭いように思われます。
あくまで情報解析の「結果を提供」するものである必要があるため、現存の著作物を学習したAIがその創作的表現を出力することが許容されるわけではない
[例]全ての鳥山明マンガを解析して同人の画風で作品を生成できようになったAIが、結果として現存のキャラクターと類似するイラストを生成した場合
ここはkanekoもまだうまく咀嚼できていません。
(2)第2項
池村先生の記事に
2項は、1項の適用を受ける者のために行われる各種データセットの作成や提供を権利制限の対象とするものであり、検索サービス用データベースやAI学習用データセットの作成や提供が想定されている
と書かれているとおり、30条の4第2号の説明で触れたのと同様にデータセットの提供を許容する内容になっているようです。
4.最後に ~H30年改正著作権法はAIの発展を後押しするのか~
後押しすると信じたい。
少なくとも権利制限規定の幅は広がっているため、著作権法上AI関連業務のできる範囲は広がっているように感じます。上野先生は現行47条の7を根拠に「日本は機械学習パラダイス」と述べておりましたが、よりパラダイスになると信じたいですね。
🔭コラム:機械学習パラダイス(上野達弘) – 早稲田大学知的財産法制研究所[RCLIP]
ただ、どうしても条文が長文で非常にわかりにくい内容になっていると思うので、これらの条文の適用を検討する場合には慎重にあてはめを行う必要がありそうです。
柔軟な権利制限規定とは「ある程度抽象的な」規定ですので、今まで以上にグレーな部分がでてくると思います。これらの規定の適用を検討する企業側としてはリスクを検討した上でビジネスジャッジしていく必要がありそうです。
今回は深くは紹介しませんでしたが、47条の5第1項第3号は政令に委ねられており、このあたりについては今後も引き続きウォッチしていきたいと思います。
*1:池村聡_「柔軟な権利制限規定」と実務への影響(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル 2018年9月号(No. 126))
リンクと著作権(1)~リンクを分類する~
Twitterのリツイート行為に著作者人格権侵害に該当する知財高裁の判決が話題になっています。
「RTで画像自動トリミング、著作者人格権侵害に当たる」 知財高裁判決、Twitterユーザーに衝撃 - ITmedia NEWS
リツイートは著作者人格権(同一性保持権)侵害だとした知財高裁判決に対するTwitterユーザの反応 - Togetter
また、上記判決とは別にインラインリンクに著作権侵害の幇助が認められる旨の判決もでているようです。
著作権・知的財産権・ウェブ・デジタル法務特設サイト/I2練馬斉藤法律事務所
Twitterのリツイート行為もいわゆる「インラインリンク」に該当するため、どちらもリンクに著作権侵害(またはその幇助)が認められた事例といえるでしょう。
ただ、今回の判決は日常で当たり前のように行われている「リンク」が全て著作権侵害に該当するわけではないと思っています。
個人的にリツイート事件の判決には納得がいっていないのですが、今回の判決も含めて改めて「リンクと著作権」について検討してみたいと思ってブログを書いてみます。
※本エントリーはkanekoが個人的興味に基づき、過去調べてまとめたものです。正確性等については保証できませんのであらかじめご了承ください。(間違っていたら修正しますのでご指摘お願いします。)
まず今回のエントリーではリンクの形式を分類していこうと思います。
1.リンクの分類
リンクとは「他のWEBページ等のコンテンツ(リンク先)を直接参照できるようにする仕組み」のことであり、経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成29年6月)においては、リンク様態を以下の5つに分類しています。
サーフェスリンク | 他のウェブサイトのトップページに通常の方式で設定されたリンク ※「通常の方式で設定されたリンク」とは、ユーザーがリンク元に表示された URL をクリックする等の行為を行うことによってリンク先と接続し、リンク先と接続することによってリンク元との接続が切断される場合のリンク |
ディープリンク | 他のウェブサイトのウェブページのトップページではなく、下の階層のウェブページに通常の方式で設定されたリンク |
イメージリンク | 他のウェブサイト中の特定の画像についてのみ設定されたリンク |
インラインリンク | ユーザーの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて、リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンク |
フレームリンク | ウェブブラウザの表示部をいくつかのフレームに区切り、フレームごとに当該フレームと対応づけられたリンク先のウェブページを表示させる態様のリンク |
ただ、ここでは
- リンク元のHPを閲覧するユーザーからの見え方
- リンク先のウェブサイトやサーバに違法にアップロードされた著作物(違法コンテンツ)があるかどうか
で以下の4つに分類し、検討を行うことにします。
パターン①:合法コンテンツへの非一体型リンク
パターン②:違法コンテンツへの非一体型リンク
パターン③:合法コンテンツへの一体型リンク
パターン④:違法コンテンツへの一体型リンク
(1)非一体型リンクとは
