Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

リーチサイト運営者逮捕の件

リーチサイト(侵害コンテンツへのリンクを集めたサイト)運営者が逮捕とのニュースが

www.asahi.com

 

ついにきたかというところで、

多くの法律関係者(特に知財クラスタ周り)がこのニュースに 反応していますね。

 

時間の問題とは思っていたものの、リーチサイト規制を議論しているところで、先に警察が動くのは個人的には予想外でした。

 

著作権公衆送信権)侵害で逮捕とのことですが、正犯としての逮捕なのか幇助としての逮捕なのかは気になります。

 

ただ、他の記事を見ると

逮捕者が自ら侵害コンテンツをアップロードしていたわけではない(リーチサイト運営者はリンクを貼っただけ)という記事*1

リンクを貼るだけでなく、逮捕者同士で共謀して侵害コンテンツのアップロードも行っているという記事*2

がありますので、なんともいえない状況ですが、

ACCS(コンピュータソフトウェア著作権協会)のプレスリリースを見ると後者のようですね。

 

後者の事情が強いのでれば、今回の逮捕も理解はできます。

また、たとえ前者であった場合でも幇助としての逮捕であれば一応は理解できます。

 

 

なお、(報道の内容を見る限り後者の理解でよさそうですので、考える必要はないと思いますが、)

仮に前者でかつ正犯(著作権直接侵害)としての逮捕だとすると疑問が生じます。

 

悪質度の違いはあれど、リンクは基本的には、著作権直接侵害にあたらないはずです(過去ブログ参照)。 

最初に今回のニュースを見た際に、「リンクを貼る行為を、カラオケ法理とか規範的主体論を適用させて逮捕なのかな?ちょっと無理あるよね」と感じていました。

 

 中川先生の見解に同意です。

 

ちなみに、リーチサイト関連の呟きを追っていると興味深い呟きが2つほど見つけました。

 

なるほど。そもそも自動公衆送信の幇助といえるかについても検討すべき事項があるのは盲点でした。卒論書いてたときはほとんど検討しなかったなぁ。反省。

 

もう一つはこちら

 

文化庁審議会が上記の流れだとすると、リンクを1つ張っただけでもOUTになる立法がなされる予感がします。 

 

 個人的には、通常のリンクは直接侵害にすべきではなく、リーチサイト等の悪質なリンク集についてはみなし侵害として差止請求の対象する方向がいいのではと思ってます。

ですので、リンク1つ貼るだけで著作権侵害になることや

二次創作にリンクを貼るだけで著作権侵害になることには違和感があり、

リーチサイトを規制するのであれば、みなし侵害の要件として、従来から検討されている 

  • 大量性(集合性・データベース性)
  • 知情性(侵害コンテンツと知っていたこと、知りうる状況であったこと

といった要件に

  • 原作品性(リンク先の侵害コンテンツが「原作品のまま」違法アップロードされていること)

を加えるべきではないかなぁと思っています。

(二次創作限定のリーチサイトとかでそうな気もするけど)

 

 

リーチサイトによるコンテンツ流通の被害額はものすごい額(うん千億円でしたっけ?)といわれていますが、

最近こういう記事とか見てるので、法規制が本当にコンテンツ業界にとってプラスになるのかなぁと感じてしまう毎日。

wired.jp

 

まぁ一概には言えないんでしょうけど。 

 

 

【書評】ファッションロー~ありそうでなかったファッション専門法律書~

 

ファッション・ロー

ファッション・ロー

 

 

本の帯に「わが国初の体系的な解説書」と書かれているとおり、ファッションの法的問題に特化した書籍です。

さすがファッションローだなと感じる(法律書っぽくない)表紙がカッコイイ!

筆者は東海大の角田先生TMIの関先生

 

ファッション分野における法的問題点をファッションショー、ファッションデザイン、ファッションブランド、ファッションモデル、コスプレに分けてそれぞれ著作権、意匠、商標、不競法、パブリシティ権等の観点から解説がなされています。

また、日本だけでなく、ドイツやアメリカにおけるファッションローの解説もされています。

 

中身としては、裁判例の紹介(個人的にこんなに裁判例があるのかと驚きました。)をベースに法的問題点の解説がなされており、いわゆる「ガチ」な法律書ですが、写真も多く使われており、体系書としては比較的読みやすいと感じました。

 

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※ガチなのがおわかりいただけるだろうか

 

