Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

【書評】「オリンピックvs便乗商法ーまやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘」

  

オリンピックVS便乗商法: まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘

オリンピックVS便乗商法: まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘

 

 

著者は「へんな商標?」等の友利先生

 

まえがきに

オリンピック組織が、これまでどのようなアプローチで自己の利益を拡大してきたのか、そのために他人がどのような犠牲を強いられてきたのかを、できるだけ多くの具体例を紹介しながら総括し、それらを教訓として、正当行為に対するクレームや規制に、我々はどのように向き合うべきかを考察している。

3、4ページ

と書かれている通り、アンブッシュ・マーケティングとその規制に関して豊富な事例を紹介し細かく考察している書籍になります。

 

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※表紙が東京オリンピックエンブレム風なの狙ってる感あります。

 

なお、著者の立場は、アンブッシュ・マーケティング規制に批判的な立場であり、その前提で読む必要があります。

 

 

構成は概ね以下になっています。

 

 

以下、本書を読んで個人的に興味深かった点を中心に紹介していきます。

 

アンブッシュ・マーケティング規制の法的根拠の薄さを指摘

オリンピック憲章によると、オリンピック・シンボルとオリンピックの旗、モットー、讃歌、オリンピックと特定できるもの、名称、エンブレム、聖火およびトーチといったものは「オリンピック資産」と定義されています。 

(そしてオリンピック憲章をもとに大会ブランド基準が公表されています。)

本書では、このオリンピック資産に関して、主に知的財産法の観点から徹底的に考察されています。

結論としては、オリンピック組織が独占できる範囲は狭いということと理解しましたが、非常に勉強になります。

実際には知財権侵害でもないし、第三者の行為を差し止める法的な根拠がないのに「なんだか侵害っぽい」クレームを入れているんだよなと改めて理解できました。

なお、国内外のオリンピック関連の裁判例や各国でのアンブッシュ・マーケティング規制法についても紹介されています。

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146、147ページ

※○○リンピックの商標登録の有効性について争った事例。そういえば、ホームセンター「オリンピック」(母体の株式会社 Olympicグループは東証1部)ってありますよね。

 

世界各国でのアンブッシュ・マーケティングおよびその規制の豊富な事例紹介

アンブッシュ・マーケティングを確信犯型アンブッシュ・マーケティングと善意型アンブッシュ・マーケティングに分けて、世界各国の事例を紹介しています。

また、その(オリンピック関連組織による)警告事例もパターンに分けて分析されており、いわゆる「温度感」を理解できるようになっています。

 

アンブッシュ・マーケティング規制に至る背景の考察が興味深い

1業種1社契約やスポンサーの独占権確保のためにアンブッシュ・マーケティングを「敵」とみなすまでの流れが個人的に非常に興味深かったです。

 

個人的に興味深いと感じたメッセージ 

本書を読んで一番考えさせられたのが以下の文章です。

巧みなレトリックを駆使することで、他人の正当行為にあたかも違法であるかのような印象を与え、自分だけ特別扱いされる風潮を作り出そうとする行為は、一歩間違えば、どちらが「不正行為」なんだという話になり得る。みんなに平等な決められたルール(法律)のもとで公正な競争が行われるよう、正さなければならない。

その観点から、「実務上のトラブルを避けるために」という名目で、オリンピック組織の言い分に従うことをよしとする「自粛派」の見解には、筆者は賛同しかねる。確かに、例えばクライアントから相談を受けた場合に、法律上の解とは別に、クライアントがトラブルに巻き込まれないようにという観点から保守的な回答をすることは、それはクライアントの立場に立った、親身なアドバイスの形ではあるのだろう。「クレームが来るだけでも困る」というスタンスの事業者が少なくないのは事実だし、そうしたクライアントに「違法ではありません」と「正しい」助言をして、いざクレームが来てしまったら(クレームが言いがかりレベルだったとしても)、弁理士、弁護士がクライアントから怒られることもよくある。会員企業に対するJAROの助言などもそうかもしれない。