リンク元のウェブサイト等に表示されたURL(Uniform Resource Locator)を踏むことで、著作物等を含んだコンテンツのある別のウェブサイト等へ飛んでいく形式を指すものとます。
この形式だとブラウザ上の別タブ(ウィンドウ)や別ブラウザが立ち上がることが多いため、リンク元を閲覧していたユーザーは「リンク先とリンク元とは別のコンテンツであること」が容易に認識できる状態です。
例としては、サーフェスリンクやディープリンクを含む通常のハイパーリンクがあげられます。
サーフェスリンク:
http://kanegoonta.hatenablog.com/
http://kanegoonta.hatenablog.com/entry/2017/12/10/130245
(2)一体型リンクとは
リンク元のウェブサイトの中に埋め込むようにリンク先のコンテンツを表示させる形式を指すものとます。画面上、リンク元のウェブサイトとリンク先のコンテンツが一体になって表示されているため、技術上は複製されていないのですが、ユーザーからはあたかも複製されているようにみえます。
例としては イメージリンク、フレームリンク、インラインリンクがあげられますが、ちょっと文字だけだとイメージしにくいと思うので画像を利用しながら説明していきます。
・イメージリンク
一般的には HTML上のイメージタグ<img>を利用した画像に関するリンクのことをいうケースが多いと思います。
例えば以下の画像ですが
このエントリーのHTMLを見てみると以下になっており
この中に
https://pbs.twimg.com/media/DZHiKd_UQAA-4at.jpg:large
とあり、これはTwitterの画像が保存されているサーバから画像をもってきていることがわかります。
※ちなみにこの画像は、kanekoが自分のアカウントで昔Twitterにアップした画像です。
・フレームリンク:
HTML上のインラインフレームタグ<iframe>等を利用したリンクを指すものとします。従来は、自己のHPの一部に枠を作りその中にリンク先を表示させる使用方法が多かったのですが、現在では、主にYouTubeやニコニコ動画等の動画共有サイトの動画を自己のウェブサイトに埋め込み型でリンクを行う際に使用されることも多いです。英語ではFramingやEmbeddingといった用語が使われるように思います。(詳細は作花文雄「詳解 著作権法 第5版」p665以降参照)
古典的なフレームリンクとしては、例えば以下のサイトが分かりやすいかと思います。
HTMLのソースも合わせてみるとこんなイメージです。
情報ネットワーク法学会 第16回研究大会 会場案内のページhttp://windy.mind.meiji.ac.jp/InLaw2016/Venue.htmlよりkenakoが一部加工
見ていただければわかるかと思いますが、上記は情報ネットワーク法学会のHPの中に明治大学のHPがフレームリンクとして設定されています。
ここでのポイントは、「技術的にはリンク元(ここだと情報ネットワーク法学会側)はリンク先のコンテンツ(明治大学のHP)の複製も送信も行っていない(リンク先のコンテンツはリンク先のサーバからからユーザーに直接祖送信されている)」点です。
図にすると以下のイメージ
※情報ネットワーク法学会 第16回研究大会にてkanekoが個別発表した際の資料を一部加工
動画共有サイトから埋め込み型リンクを使用するケースだと以下
ちなみにRADだと「もしも」 が一番好き
(3)インラインリンクについて
一体型リンクの中にはインラインリンクも含まれますが、kanekoの理解では、インラインリンクは、イメージリンクとフレームリンクを含む概念と理解しています。
リツイート事件で問題となったTwitterのリツイート行為もインラインリンクと理解されていると思います。
「RTによる画像トリミングで著作人格権侵害」 知財高裁判決の意味と影響 弁護士が解説 - ITmedia NEWS
なお、この事件に関しては控訴人(原告写真家)側の代理人である齋藤先生が以下のHPにおいてコメントを公表しております。
リツイート事件控訴審判決とコンバイニング(平成28年ネ10101号発信者情報開示請求事件)
以下、上記HPよりポイントとなりそうな部分を一部引用
控訴人が同一性保持権や氏名表示権、あるいは控訴審において追加した複製権侵害、公衆送信権侵害、公衆伝達権侵害を主張した土台となる技術は、コンバイニング(仮)(正式な用語法ではありません。)と、控訴人代理人が読んでいる技術です。ここではコンバイニング(仮)とは、文章と画像データを結合したレンダリングデータを生成してクライアントコンピュータのブラウザに表示する技術です。
※コンバイニング(仮)はインラインリンクを含む広い概念で、インラインリンクを含むパターンと含まないパターンがあり得るそうです。
もっとも主張の中でインラインリンクとこれより広いコンバイニング(仮)という概念を明確に区別していたわけではなく、両概念の明確な区別は判決後に事案を整理するために行っています。ただし、実質的な控訴人主張は一審主張はインラインリンクを基礎に、控訴審追加主張はコンバイニング(仮)を基礎に行われており、リツイート事件控訴審判決を読む限り、このコンバイニング(仮)(データの結合行為)の著作者人格権侵害が認められた、と読み替えた方が正確或いは理解がスムーズではないかと感じています。また、そこまで広げないと判例の意図が正確に伝わらない懸念も感じています。
