Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

コスプレと著作権~マリカー事件を踏まえつつ論点まとめ~

例のマリカー事件を踏まえて、改めてコスプレと著作権で論点をまとめてみました。

 

※過去の自分のブログやマリカー事件のtogetterを踏まえています。

【参考リンク】

kanegoonta.hatenablog.com

togetter.com

 

 

0.前提

ここでのコスプレ衣装は「アニメ等のキャラクターのコスプレ衣装」を前提としています。

メイドコスプレ・警官コスプレといった「元となるキャラクターがないコスプレ」は今回の内容の対象外となります。

 

1.ベース(元)となる著作物をどう認定するか

キャラクター*1自体は著作権法での保護対象ではなく、漫画やゲームの画像として表現された状態で初めて保護されます。

たとえば、アニメのキャラクターはアニメの一部として保護されることになります。

また、コスプレ衣装は「キャラクターの衣装デザイン(二次元)」を三次元の人間が着る衣装として創作したものですので、厳密にはアニメの中で表現されているアニメキャラクターの衣装デザインそのものが著作物として保護されるのか、という論点もあるのではないでしょうか。(アニメのキャラクターがアニメの一部として著作物と認定されればこの論点はあまり必要ないとは思いますが、衣装デザイン単体で保護された方が権利行使はしやすいのではないかと思ったり)

マリカー事件では、

(1)ゲームの中のマリオの画像が著作物として保護されるのか

(2)ゲームの中のマリオの衣装デザイン(赤帽子・赤シャツ・青つなぎ)が著作物として保護されるか

が論点となり、(1)は認定される可能性は高いのではないでしょうか。

(2)の見解については、2にて後述。

 

2.何をもって権利侵害とするのか

1がクリアになったとして、次にコスプレ衣装を作ること、着ること、貸すこと等が著作権法上の利用行為(複製権・貸与権・上演権等の21条~28条に規定される権利)に該当するかどうかを検討する必要があります。

ここでの論点は以下の2つと思われます。

①コスプレ衣装自体を複製(翻案)物とするのか

コスプレ衣装自体が元となる著作物の表現上の特徴的部分と直接感得できる場合は複製(翻案)行為が行われたと考えられます。

ただ、この場合、元となる著作物(例えば、アニメのキャラクター画像)の表現上の本質的特徴をどう認定するかが問題となってきます。

マリカー事件でいえば、マリオのキャラクター画像のどこを表現上の本質的特徴と認定するかということです。

赤帽子・赤シャツ・青つなぎという部分に表現上の本質的特徴を見出すのであれば、コスプレイ衣装を複製(翻案)物として認定するは容易でしょうが*2

一般的なキャラクター画像は「キャラクターの顔」の部分も表現上の本質的特徴の重要な部分であると考えられる点、

赤帽子・赤シャツ・青つなぎといったシンプルな部分を著作権としての保護対象(独占できる対象)とするのはやりすぎと感じる点(仮に認められた場合でも、権利範囲はデッドコピーに限定すべき)

から100%侵害といえるかは疑問があると個人的には感じています。

②コスプレ衣装を人が着用した状態を複製物とするのか

人体と合わさることで元の著作物の表現上の特徴的部分と直接感得できる場合は、コスプレ衣装を着用した時点で初めて複製(翻案)物として認定されることになるような気がします。

コミケやとなコスといったところでコスプレをしたり、コスプレ写真集を販売する人々は「ガチのコスプレイヤー」であり、キャラクターになりきるために顔(化粧・ウィッグ等)や体型まで似せてきます。

仮に元となる著作物(キャラクター画像)の表現上の本質的特徴を「キャラクターの顔」や「体型」を含めて認定された場合であっても、「(あまりにキャラクターに似せてきている)ガチのコスプレイヤー」は複製(翻案)物として認定される可能性があることになります。

ただこの場合、人体を著作権法上の権利義務の対象とすることができるのかという問題が生じることになります。

なお、判決としては、人体の「入れ墨」を著作物として認定した事件があります*3

人体を著作権法上の差止(廃棄)請求の対象とできるのか。

非常に興味深い論点ですね。

 

3.応用美術の論点は生じるのか

この論点は基本的には生じないと考えれられます。もちろん、元ネタとなるアニメのキャラクターがないようなコスプレ衣装であれば、「量産できる実用品」として応用美術の論点が生じると思われます。

なお、コスプレ衣装ではありませんが、(元ネタとなるアニメがあるわけではない)おもちゃのファービー人形は、過去著作物として保護されないと判断*4されています*5

 

なんかつきつめたら論文一本書けそう(笑)

*1:架空の人物や動物等の姿態、容貌、名称、役柄等の総称を指し、小説や漫画等の具体的表現から昇華した抽象的なイメージ

*2:マリカー事件では、マリカー側はコスプレ衣装の制作は行っていないため、複製物の貸与を行ったとして貸与権の侵害となります。HP上でのコスプレ写真のアップロードは複製権と公衆送信権侵害の余地はあります。

*3:http://www.ypat.gr.jp/ja/case/copyright/01.html

*4:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/650/004650_hanrei.pdf

*5:TRIPP TRAPP事件の判決がでてからは先行き不透明な状態ですが