だが、それはあくまで個別のクライアントなどに対する助言だから、その相手にとって適切ということなのであって、一般論として「トラブルを避けるためには、法律上は必ずしも正しくない主張だとしても受け入れた方が無難」と判断するのは、やはりはっきりと不適切だと考える。仮にそうした判断を是とするのであれば、法的な正当性はさておき、声の大きい者、力の強い者には従うことが無難、という話になってしまう。なんのための法律なんだ。どんな恐怖社会なんだ。いくら相手が強者でも、法律を不当に解釈して競争を有利に運ぼうとしたり、他人の自由を侵害しようとしていたら、その法律の正当な解釈によって対抗しなければならない。特に法曹界の人間であるならばそうあるべきではないだろうか。

195、196ページ

※太字はkaneko

著者の主張はごもっともだと思います。一方、個人的には(是非はともかく)ビジネスジャッジとして『「実務上のトラブルを避けるために」という名目で、オリンピック組織の言い分に従うことをよしとする』という判断も一定程度理解はできるところ。このあたりは、よく法務界隈でも話題になりますが、悩ましいところではあります。

 

みなさん、もし事業部(弁護士・弁理士の方であれば顧客)からアンブッシュ・マーケティングの相談がきたらどう答えますか? 

 

 最後に

来年の東京オリンピックに向けてますます厳しくなるであろう「アンブッシュ・マーケティング規制」について改めて考えるきっかけになる書籍だと思いました。一度読んでみることをオススメします。

 

 

あ、あと

もしこのエントリーが消されたらどこかから見えない力が働いたと思ってください。

コスプレと著作権の法的問題について文献をいろいろ調べてみた。

 

 

と書いたので、ざっとまとめてみました。

 

※あくまで著作権法の観点からであり、その他の法律(例えば不正競争防止法)については対象外です。

 

【目次】

 

 

 

1.コスプレの法的問題点~各種文献~

コスプレの著作権法上の問題について専門家の見解を紹介していきます。

※なお、引用部分の太字は、すべてkanekoによるものです。

 

1.1.角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)

まずは、角田先生・関先生の「ファッションロー」です。この書籍は、ファッション関連の法律問題について書かれた書籍ですが、コスプレに関しても以下の言及があります。

まず、

 コスプレは、著作権法上は、著作物であるアニメ、マンガ、ゲームソフト、映画などの登場人物、つまりキャラクターを複製または翻案してコスプレイヤーがメイクアップやヘアデザインをし、衣装を身に付けて二次的利用をする行為である。

 したがって、アニメ等との関係では、現著作物の二次的著作物について、コスプレイヤーには、二次的著作物の著作者としての著作権法上の地位が生じ、その著作権を有することになる。

角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)227ページ

 と説明したうえで、

 コスプレの制作は、キャラクターの翻案のうち、二次的な表現形式を立体的な表現形式に変更する変形行為(著27条)に当たり、原則として、それらの原著作物の著作者の許諾が必要となる。

 コスプレは、個人で楽しむ場合が多く、通常は私的使用目的の複製または翻案という公正利用として原作者の許諾は必要ないが、初めから各種のイベントやTVなどで業務上の使用のために複製、翻案、展示、譲渡、貸与等により利用される場合のほか、個人のコスプレイヤーがコスプレショーやイベントに参加する場合には、原著作者の許諾を得る必要が生じる。

 もっとも、アニメーションやゲームソフトなどの登場人物であっても、そのような登場人物の映像に普通にみられるごくありふれたものである場合には、「表現上の創作性がない」として著作物性は認められず、その複製または翻案は著作権侵害とはならないとされることがある。

 また、コスプレは、通常の著作物の複製または翻案とは異なり、コスプレイヤーを通した原著作物の利用行為であり、そのコスプレイヤーの肖像ないし容姿とともに複製物や翻案物を制作し、そのコスプレイヤーがアニメや漫画のキャラクターに成りきってコスプレを公衆に提示することがある。そのため、コスプレの写真や映像を利用するためには、上記の著作権の処理に加えてコスプレイヤーの肖像権とパブリシティ権の処理が必要となる点が特徴的である。さらには、コスプレイヤーの動作は思想感情を創作的に表現する場合があり、舞踊または無言劇の著作物となる可能性があるし、実演として実演家人格権や著作隣接権が生じる。