リツイート事件はリツイートそのものではなく、インラインリンクを審理対象とし、さらに、控訴人側からはインラインリンク(つまりリンクの延長のような事象)ではなく画像と文章の同時表示を目的としたコンバイニング(仮)というデータ結合行為の著作権、著作者人格権侵害が主張され、データ結合行為の主体性が争われた事案である事にはご留意ください。
この事件は今後判例研究の題材として論文が多く出ることが予想されますが、上記を踏まえて判決文をみていく必要がありそうです。
(4)【余談】直リンクについて
よくkanekoも実務上「第三者のサイトに直リンクしてもいいですか?」という相談がくるのですが、ここでいう「直リンク」の意味が人によって
- 「ディープリンク」のことを意味して使用しているケース
- 「フレームリンク」等の一体型リンクの意味で使用しているケース
があって混乱するときがよくあります。
通常は後者の意味で使用されていると理解しているのですが、違うケースもあるので法律相談をされた場合には「直リンク」という言葉は使用しないようにしています。
(5)リンク先が違法コンテンツかどうか
リンク先のウェブサイトやサーバに違法コンテンツがあり、ユーザーは違法コンテンツに容易にアクセスが可能な状態を指すものとします。アクセス形態としては、ユーザーがリンク先で違法コンテンツをダウンロードするパターン又はユーザーがリンク先の違法コンテンツの動画をストリーミング再生したり、画像又は文章等を閲覧するだけのパターンが想定されます。
(6)まとめ
以上をまとめますと、リンクを分類するにあたり、まずリンクの様態から2つに分類しました。
※情報ネットワーク法学会 第16回研究大会にて個別発表した際の資料を一部加工
そして、さらにリンク先のコンテンツが違法にアップロードされたコンテンツかどうかでさらに分けました。
※情報ネットワーク法学会 第16回研究大会にて個別発表した際の資料を一部加工
上記パターンを踏まえて次回以降のエントリーでは各パターンごとに法的問題点を検討していきたいと思います。
少し先出しでそれぞれのパターンに該当する事件でkanekoの知る限り当てはめてみると
パターン① 合法コンテンツへの非一体型リンク
知る限り日本の裁判例はなし。(って昔言ったらとある方からYOL事件はどうなの?って言われた)
EUだと「Svensson事件先決裁定(Svensson and Other v. Retriever sverige AB(C-466/12)」とか。
米国だと古いですが「Ticketmaster事件(Ticketmaster Corp. v. Ticket.com,inc. (C.D.Cal.Mar.27,2000,54U.S.P.Q2d.)」とか
パターン② 違法コンテンツへの非一体型リンク
日本だとちょっと特殊ですが、「どーじんぐ娘。事件(LEX/DB 文献番号25446210)」。あ、DVD Shrink事件って裁判なったんでしたっけ?
いわゆるリーチサイトの議論は主にこのパターンの場合が多いですかね。
EUだと「GS Media事件先決裁(GS Media BV v. Sanoma Media Netherlands BV and Others(C-160/15))」とか
パターン③ 合法コンテンツへの一体型リンク
kanekoの知る限り日本で裁判になった事件はない、はず。
裁判ではないですが、まとめサイトの炎上の際には第三者委員会によってイメージリンク(直リンク)の法的問題点が検討されていました。
また、JASRACは「営利性のあるサイト(広告収入含む)に埋め込み型リンクで動画共有サイトの動画(音楽)を利用する」行為に関して、インタラクティブ配信の許諾手続きを求めていますね。(あ、kanekoはこのブログに広告収入設定してないっす。hatena側の広告表示がされてる件については知りません。笑)
EUはCJEUレベルだとない認識ですが、Svensson事件先決裁定の中でパターン③についても言及されています。
パターン④ 違法コンテンツへの一体型リンク
最初に言及したリツイート事件やインラインに著作権侵害の幇助が認められた事件、「ロケットニュース24事件(東京地判平成28年9月15日 平成27年(ワ)第17928号発信者情報開示請求事件)」が該当しますが、今後も増えていきそうですね。
EUのCJEUレベルだと「BestWater事件(BestWater International GmbH v. Michael Mebes and Stefan Potsch(C-348/13))」とか(ただし、CJEUにおいてReasoned Orderとして判決がだされており、かつリンク先が違法コンテンツであることが考慮された判決ではないようです。その後ドイツ国内においてどのような判決が下されたかはkaneko未確認)
米国だと「Perfect10事件(Perfect 10, Inc. v. Amazon.com, Inc., 508 F.3d 1146 (9th Cir. 2007)とかPerfect 10 v. Google,Inc., et al.,416 F. Supp. 2d 828(C.D. Cal. 2006))」。最近はTwitterのエンベットが著作権侵害になりうる判決がでている見たいですね。
米地裁、ツイートのエンベッドが著作権侵害にあたりうるとの判決を下す – P2Pとかその辺のお話R
こんな感じ?