ファッション業界の法務の方にはオススメな一冊です。



目次はこちら

 第1章 総 説

 第1節 ファッションローの意義

 第2節 ファッションローの沿革

 第3節 ファッションロー研究の状況

 第4節 ファッションローにおける課題

 第5節 本書の構成

 第6節 「Forever21事件控訴審

 第7節 「TRIPP TRAPP事件」

 第8節 本書の目的

 

第2章 ファッションショーの法的保護

 第1節 著作権の概要

 第2節 ファッションショーと著作権

 第3節 ファッションショーの著作隣接権による保護

 第4節 ファッションショー主催者の権利

 第5節 ファッションショー演出家の権利

 

第3章 ファッションデザインの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 著作権による保護

 第3節 意匠権による保護

 第4節 商標権による保護

 第5節 不正競争防止法による保護(周知商品等表示・著名商品等表示・商品形態)

 第6節 特許権実用新案権による保護

 

第4章 ファッションブランドの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 商標権による保護

 第3節 不正競争防止法による保護

 

第5章 ファッションモデルの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 パブリシティ権による保護

 第3節 ファッションモデルと出演契約

 第4節 ファッションモデルと専属契約

 第5節 モデル引き抜き問題

 

第6章 コスプレの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 コスプレの著作権による保護

 第3節 コスプレイヤーの法的保護

 第4節 コスプレ・ショーの法的保護

 第5節 コスプレ・ディレクターの保護

 第6節 コスプレ・コンテンツの保護

 第7節 コスプレの契約による保護

 

第7章 ドイツにおけるファッションロー

 第1節 総 説

 第2節 著作権法による保護

 第3節 意匠権による保護

 第4節 商標権による保護

 

第8章 米国におけるファッションロー

 第1節 総 説

 第2節 著作権による保護

 第3節 意匠特許による保護

 第4節 商標およびトレード・ドレスによる保護

 

 

さて、ファッションセンスゼロ(自虐も込めている)な私がこの本を購入したかというと、第6章に「コスプレの法的保護」があるからです。

 

法律書の中でコスプレの法的保護について言及した書籍や論文については、(私個人が知っている範囲ですが、)月刊パテント誌にて少し言及されていた程度*1ほとんど見たことがなく*2、非常に興味深い内容となっています。

 

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※法律書にコスプレイヤーの写真が載っている!

 

 

個人的に「コスプレの法的保護」の項目で興味深かったのは以下の3点になります。

 

①コスプレの法的問題について詳細に検討されている。

例えば、コスプレと著作権については以下のように述べられています。

 

 コスプレの制作は、キャラクターの翻案のうち、二次的な表現形式を立体的な表現形式に変更する変形行為(著27条)に当たり、原則として、それらの原著作物の著作者の許諾が必要となる。

 コスプレは、個人で楽しむ場合が多く、通常は私的使用目的の複製または翻案という公正利用をして原作者の許諾は必要ないが、初めから各種のイベントやTVなどで業務上の使用のために複製、翻案、展示、譲渡、貸与等により利用される場合のほか、個人のコスプレイヤーがコスプレショーやイベントに参加する場合には、原著作者の許諾を得る必要が生じる。

 もっとも、アニメーションやゲームソフトなどの登場人物であっても、そのような登場人物の映像に普通にみられるごくありふれたものである場合には、「表現上の創作性がない」として著作物性は認められず、その複製または翻案は著作権侵害とはならないとされることがある。

 また、コスプレは、通常の著作物の複製または翻案とは異なり、コスプレイヤーを通した原著作物の利用行為であり、そのコスプレイヤーの肖像ないし容姿とともに複製物や翻案物を制作し、そのコスプレイヤーがアニメや漫画のキャラクターに成りきってコスプレを公衆に提示することがある。そのため、コスプレの写真や映像を利用するためには、上記の著作権の処理に加えてコスプレイヤーの肖像権とパブリシティ権の処理が必要となる点が特徴的である。さらには、コスプレイヤーの動作は思想感情を創作的に表現する場合があり、舞踊または無言劇の著作物となる可能性があるし、実演として実演家人格権や著作隣接権が生じる。

 コスプレにおける衣装の制作は、キャラクターを複製または翻案する行為であるが、原著作物の著作者の許諾を得ていない場合には、その著作権(翻案権)侵害となる。

【228~229頁より】

 