 コスプレにおける衣装の制作は、キャラクターを複製または翻案する行為であるが、原著作物の著作者の許諾を得ていない場合には、その著作権(翻案権)侵害となる

角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)228,229ページ

 と記載しており、

  • 原著作物の著作者の許諾のないコスプレは原著作物の著作権侵害になり得る点
  • 一方でコスプレイヤー自信にも一定の範囲で権利者となる点

が読み取れます。

(なお、全体的に他の文献に比べるとコスプレの著作権侵害に肯定的の論調に読み取れます。)

また、同様の表現が以下からも同様の内容が読み取れます。

原作の著作権者に無断で表現形式を変形してコスプレを制作する行為は、変形権ないし翻案権を侵害することになり、そのコスプレを販売する行為は(業界では、「物販」と称する)は、二次的著作物の利用権(著28)としての譲渡権(著26条の2)を侵害することとなる。もし、当初は私的使用目的で翻案したが、その後、公衆に展示すれば翻案権侵害とみなされる(著49条1項)と同時に展示権を侵害することとなり(著25条)、インターネットのホームページ等に掲載すれば翻案権侵害とみなされる(著49条1項)と同時に公衆送信権侵害にもなる点に注意すべきである(著28条)。

角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)233ページ

ここで興味深いのが、

  • コスプレ・ショーでコスプレを見せる行為を「上演権」ではなく、「展示権」と整理している点
  • コプレイヤーのメイクアップやヘアスタイル・動作について、単体で著作物性を認める余地があると述べられている点

です。

 コスプレ・ショーは、コスプレの衣装、つまりアニメ、マンガ、ゲームソフト・映画のキャラクターの複製物または翻案物をコスプレイヤーがメイクアップやへアスタイルを施して身にまとい公に展示する行為である(著28条、25条)、原著作者の許諾を要する

 もっとも、非営利・無料・無報酬でなされるコスプレ・ショーは、無許諾で行うことが認められている(著38条1項)。

 なお、コスプレ・ショーは、複製または翻案物の展示行為であるため、原作品等による公衆への展示にしか及ばない展示権は、一見、原著作者の展示権は及ばないと解される余地がある(著25条)。しかしながら、ここでいう原作品とは二次的著作物としてのコスプレ衣装の現作品を指すのであって、原作者の二次的著作物利用権は、公の展示に及ぶと解される点に注意である(著28条、25条)

 コスプレイヤーメイク・アップやヘアスタイルや動作については、それが思想または感情の創作的表現である場合には、それぞれ美術の著作物や舞踊または無言劇に類する著作物(著10条1項3号)としての保護が認められることとなる。また、その動作の振り付けの実演として実演かの人格権および著作隣接権による保護が認められる。

角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)234、235ページ

上記展示権について澤田先生から以下のコメントを頂きました。

 

 

1.2.池村聡『今、考える「“キャラクター”と著作権」』(コピライトNo.687 vol.58、2018)

池村先生もコスプレについて、以下のように言及しています。

 たとえば、ゲームやアニメ、漫画等のキャラクター(イラストとしてのキャラクター)の衣装デザインを、実際の洋服として忠実に再現して制作すること等に著作権侵害は成立するかといった形で問題となり、いわゆるコスプレを著作権法的にどう考えるのかという問題と密接に関係する。
 上記事例では、イラストとしてのキャラクターのうち、利用しているのは衣装デザイン部分のみであり、顔のパーツや表情等の利用は存在しない。したがって、利用している衣装デザイン部分に創作性が認められるか否かという問題に帰着することになり、特徴的で装飾的な衣装デザインであれば、創作性が認められる余地もあろうが、一般論としては、創作性が認められる衣装デザインはそう多くはないように思われる。