つづく。
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【更新履歴】
6/23 インラインリンクに関する見解を追記・修正
自炊を始めてみた。
料理でありません。念のため。
書籍の自炊を始めてみたのでメモ。
1 自炊までの流れ
(1)裁断機器とスキャナを買う
何事も始めるには道具がいります。
テニスを始めるにはラケットがいるように。
自分に合った道具探しは重要です。
ということで、Kanekoのネットリサーチ能力を駆使した結果、以下の相棒をチョイスしました。
(2)閲覧するデバイスを決める
のいずれかと思いますが、通常はタブレットでしょうか。
ちなみにkanekoはタブレット検討中です。
お勧めあれば教えてください!
(3)電子化する書籍を決める
おっとまだ裁断するのは早い早い。
まずは自炊する書籍をチョイスせねばなりません。
蔵書から電子化する書籍の優先順位を確定させます。
おそらく優先順位の決め方としては
対象となる書籍の利用頻度
や
対象となる書籍の電子化のしやすさでしょう。
Kaneko利用頻度としては
- 法律書籍
- ビジネス書籍
- マンガ
- 雑誌
の順なのですが、電子化のしやすさはまったく逆ですね。苦笑
(4)ファイル格納先を決める
次は電子化したファイルの格納先を決めましょう。
選択肢としては
- PC内のHDD(外付け含む
- クラウドサービス(Dropboxやgoogle drive等
でしょう。(自宅に自前のネットワークサーバを立てる奴は除く)
複数の端末からアクセスできることを踏まえると圧倒的にクラウドサービスですね。
kanekoはいったんDropboxをチョイス。
(5)書籍を裁断する
これを
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」なお、サイ太先生直筆サイン入り
こうして
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」くどいようですが、サイ太先生直筆サイン入り
こうじゃ
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」何度でも言いますが、サイ太先生直筆サイン入り
(6)スキャンする
両面&OCRでスキャン。紙詰まりもなくするすると読み込みます。
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」
きれいにスキャンできました。
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」
OCRをかければ文字読み取りも可能(ちょっと感動
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」
(7)ファイルを格納する
(3)でチョイスした場所にファイルを格納した完了!
2 自炊のメリット・デメリット
(1)メリット
- 省スペース化
当たり前ですが書籍が占領していたスペースが空きます。床が見える!