個人な感想ですが、コスプレは一般的に行われるようになりつつある(コミケだけでなく、ハロウィンとかでも気軽にコスプレしますよね。ディズニーハロウィーンとか川崎ハロウィンとか。)にもかかわらず、法的問題について考えると、非常に複雑であると改めて感じます。

例えば、コスプレと著作権について「対象となる人」と「権利」について考えてみると、パッと思いつく限りでも考慮すべき点が以下のようにあると思います。

 

【対象となる人】

  • アニメ・マンガ・ゲーム等のキャラクターの権利者(アニメの製作委員会、漫画の作者、ゲーム会社等)
  • コスプレ衣装の制作者
  • コスプレ衣装の販売者
  • コスプレ衣装の貸与者
  • コスプレイヤー(コスプレ衣装を着る人)
  • コスプレイヤーを撮影する人(いわゆるカメコとか)
  • 写真に撮ったものを写真集にして販売(いわゆるROM販売)する人

 

【対象となる権利】

※原著作物であるアニメのキャラクターの著作物性やアニメのキャラクターの衣装の著作物性の検討をしたうえで

著作権ではないが、コスプレイヤー自体の権利としての

 

対象となる人それぞれに対象となる権利がどう発生し、どう適用され得るのかを検討することになると思うのですが、正直複雑すぎて一般の人には理解できないのではと感じてしまいます。

(モチロン私自身も全てを理解できていないですが)

 

たとえ法的には著作権侵害であった場合でも、あくまでファン活動の一環としてコスプレをする分には、例えコミケニコニコ超会議といった場であっても著作者側がクレームをつけて問題になるケースは少ないであろうと考えられるものの、

一般の方にも分かりやすいガイドラインのようなものがあるといいのかなと感じます。

ワンフェスのような一日版権許諾をとるという方法もありますが、コミケにような何万人と来るようなイベントにおいて同様の措置をとるのは現実的ではないでしょう。)



②コスプレして公衆に見せる行為を展示権として整理している。

個人的には上演権と理解していたのですが、本書では展示権として整理されている点が勉強になりました。

※展示権は原作品が対象だが、二次的著作物としてのコスプレ衣装を原作品として解するため展示権が及ぶ。

 

 

③コスプレ利用許諾契約やコスプレ出演契約の契約書雛型が記載されている。

単純な体系書ではなく、実務を考えた体系書であると感じた部分です。(体系書で契約書雛型が添付されているものってほとんどないですよね?)

業務上、キャラクターライセンスの契約書を普段見ることがないので「ライセンスの範囲ってこれくらいなのかー」を考えながら読みました。

 

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※右側に契約雛型が記載されています。

 


コスプレを含むファッションローの分野は今後も‘‘アツい”分野だと思うので、研究や判例の蓄積がより進むといいなぁと思う次第でございます。

 

*1:月間パテント2016年10月号 平成27年著作権委員会第4部会「コンテンツ内オブジェクトによるビジネスについての法的諸問題」https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201610/jpaapatent201610_046-062.pdf

*2:Webの記事であれば、福井健策先生が書いたコラムがありますし、小倉先生もブログを書いていますね。

福井先生のコラム:http://www.kottolaw.com/column/001429.html

小倉先生のブログ:http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2013/12/post-787c.html

【書評】法律家・法務担当者のためのIT技術用語時点~法務のためのIT用語辞典~

 

法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典

法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典

 

 

著者は個人情報保護法の改正のタイミングで怒涛のセミナー講演をこなしつつ、多数の著作を書かれている影島広泰弁護士。
(どうやって執筆する時間を確保してらっしゃるのでしょうか・・・)


本書の構成としては、技術分野ごとに用語の見出しと解説(法的な点も含めて)が記載されています。

 

技術者向けではなく、あくまで法務(の中でも比較的技術知識に疎い法務パーソン)向けの用語辞典になっていますので、以下のような経験をした法務にとっては理解の助けとなる一冊だと思います。

 

  • 「企画とシステムで新しいビジネスモデルを検討しているのだけど法的な問題があるか確認してほしい」と言われてMTGに参加したところ知らないカタカナ用語のオンパレード・・・
  • BtoBメーカーの法務からIT系法務に転職したけど、業界用語がわからない・・・(「クッキー?なにそれ、おいしいの?」)
  • なんか弊社の事業戦略を聞くとAIとかFinTechとか言っててなんか相談が来そうな予感・・・
  • 前任が辞めてシステム開発契約を見る事になったけど契約書のカタカナ用語の意味がわからん・・・