池村聡『今、考える「“キャラクター”と著作権」』(コピライトNo.687 vol.58、2018)40ページ

 池村先生のご意見の特徴的な点は、

  • コスプレの著作権侵害には否定的である点
  • 衣装デザインの創作性の問題に帰結する(ファッションデザインの創作性) 点

 です。

先のkanekoのツイートの背景はここからきています。

 

1.3.平成 27 年度著作権委員会第 4 部会「コンテンツ内オブジェクトによるビジネスについての法的諸問題」(パテントVol. 69 No. 12、2016)

パテント誌でもコスプレについての記事がありました。平成 27 年度著作権委員会第 4 部会「コンテンツ内オブジェクトによるビジネスについての法的諸問題」では、以下のように記載されています。

 

 コスプレ用の衣装が,元ネタ(2 次元上で描かれた服の絵)の本質的特徴を全く感得させない程非類似なものならば,そもそも複製や翻案とはならないだろう。(つまり,衣装を作る側が本物に近づけようと努力すればするほど,侵害の危険性が高くなる,という皮肉な状況になっている)
 コスプレ用の衣装が,元ネタの著作物の複製権や翻案権を形式的に侵害していると解釈された場合,私的複製の論点が生じる(30 条,43 条)。
 著作権法 30 条には「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするとき」という要件がある。
 この「限られた範囲」がどこまでなのかについては,明確な定義は無く,諸説あるようだ。コスプレイベントに一緒に参加する「数人の親しい友人グループ」程度であれば,一見,「限られた範囲」となり得るかに思える。
 しかしここで,コスプレにおける「著作物の使用」とは何を言うのか? という問題がある。
 服を着る事のみを「著作物の使用」と解するべきなのか,それとも,コスプレを誰かにカメラやビデオで撮影してもらう行為も含めて「著作物の使用」と解するべきなのか,という点だ。
 後者の解し方の場合,当該コスプレ用衣装を着たコスプレイヤーの写真や動画を,上記「数人の親しい友人グループ」以外の大勢のイベント参加者が撮影することになる。とすると,この大勢のイベント参加者が「限られた範囲」を超えると解釈されるおそれも出てくる。
 そして,「使用」とは具体的にはどこまでの範囲を意図したものなのか,著作権法の条文には定義がない。よって,この点は現状,グレーゾーンと言えるだろう。
 なお,仮に私的複製と評価され,複製権や翻案権の侵害は免れたとしても,コスプレ写真や動画を SNSサイトなどにアップすると,公衆送信権(23 条)の侵害のおそれが生じる。また,有料のコスプレ撮影会等の場合は,上演権(22 条,38 条 1 項)の侵害のおそれもあるので,注意が必要だ。

この記事で興味深いのが、

  • コスプレイヤーが本物(原著作物)に似ていれば似てるほど権利侵害の可能性が高くなると記載されている点
  • 私的使用における「使用」の範囲に関する論点提示がされている点

です。

 