- アクセス性
クラウドサービスを利用すればアクセスするのにデバイスや場所を選びません。
- 検索性
地味に使えるのがOCRでの検索。
特に調べたいことを論文の中から探すのに最適です。
(2)デメリット
裁断とスキャンがメンドイ
これしかない。
金を出してもいいから自炊代行したい。
3 自炊と著作権について
(1)自炊と著作権
自炊は著作物を複製(コピー)する行為ですので、著作権法上の問題がある場合があります。
自炊について詳細に解説されている基本書を探したところ、 三山裕三「著作権法詳説 判例で読む14章 第10版」(勁草書房、2016)において以下のように書かれていました。
- 購読者本人によるスキャン(複製)は30条でセーフである。
- 購読者本人が書籍等を裁断、廃棄しても書籍等の所有権を有する以上、所有権の侵害にはならず、また著作物を利用しているわけでもないから、著作権の侵害にもならない。
- 裁断済み書籍等を譲渡しても、譲渡権はファーストセールですでに消尽しているので、譲渡権侵害にはならない。
- 30条でセーフの複製物を配布したり、公衆に提示したりすると、目的外使用(49条)となりアウト(複製侵害)になる。
P339
要は「基本は自分で自炊して楽しむ分には問題ないよ」ということです。
では自炊代行の場合(業者による自炊の手助けがある場合)はどうでしょうか
(2)自炊代行と著作権
先ほどの三山本では自炊代行を3パターンに分けて法的問題を以下のように考察しています。
1.業者が道具と場のみを提供する形態
顧客自身が複製しているので著作権法上はセーフであり、顧客に不法行為が成立しない以上、従属説(直接侵害の成立が間接侵害の成立の前提であるとする考え方であり、ここでは顧客に著作権侵害が成立してはじめて業者にも著作権侵害が成立すると考えることになる)の立場に立てば業者は幇助にもならず、書籍等の売上減もない。
2.業者が裁断済み書籍を提供する形態
顧客自身が複製しているので著作権法上はセーフであり、顧客に不法行為が成立しない以上、従属説の立場に立てば業者は幇助にもならず、また店舗外への持出しがなく占有の移転もないから、貸与権侵害にもならない。書籍の売上減があるので著者や出版社の立場からはアウトにしたいところだが、著作権侵害か否かは書籍の売上減(実害)があるか否かにより影響を受けないので、セーフという結論は変わらない。もっとも、貸しレコード問題のところで指摘したのと同様に、「業者の貸与行為」と「顧客による複製行為」を一連のものとしてとらえるならば、アウトという結論も可能かもしれない。
3.業者がスキャンを代行する形態(業者がスキャンするので正確には他炊である)
業者による複製は30条1項の「使用する者が複製することができる」の規定に反しているのでアウトであると解される。書籍の売上減はないが、著作権侵害か否かの結論は書籍の売上減(実害)があるか否かにより影響を受けないので、アウトという結論は変わらない。
P339~340
上記だと「スキャンは購読者(利用者)本人が行うが、裁断を業者が行う場合はどうなのだろう」という疑問が。
自炊代行は訴訟になっているため、判決文(知財高裁平成26年10月22日判決)をざっと読んでみますと、
「ロクラクⅡ」事件最高裁判決(平成23年1月20日判決)における枢要行為論を利用して
本件における複製は、書籍を電子ファイル化するという点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ、その枢要な行為をしているのは、法人被告らであって、利用者ではない。
と述べられています。
電子ファイル化作業=枢要行為
電子ファイル化作業を行う者=複製行為の主体
ということですので、「スキャンして電子ファイル化するのが誰か」がキーになるということかと思います。
ところで少し話しがずれるのですが、藤田晶子「著作権法裁判例における規範的主体論」(コピライト2016年5月号、2016)は自炊代行の事件にジュークボックス法理での当てはめを検討していて非常に興味深いです。
とすると、裁断を業者が行うのはOKなのかなーと思ってググってみたところ、
一時期話題になった「自炊の森」が裁断の代行サービスをやっていることに気づきました。(というか、営業再開してたんやなここ)
適法性に関するページまでわざわざ作ってたんですね。(なお、中身についてはノーコメントで)
というか、HPを見ると裁断代行だけでなく、三山本でいう「2.業者が裁断済み書籍を提供する形態」のパターンで今も営業しているっぽいですね。 取り扱えない作家リストもわざわざ作ってあるし。。。
おしまい。
エルレ復活
【エルレ復活】
契約書タイムバトルと同じ日にビックニュースが飛び込んできました。
初めてエルレを聞いたのは高校2年生のときに友達から借りたアルバム「Riot On The Grill」で
アルバムの中の「RED HOT」と「虹」を初めて聞いたときは衝撃だったわけで
※動画は全て公式YouTube動画のembedです。
海外の人と間違えるくらい流暢な英語だったので、最初は(やたら日本語の上手い)外国人のバンドと誤解してたし
ELEVEN FIRECRACKERSのアルバムはMD(死語)に入れて壊れるまで聞きまくったし
カラオケで歌おうと思ったけど英語できなくて「ららららぁ~」で歌ったし
まぁ、青春が詰まっているわけです。
「17歳に聞いていた音楽は生涯聴き続ける」とかいうじゃないですか。(ソースは不明
kanekoの場合だとエルレの他にアジカン、バンプ、ラッドであったり、
洋楽だとSimplePlan、Green Day、Aerosmith、Avril Lavigneあたりなわけですが、
やっぱりいまだに聴き続けているわけですよ。
それだけに、活動休止が発表された当時(たぶん大学生)は衝撃でした。
エルレが活動中止したあとは、The HIATUSとかNothing's Carved In Stoneとか聞いたけど
「やっぱこれじゃねぇな」と思ってたし
MONOEYESを聞いて「あ、なんかだんだん近くなってきたな」と思っていたところで。
もう10年ですか。
ようやくですか。
待ってました。
久しぶりにライブ行きたいな。
おしまい