 

本書の目次はこちら

1章 インターネットに関するIT用語
 第1 インターネットの仕組み1:発信者情報の開示
 第2 インターネットの仕組み2:通信技術
 第3 インターネットの仕組み3:ドメイン
 第4 WWWに関連する基本的な概念
 第5 電子メールに関連する基本的な概念
 第6 その他のインターネット上の技術に関する基本的な概念
 第7 インターネット上のサービスとアドテク(Ad-Tech)に関する概念

第2章 情報通信技術全般に関するIT用語
 第1 情報通信に関する基本的な概念
 第2 システム構成に関する基本的な概念
 第3 ハードウェアに関する概念
 第4 ソフトウェア・人工知能(AI)に関する概念
 第5 IT技術全体に関する用語

第3章 企業におけるITサービスの利用とシステムの構築に関するIT用語
 第1 企業が利用するITサービスに関する概念
 第2 ITシステム開発に関するIT用語

第4章 情報セキュリティに関するIT用語
 第1 基本的な概念
 第2 サイバー攻撃に関する概念
 第3 情報資産の保護に関する基本的な概念

第5章 フィンテック(FinTech)・パーソナルデータに関する概念
 第1 暗号化・電子署名に関する概念
 第2 フィンテック(FinTech)に関する概念
 第3 パーソナルデータ(個人情報)に関する概念

目次を見てもらえばわかるとおり、インターネットの基礎的なところからFinTechやAIといった分野まで広く浅くカバーしているイメージです。

 

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※用語(見出し)と説明がかかれています。説明の中で使われている用語についても他で説明している場合は、(p●●)と書かれていて、すぐ参照できるようになっています。


技術的に細かいことが記載されているわけではありませんが、最低限必要なレベルの記載はされている印象です。(個人的な感覚としてはITパスポートぐらいのレベルでしょうか。)


個人的には、アドテクノロジーが技術分野としてしっかりカバーされていることに感動しました。
法律系書籍において、アドテクノロジー周りに言及されている書籍はほとんどみないですし。(だから個人情報周りで苦労するんですよね。)
特にCookieSyncの説明(典型的なパターンのみですが)には図表付きで解説されており「これだよこれ!」と心の中で声をあげておりました。

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※CookieSync(Web Beacon利用パターン)の説明図とメタタグ関連の判例紹介の一部。わかりやすい。

 

というわけで、私の会社の机の上に置く1冊となりました。

【読書】データ分析の力 因果関係に迫る思考法

久しぶりの更新。 

 

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 (光文社新書)

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 (光文社新書)

 

 

データ分析において重要となる因果関係の考え方について、わかりやすく解説した入門書。

新書なのでさくっと読めます。

 

この本のすごいところはデータ分析に関する本なのに「数式がでてこない」

 

図表や具体例を挙げて説明されているため、

数式を見ると目がクラクラする私にとっては最適な本でした。

 

本書は、ランダム化比較試験(RCT)、RDデザイン、集積分析、パネル・データ分析といった分析手法の説明だけでなく、それぞれのメリット・デメリットもわかりやすく解説されています。

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※上記はパネル・データ分析に関する項目

 

良質なデータを取得・解析して因果関係を導くことの難しさを実感するともに

ビックデータやAIがバズワードになっている現状において、

相関関係と因果関係をしっかり見極める力を身につける必要性を改めて感じました。

 

また、この因果関係を見極める力は知財実務にも必要な知識だとも感じました。

例えば、特許公報(特許出願・登録動向等)と統計情報・技術情報等を組み合わせて分析してパテントマップ等を作成する場合、

「特定の分野の出願が増えた(減った)」ときに

・何が原因なのか・何が影響を与えたのか

・影響を与えたと思われる(仮定した)事象は特許の出願動向と因果関係があるのか

といったことを考える必要があると思います。(他にも考えるべきことがあると思いますが)

こういったときにおいて本書の分析方法は有効なのかもしれません(実務してないからわかんないけど)。

 

 

 

 

 

 

 

例の第三者委員会調査報告書から学べること

このTweetにそこそこ反響があったので、 

 

 

改めて、3月13日にDeNAのキュレーションメディア事業に関する第三者委員会調査報告書(以下「本報告書」)から反面教師として個人的に学んだことを備忘録として雑にまとめてみた。