1.4.小倉先生の見解

2013年のエントリーですが、コスプレの著作権侵害の考え方として以下のように見解を述べています。

アニメのキャラクターが普段身につけている衣装のデザインは、アニメキャラクターという「著作物」の一部として、著作権法による保護を受けることになるのでしょうか。
 これには2通りの考え方があろうかと思います。
 1つは、衣装デザインがそのアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」にあたるといえる場合に限り、それを直接感得しうるような形状の衣装を作成することは「複製」に当たるとする考え方です。ただし、アニメキャラクターの表現上の本質的特徴部分は、顔立ちや体つきにあるのが通常なので、たいていの場合衣装デザインが似ていると言うだけでは、元のアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」を直接感得できることにはならないとする考え方です。
 なお、コスプレイヤーの顔立ち及びスタイル、髪型等により、一層特定のアニメキャラクターを想起させるコスプレというのもあるとは思いますが、人体を用いて表現している要素を織り込んで著作物を「複製物」とするのは、「人を『物』として扱ってよいか」という問題を生じさせるように思います。「複製物」という場合の「物」は、有体物を指しているからです。
 もう1つは、衣装のデザインの類似性は基本的に意匠法で対処すべきなので、アニメキャラクターの衣装デザインと類似する衣装が製作されたとしても著作物としての利用がなされていないので原則として著作権侵害とすべきではないが、例外的に、その衣装が純粋美術に匹敵する高度の観賞性を認められるようなものであった場合には、美術の著作物として有形的に再製されたとする考え方です。商標法においては、形式的には第三者登録商標を使用している場合であっても、商品等の出所を識別するという商標本来の用法で使用されているわけではない場合には、「商標としての使用」ではないので、商標権侵害にはあたらないとするのが判例・通説です。この考え方を著作権法にも応用して、衣装のデザインが著作物たるアニメキャラクター衣装デザインと類似するものであったとしても、その衣装のデザイン自体が高度の観賞性を有せず、著作物としての評価を得られる類のものに至っていない(意匠として評価されるにとどまる)場合には、「著作物」としての衣装デザインが有形的に再製されたとはいえないので、「著作物としての利用」ではなく、著作権侵害にはあたらないとするのです。

小倉秀夫 benli:コスプレと著作権

http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2013/12/post-787c.html

 前者の見解は、「衣装デザインをキャラクターの一部として考え、元ネタのキャラクターの衣装デザインがそのキャラクターの表現上の本質的特徴部分であるといえるときに、その本質的特徴部分を直接感得しうるようなコスプレ衣装を制作したときに複製権の侵害になる」という見解で、後者の見解は、「衣装デザインを「単体」でとらえ、コスプレ衣装が純粋美術に匹敵する高度の鑑賞性を認められるレベルではじめて複製権の侵害になる」という見解と理解しています。

 ちなみに、小倉先生は別途とある雑誌のコラムでコスプレと著作権についての記事を出しているのですが、kanekoはまだ未読です

 

2021/1/23 追記

「1.1.角田政芳・関真也「ファッションロー」(勁草書房、2017)」に関する批判として追加のエントリーがnoteにアップされています。

コスプレと著作権|小倉秀夫|note

上記「ファッションロー」に関して、コスプレがキャラクターの複製または翻案にあたることの論証がないことを批判しつつ、以下のように言及されています。

コスプレの本質は、アニメのキャラクターが身につけているものと似た衣装等を身につけ、アニメのキャラクターの髪型や髪色と似た髪型や髪色にし、時にはさらにアニメのキャラクターに似せた化粧をすることによって、特定の個人が、特定のアニメのキャラクターを彷彿させる外形となる点にあります。コスプレは、キャラクター絵という既存の著作物の「具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現する」ものではないので、二次的著作物創作行為の一つである「変形」行為にはあたりません。

小倉秀夫「コスプレと著作権

https://note.com/benli/n/n68a6d9941e9c

また、キャラクターの絵の複製といえるかという点についても、

複製とは、著作物を有形的に再製することをいい、言い換えると、著作物たる表現を有体物に化体して、著作物たる表現を反復継続して人が知覚できるようにすることを言いますが、コスプレの場合、キャラクター絵を彷彿させるのは、上記衣装等を身にまとった人間であって、有体物ではないからです。法律の世界では、人と物とは峻別されているからです。

小倉秀夫「コスプレと著作権

https://note.com/benli/n/n68a6d9941e9c

 基本的に複製と考えるのは難しい旨が指摘されており、かつ衣装単体での複製についても以下の趣旨から否定的な見解です。

  • 二次元であるキャラクターの衣装を実際に人に着させようとすると形状が大きく変わるので、元のキャラクター絵の本質的特徴を直接感得できないケースが多い。
  • 衣装自体が応用美術となるので著作物性を否定される可能性がある。

2021/1/23 追記ここまで

 

1.5.福井先生の見解

福井先生もマリカー事件勃発時に以下の見解をコラムで公表しています。

まず、原著作物の著作権者に無断でコスプレ衣装を制作する行為については、もともとのアニメや漫画は著作物なので、立体的であれそれを無断で再現すれば著作権侵害である(複製権・翻案権)

