Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

【書評】広告法~広告業界法務のスタンダード本?~

 

広告法

広告法

 

 

Business Law Journalのブックガイド2018でも言及されていた書籍ですね。

 

著者は電通法務マネジメント局の方々*1

 

本書は、はしがきに

すでに法規制ごとにすばらしい解説書が多数出版されていますので、全般的な解説はそちらに譲ることとし、本書ではあくまで概説にとどめ、主として広告ビジネスの視座から法規制をとらえ直すことに注力しています。

と書かれているとおり、広告ビジネス実務に焦点をあてて法的解説がなされています。

 

広告ビジネスに法規制に関する書籍としては、代表的なものとしてJARO「広告法務Q&A」があるかと思いますが、あくまでQ&A形式となっているため、全体的な法規制については理解しにくい構造になっていると個人的には感じており、その点においては本書の方が最適かなぁと思うところです。 

 

  • 広告業界に入りたての法務部員
  • (広告主側になる)B to C企業の法務部員
  • 間接的に広告業界に関わる企業の法務部員

にとっては「使える書籍」になるのではと思います。

 

本書の中身を見ていきますと、まず第1編にて広告実務の解説がされています。

 

広告実務の流れ、そこで必要となる契約、関係する法令等がざっくりわかるようになっています。

 

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※一般的な広告実務の流れ

 

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※広告を作成するにあたり、関係する企業と必要となる契約の一覧表。

 

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※ケースごとに関係する法令の一覧表。

 

その上で第2編以降は関係する各法律の解説がされています。

特に知的財産法と景品表示法の割合が多いものの、個人情報保護法*2や屋外広告法、公職選挙法といった部分もカバーしています。

 

あくまで広告実務を踏まえた解説がされていますので、非常にわかりやすく、イメージがしやすいと感じました。

特にグラフィックス広告とテレビCM等の動画広告に関しては、権利関係が複雑なため、そこをどう整理してどのように実務を行っているのかわかりやすく解説されていると感じます。

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※広告の著作権と広告に使用される素材の権利の関係性。

 

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※肖像利用に関する説明。一般的な広告出演契約の条件も記載されています。

 

個人的にkanekoが勉強になった点は下記です。

 

  • (契約等を考慮しない前提で)テレビCM等の動画広告自体の著作権の権利帰属先は原則として広告主である点

かつてはACC合意により、権利帰属に関してお互いに権利主張をしないという運用が行われていたところ、知財高裁平成24年10月25日判決以降は、原則広告主が権利帰属先である前提での運用がされている旨が判決文の解説とともに書かれています。

  • 「広告実務において著作権法上の『引用』の要件を満たすケースはほとんどない」と言い切っている点

当たり前なのかもしれませんが、はっきり記載されているのは参考になります。

  • モノや死者のパブリシティ権の問題、広告に著名人の「そっくりさん」を出演させる場合の問題、映像製作時に「第三者の著作物のイメージ」の影響を受けて広告を作成した場合の問題、といった法務として悩ましい(と思われる)部分についても言及されている点

画期的な解決方法が書いてあるわけではありませんが、参考になります。 

 

IoT関連技術の発展が広告ビジネスにも影響してきており、広告ビジネスに関連する特許権取得の増加が見込まれる旨を述べた上で、以下のように言及されています。

広告ビジネスにかかわる環境が急速に変化し、従来の広告ビジネス領域内にはいなかった新規参入プレイヤーが力を増す中で、特に広告ビジネスを生業とするプレイヤーにとっては、「広告ビジネスにおける特許/知財戦略」の立案や見直しに至るまで、課題が山積しています。広告を生業とするプレイヤーはこのような状況を改めて自覚し、いち早く戦略や体制づくりをすすめていくことが、今後の広告ビジネスの維持拡大に不可欠であると考えます。(p145)

 

これを見て思い出したのですが、

kanekoも2年ほど前に、大学院の授業の一環で「アクセスログを用いた広告関連技術の特許出願動向」を簡易調査してみたことがありました。

 

その際、以下の結果がでました。

※あくまで簡易調査であり、検索式*3はザックリかつ名寄せやノイズ除去、検索漏れの確認などは行っておりません。従って、データとしての正確性の保証もできません。趣味程度だと思って下さいませ。

※以下、2016年6月時点でのデータ抽出をベースにしています。(従って2015年の出願数は追えてない)

 

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赤字の2000年と2001年の出願は米国におけるステート・ストリート・バンク事件((State Street Bank 対 Signature Financial Group, Inc., 149 F. 3d 1368 (Fed. Cir. 1998)))やamazon.comのワンクリック特許登録等の影響(ビジネスモデル特許出願ブーム?)によるものと思われますが、それ以降も20~40件で安定的に特許出願がされているので、今後もこの分野の出願は(爆発的には増えないけど)そこそこあるのだろうなぁと思ってました。

ですので上記言及を見て、改めてこの分野は今後の出願動向に注目していこうと思った次第です。

 

 

というわけで?、こちらの書籍もkanekoの会社の机に置かれる1冊となりました。

 

 

参考までに目次はこちら

    ↓

第1編 導入編

 第1章 広告ビジネスの全体像

 第2章 広告ビジネス実務の概観

 第3章 広告ビジネス実務における各手法と法的イシュー

第2編 実践編

 第1章 著作権法

 第2章 肖像権・パブリシティ権

 第3章 商標法

 第4章 不正競争防止法

 第5章 特許法

 第6章 景品表示法・ 表示規制

 第7章 景品表示法・ 景品規制

 第8章 食品の表示・広告に関する規制

 第9章 広告撮影に関する関連法規

 第10章 イベント

 第11章 屋外広告物

 第12章 個人情報保護法

 第13章 広告とインターネット関連法規

 第14章 スポーツと広告ビジネス

 第15章 製造物責任法

 第16章 特定業種の広告規制

 第17章 公職選挙法

 第18章 広告と取引にかかわる法律

 

*1:最後に編集代表者や著者の経歴が載っているのは興味深いです。電通の法務って何人くらいいるのでしょうか?法律と関係ない部署を経験してから法務に来ている人もいるみたい。

*2:個人的にはアドテク領域への言及がもっとあるとよかったのですが、そこまで書くと本書の趣旨を逸脱してしまうんだろうなぁ

*3:検索式は以下

①【検索項目:要約+請求+発明名】【検索キーワード:広告】
②【検索項目:要約+請求+発明名】【検索キーワード:アクセスログ クッキー cookie 行動履歴 閲覧履歴 広告識別情報 広告識別子(すべてor検索)】
③【検索項目:更新FI】【検索キーワード:G06F13/00 G06Q30/02 G06Q50/10 G09F19/00(すべてor検索)】
検索論理式:①*②*③=500件