 

本報告書の 

要約版はコチラ

全文版はコチラ

 

1.ビジネスマンとして考えたいこと。

①「質」と「量」を両立させるためにどうすればいいか。数字だけで評価していいのか。

・(「質」より「量」をとること自体は悪ではないと思うが、)「量」をとりつつも、「質」を担保できる方法はないのか。

・もしくは、センシティブな分野については、「質」の担保を優先するといった方法も考慮できないのか。

・数字以外の目標設定はできないのか。

 

②コミュニケーション不足の過程と行き着く先

『当委員会は、このようなコミュニケーション不全の個別具体的な内容にまでは踏み込まない。ただ、キュレーション事業におけるコミュニケーション不全何らかの形で関係していたすべての役職員に対して、以下のような苦言を呈しておきたい。』(要約版25p)

として挙げられた「苦言」がどこの会社でも当てはまり得る内容だったので以下引用する。

  • 上司には、部下からの諫言にも耳を貸す寛容さが求められる。それがなければ、誰も上司にものを言わなくなる。
  • イエスマンだけで周囲を固めることは、心地よいかもしれないが、何も見えなくなるだけである。
  • 上司の一言が部下に与えるインパクトは、その一言を発した上司の想像を超えることがある。「そんなつもりはなかった」では取り返しが付かない。
  • 上司が言葉足らずだと、その組織には、上司の考えを忖度する文化が生まれる。忖度が常態化すると、思い違いによる組織の意図せぬ暴走を招く。また、上司の考えを忖度することにばかりにとらわれた部下は、次第に自立的な思考をしなくなり、内向きな議論ばかりするようになる。
  • 上司同士のコミュニケーション不全は、部下同士のコミュニケーション不全を生み、やがては派閥を生む。
  • 社内の各部署がお互いの価値観や言動をリスペクトする姿勢を示せば、部署ごとの部分最適ではなく、会社や社会にとっての全体最適を追い求めるようになる。(要約版25~26p)

 「忖度!」「忖度!」←言ってみたかっただけ

 

③新規事業の際に必要なことを明確化できているのか。

・新規事業についての適切な定義づけは行えているのか。

・新規事業によって、社会にどのような価値を提供するのか。

・数値ベースによる売上の拡大のみが目的となっていないか。

 

④「走りながら考える」ことの難しさを理解しているか。

『既に走り始めた事業のリスクへの対応策を後から講じることは、事業の成長に水を差しかねない行為と受け止められ、なかなかうまく機能しにくいことも事実であり、こうした逆風にもめげずにリスク対応策を浸透させるためには、より一層のエネルギーとコストを伴うことを覚悟しなければならない。』(要約版22p)

「とりあえずやってみて何かあればやりながら軌道修正する」というのはスピード感を重視する企業ではよくあることで、それ自体を否定すべきものではないが、実際に「軌道修正」するというのは、運用が回っている状態だと「今更何いってんの?最初に指摘しろよ」とか「運用コストが増大するんだけど」という否定的な反応を現場側では当然されるわけで。。。。

これをやりたくないのであれば、事前のリスクの洗い出しと対策をどれだけできるかがキモになるのだろうな。

 

2.法務知財担当者の端くれとして改めて考えたいこと。

①その場の法的リスクの指摘で終わっていないか。その後ちゃんと対応されたかどうかまで確認ができているのか。

それっきりになっていないか。

 

②見て見ぬふりをしていないか。受身になっていないか。

いわゆる「黙認」になっていないか。

 

②法務的リスクと道徳的リスクのどちらをとるべきか。(直リンクは原則著作権非侵害だが、一方でネチケット的にはアウト)

ビジネスジャッジ的な部分もあるけども。

 

③自社に都合の良すぎる法的解釈をしていないか。(プロ責法の誤った解釈)

あとは利用規約に頼りすぎていないかとか。

 

④現場への法的知識の刷り込みはできているか。現場で運用を行うための必要最低限の法的知識レベルをどう担保させるか。

教育・研修だけで解決できるものではないとは思っているけども。

 

⑤サービス開始直前(もう止められない段階)で法務相談がくるということがないか。法務の把握していない(法的解釈を含む)謎マニュアルが現場で運用されていないか。

一部の方には共感頂けると信じてる。

 

コスプレと著作権~マリカー事件を踏まえつつ論点まとめ~

例のマリカー事件を踏まえて、改めてコスプレと著作権で論点をまとめてみました。

 

