自炊を始めてみた。
料理でありません。念のため。
書籍の自炊を始めてみたのでメモ。
1 自炊までの流れ
(1)裁断機器とスキャナを買う
何事も始めるには道具がいります。
テニスを始めるにはラケットがいるように。
自分に合った道具探しは重要です。
ということで、Kanekoのネットリサーチ能力を駆使した結果、以下の相棒をチョイスしました。
(2)閲覧するデバイスを決める
のいずれかと思いますが、通常はタブレットでしょうか。
ちなみにkanekoはタブレット検討中です。
お勧めあれば教えてください!
(3)電子化する書籍を決める
おっとまだ裁断するのは早い早い。
まずは自炊する書籍をチョイスせねばなりません。
蔵書から電子化する書籍の優先順位を確定させます。
おそらく優先順位の決め方としては
対象となる書籍の利用頻度
や
対象となる書籍の電子化のしやすさでしょう。
Kaneko利用頻度としては
- 法律書籍
- ビジネス書籍
- マンガ
- 雑誌
の順なのですが、電子化のしやすさはまったく逆ですね。苦笑
(4)ファイル格納先を決める
次は電子化したファイルの格納先を決めましょう。
選択肢としては
- PC内のHDD(外付け含む
- クラウドサービス(Dropboxやgoogle drive等
でしょう。(自宅に自前のネットワークサーバを立てる奴は除く)
複数の端末からアクセスできることを踏まえると圧倒的にクラウドサービスですね。
kanekoはいったんDropboxをチョイス。
(5)書籍を裁断する
これを
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」なお、サイ太先生直筆サイン入り
こうして
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」くどいようですが、サイ太先生直筆サイン入り
こうじゃ
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」何度でも言いますが、サイ太先生直筆サイン入り
(6)スキャンする
両面&OCRでスキャン。紙詰まりもなくするすると読み込みます。
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」
きれいにスキャンできました。
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」
OCRをかければ文字読み取りも可能(ちょっと感動
※刑裁サイ太「大嘘判例八百選[第5版]」
(7)ファイルを格納する
(3)でチョイスした場所にファイルを格納した完了!
2 自炊のメリット・デメリット
(1)メリット
- 省スペース化
当たり前ですが書籍が占領していたスペースが空きます。床が見える!
- アクセス性
クラウドサービスを利用すればアクセスするのにデバイスや場所を選びません。
- 検索性
地味に使えるのがOCRでの検索。
特に調べたいことを論文の中から探すのに最適です。
(2)デメリット
裁断とスキャンがメンドイ
これしかない。
金を出してもいいから自炊代行したい。
3 自炊と著作権について
(1)自炊と著作権
自炊は著作物を複製(コピー)する行為ですので、著作権法上の問題がある場合があります。
自炊について詳細に解説されている基本書を探したところ、 三山裕三「著作権法詳説 判例で読む14章 第10版」(勁草書房、2016)において以下のように書かれていました。
- 購読者本人によるスキャン(複製)は30条でセーフである。
- 購読者本人が書籍等を裁断、廃棄しても書籍等の所有権を有する以上、所有権の侵害にはならず、また著作物を利用しているわけでもないから、著作権の侵害にもならない。
- 裁断済み書籍等を譲渡しても、譲渡権はファーストセールですでに消尽しているので、譲渡権侵害にはならない。
- 30条でセーフの複製物を配布したり、公衆に提示したりすると、目的外使用(49条)となりアウト(複製侵害)になる。
P339
要は「基本は自分で自炊して楽しむ分には問題ないよ」ということです。
では自炊代行の場合(業者による自炊の手助けがある場合)はどうでしょうか
(2)自炊代行と著作権
先ほどの三山本では自炊代行を3パターンに分けて法的問題を以下のように考察しています。
1.業者が道具と場のみを提供する形態
顧客自身が複製しているので著作権法上はセーフであり、顧客に不法行為が成立しない以上、従属説(直接侵害の成立が間接侵害の成立の前提であるとする考え方であり、ここでは顧客に著作権侵害が成立してはじめて業者にも著作権侵害が成立すると考えることになる)の立場に立てば業者は幇助にもならず、書籍等の売上減もない。
2.業者が裁断済み書籍を提供する形態
顧客自身が複製しているので著作権法上はセーフであり、顧客に不法行為が成立しない以上、従属説の立場に立てば業者は幇助にもならず、また店舗外への持出しがなく占有の移転もないから、貸与権侵害にもならない。書籍の売上減があるので著者や出版社の立場からはアウトにしたいところだが、著作権侵害か否かは書籍の売上減(実害)があるか否かにより影響を受けないので、セーフという結論は変わらない。もっとも、貸しレコード問題のところで指摘したのと同様に、「業者の貸与行為」と「顧客による複製行為」を一連のものとしてとらえるならば、アウトという結論も可能かもしれない。
3.業者がスキャンを代行する形態(業者がスキャンするので正確には他炊である)
業者による複製は30条1項の「使用する者が複製することができる」の規定に反しているのでアウトであると解される。書籍の売上減はないが、著作権侵害か否かの結論は書籍の売上減(実害)があるか否かにより影響を受けないので、アウトという結論は変わらない。
P339~340
上記だと「スキャンは購読者(利用者)本人が行うが、裁断を業者が行う場合はどうなのだろう」という疑問が。
自炊代行は訴訟になっているため、判決文(知財高裁平成26年10月22日判決)をざっと読んでみますと、
「ロクラクⅡ」事件最高裁判決(平成23年1月20日判決)における枢要行為論を利用して
本件における複製は、書籍を電子ファイル化するという点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ、その枢要な行為をしているのは、法人被告らであって、利用者ではない。
と述べられています。
電子ファイル化作業=枢要行為
電子ファイル化作業を行う者=複製行為の主体
ということですので、「スキャンして電子ファイル化するのが誰か」がキーになるということかと思います。
ところで少し話しがずれるのですが、藤田晶子「著作権法裁判例における規範的主体論」(コピライト2016年5月号、2016)は自炊代行の事件にジュークボックス法理での当てはめを検討していて非常に興味深いです。
とすると、裁断を業者が行うのはOKなのかなーと思ってググってみたところ、
一時期話題になった「自炊の森」が裁断の代行サービスをやっていることに気づきました。(というか、営業再開してたんやなここ)
適法性に関するページまでわざわざ作ってたんですね。(なお、中身についてはノーコメントで)
というか、HPを見ると裁断代行だけでなく、三山本でいう「2.業者が裁断済み書籍を提供する形態」のパターンで今も営業しているっぽいですね。 取り扱えない作家リストもわざわざ作ってあるし。。。
おしまい。