※過去の自分のブログやマリカー事件のtogetterを踏まえています。

【参考リンク】

kanegoonta.hatenablog.com

togetter.com

 

 

0.前提

ここでのコスプレ衣装は「アニメ等のキャラクターのコスプレ衣装」を前提としています。

メイドコスプレ・警官コスプレといった「元となるキャラクターがないコスプレ」は今回の内容の対象外となります。

 

1.ベース(元)となる著作物をどう認定するか

キャラクター*1自体は著作権法での保護対象ではなく、漫画やゲームの画像として表現された状態で初めて保護されます。

たとえば、アニメのキャラクターはアニメの一部として保護されることになります。

また、コスプレ衣装は「キャラクターの衣装デザイン(二次元)」を三次元の人間が着る衣装として創作したものですので、厳密にはアニメの中で表現されているアニメキャラクターの衣装デザインそのものが著作物として保護されるのか、という論点もあるのではないでしょうか。(アニメのキャラクターがアニメの一部として著作物と認定されればこの論点はあまり必要ないとは思いますが、衣装デザイン単体で保護された方が権利行使はしやすいのではないかと思ったり)

マリカー事件では、

(1)ゲームの中のマリオの画像が著作物として保護されるのか

(2)ゲームの中のマリオの衣装デザイン(赤帽子・赤シャツ・青つなぎ)が著作物として保護されるか

が論点となり、(1)は認定される可能性は高いのではないでしょうか。

(2)の見解については、2にて後述。

 

2.何をもって権利侵害とするのか

1がクリアになったとして、次にコスプレ衣装を作ること、着ること、貸すこと等が著作権法上の利用行為(複製権・貸与権・上演権等の21条~28条に規定される権利)に該当するかどうかを検討する必要があります。

ここでの論点は以下の2つと思われます。

①コスプレ衣装自体を複製(翻案)物とするのか

コスプレ衣装自体が元となる著作物の表現上の特徴的部分と直接感得できる場合は複製(翻案)行為が行われたと考えられます。

ただ、この場合、元となる著作物(例えば、アニメのキャラクター画像)の表現上の本質的特徴をどう認定するかが問題となってきます。

マリカー事件でいえば、マリオのキャラクター画像のどこを表現上の本質的特徴と認定するかということです。

赤帽子・赤シャツ・青つなぎという部分に表現上の本質的特徴を見出すのであれば、コスプレイ衣装を複製(翻案)物として認定するは容易でしょうが*2

一般的なキャラクター画像は「キャラクターの顔」の部分も表現上の本質的特徴の重要な部分であると考えられる点、

赤帽子・赤シャツ・青つなぎといったシンプルな部分を著作権としての保護対象(独占できる対象)とするのはやりすぎと感じる点(仮に認められた場合でも、権利範囲はデッドコピーに限定すべき)

から100%侵害といえるかは疑問があると個人的には感じています。

②コスプレ衣装を人が着用した状態を複製物とするのか

人体と合わさることで元の著作物の表現上の特徴的部分と直接感得できる場合は、コスプレ衣装を着用した時点で初めて複製(翻案)物として認定されることになるような気がします。

コミケやとなコスといったところでコスプレをしたり、コスプレ写真集を販売する人々は「ガチのコスプレイヤー」であり、キャラクターになりきるために顔(化粧・ウィッグ等)や体型まで似せてきます。

仮に元となる著作物(キャラクター画像)の表現上の本質的特徴を「キャラクターの顔」や「体型」を含めて認定された場合であっても、「(あまりにキャラクターに似せてきている)ガチのコスプレイヤー」は複製(翻案)物として認定される可能性があることになります。

ただこの場合、人体を著作権法上の権利義務の対象とすることができるのかという問題が生じることになります。

なお、判決としては、人体の「入れ墨」を著作物として認定した事件があります*3

人体を著作権法上の差止(廃棄)請求の対象とできるのか。

非常に興味深い論点ですね。

 

3.応用美術の論点は生じるのか

この論点は基本的には生じないと考えれられます。もちろん、元ネタとなるアニメのキャラクターがないようなコスプレ衣装であれば、「量産できる実用品」として応用美術の論点が生じると思われます。

なお、コスプレ衣装ではありませんが、(元ネタとなるアニメがあるわけではない)おもちゃのファービー人形は、過去著作物として保護されないと判断*4されています*5

 

なんかつきつめたら論文一本書けそう(笑)

*1:架空の人物や動物等の姿態、容貌、名称、役柄等の総称を指し、小説や漫画等の具体的表現から昇華した抽象的なイメージ

*2:マリカー事件では、マリカー側はコスプレ衣装の制作は行っていないため、複製物の貸与を行ったとして貸与権の侵害となります。HP上でのコスプレ写真のアップロードは複製権と公衆送信権侵害の余地はあります。

*3:http://www.ypat.gr.jp/ja/case/copyright/01.html

*4:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/650/004650_hanrei.pdf

*5:TRIPP TRAPP事件の判決がでてからは先行き不透明な状態ですが

「音楽教室での著作権料徴収の件」で感じるズレ

例の音楽教室から著作権料を徴収する件が話題になっていたわけですが、雑感を少しだけ。

法律論については多くの方が解説*1されているので、ここでは詳しくは書きません。

ネット上では「JASRACやりすぎやろ(意訳)」と叩かれているわけですが、この件で改めて感じるのは、「一般人の感覚」と「著作権法」に大きなズレがあるのだなということです。

つまり、「著作権法は一般の人が納得できる法律になっていない点がある」と。

だからこそ上記のような感情論が起こるのかなと思いました。

 

この「ズレ」の原因を何なのか?

 

まず、著作権法は、「思想又は感情を創作的に表現しているもの」である著作物について、利用者の公正な利用と権利者(著作者等)の保護を規定して、文化の発展に寄与することを目的としています。

従って、国民の誰もが著作者になり得るし、誰もが利用者にもなり得るため、利用者と権利者のバランスが大事となってきます。

にもかかわらず、著作物の利用者を大きく制限し著作者の権利を拡大するような謎理論が存在している現状があります。

 その謎理論とは、

著作権法を少しでも勉強していればでてくる

「一人でも公衆」理論や

「カラオケ」法理等の規範的主体論(物理的に侵害行為を行っていないものを侵害の主体と認める理論。例:カラオケスナックでの歌唱の主体は客ではなく、カラオケスナック側*2

といった理論(他にもいろいろあるけど)であり、

これらの過去の判例から導き出された権利者寄りの法的解釈は、異論はあるものの実務家や法学者の間では定着しているが、「一般人の感覚」からは明らかにおかしいのではないでしょうか。

しかもこれらは条文上には記載がないですし。(過去審議会で検討はされたけど)

 

 

 

今回の件での批判は、

JASRACというより(もちろん個人的には今回の件はやり過ぎ感がありますし、音楽でお金儲けをしているならば何でも利用料をよこせというスタンスには違和感を覚えていますが)

「ズレ」を生み出している元凶である

JASRACの主張を認めて謎理論を展開した過去の裁判所の判断

・今回のJASRACの主張を認める余地が解釈上可能な現行の著作権法

に対して行うべきではないでしょうか。

 

そしてその上でもう一度、間接侵害規定の整備等(まぁ無理なんでしょうが)で「ズレ」を明確にしつつ、その「ズレ」を広く理解させる(著作権教育とかかな)必要があるのではないかと。

 

そんなことを考えながら日々もやもやしております。

*1:

主な論点としては、

著作権法第22条の「著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として・・・演奏する」ことに該当するかどうかという点について、

・「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」といえるのか

・誰が誰に向かって演奏するのか(演奏の主体は誰か)

・権利制限規定に該当するのか

・演奏権は「消尽」しているのか(島並先生のtwitterでの発言より)

 

以下参考となるブログ

・福井健策先生「JASRAC音楽教室問題から1週間。取材等で話したことをざっくりまとめてみる」

http://www.kottolaw.com/column/001379.html

・栗原潔先生「JASRAC vs 音楽教室:法廷で争った場合の論点を考える」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuriharakiyoshi/20170206-00067411/

・同上「JASRAC音楽教室からも著作権使用料を徴収しようとする法的根拠は何か?」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuriharakiyoshi/20170202-00067263/

小倉先生「音楽教室JASRAC

http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2017/02/jasrac-0677.html

同上「音楽教室JASRAC管理楽曲は「演奏」されているのか。」

http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2017/02/jasrac-3747.html

 

*2:この理論は、カラオケ装置リース会社、テレビ転送サービス、音楽(変換)ストレージサービス、ファイル共有サービス、自炊代行まで広がっている