福井健策「コスプレは著作権侵害か?マリオカート提訴が開くパンドラの箱

https://www.kottolaw.com/column/001429.html

 と原則論を書いた上で、マリカー事件については、

マリカーはどうか?話を貸与されたコスプレ衣装に限定すれば、原作マリオとの類似性は顔などを除いた、この「衣装部分」だけで考えることになる。そして繰り返すが「マリオとわかる」ことと「著作権侵害で法的に禁止される」ことは、別な問題だ。ふむ・・・。かなり際どいので自分の依頼者には勧めないが、何枚かの写真で見る限りは、まあ裁判結果を予測しにくい程度には微妙だろう。そしてこの手の、法的に微妙なコスプレや二次創作も世間には多い。

福井健策「コスプレは著作権侵害か?マリオカート提訴が開くパンドラの箱

https://www.kottolaw.com/column/001429.html

著作権法的には微妙である点が記載されています。

なお、マリカー事件の地裁判決では、著作権侵害の有無については判断が回避されています。(詳細分析はSOFTICの判例ゼミの資料が詳しいです。)

 

また、市販のコスプレ衣装を購入して利用する場合については、

著作権は複製行為だけでなく、無断での「公衆への貸与」も禁じており、マリカー裁判ではここが問題視されている。仮に、市販のコスプレ衣装が著作権侵害になるレベルでオリジナルに類似しているなら、その「製造」には権利者の許可があっても「貸与」は無許可となって、侵害は成立するのだ。
まして、そうした衣装を着た姿の画像や映像をネットに上げれば無断の公衆送信である。今度は衣装だけでなく、着た人の表情など姿全体をオリジナルと比較することになるから、より侵害が成立しやすいケースもあるだろう。同じくDVD化すれば、そこで無断の複製をしたことになるので、やはり危ない。
では一般的に、市販のコスプレ衣装を着てイベントに出るだけならばどうか?衣裳を着て演ずる行為は「上演」か?これはかつて、日本舞台美術家協会と新国立劇場との間で論争になったことがある。判例が出たことはないが、オリジナルにそっくりの姿で演じているなら「上演」のように思える。となればウェブ配信やDVD化はもちろん、十分似たコスプレは単にイベントに出演するだけでも上演権侵害の可能性があることになる。それが任天堂の許可を得た公式の市販衣裳だろうが、上演や公衆送信は製造とは別な利用行為なので基本的に関係がない。

福井健策「コスプレは著作権侵害か?マリオカート提訴が開くパンドラの箱

https://www.kottolaw.com/column/001429.html

と記載しており、たとえ市販のコスプレ衣装であっても、利用方法によっては、著作権侵害の余地がある旨が書かれています。

最後に、個人のコスプレ行為が許容される理由としては、「3つ考えられる」としてうえで、以下のように記載されています。

ひとつは、「単にあまり似ていない」。これは多い。ふたつめは、個人がコスプレ衣装を制作したり、対価などを受け取らずに人前で演ずる行為は、(仮に後者が上演だとしても)私的複製(私的翻案。30条)や非営利上演(38条)といって、現行法の例外規定があって許されるという解釈だ。もっともこれには異論もありそうだし、そもそも営利目的でイベントに出たり、写真などをアップする行為には例外規定はない。
そこで最後の理由、「見て見ぬふり」だ。日本のパロディや二次創作は伝統的に、権利者もうるさいことを言わない「お目こぼし」「見て見ぬふり」で成立して来たのだ。

福井健策「コスプレは著作権侵害か?マリオカート提訴が開くパンドラの箱

https://www.kottolaw.com/column/001429.html

 

「単にあまり似ていない」w

 

1.6.江頭あがさ「ファッションローとコスプレ -コスプレ衣装貸与の法的問題点について―」(発明 2019年9月号、2019)

コスプレ衣装貸与の法的問題点について、マリカー事件を踏まえて検討を行った論考になります。不競法の観点だけでなく、著作権法の観点からも言及されているのが特徴です。

本論考では、まず一般論として

このような著作物であるアニメ等のキャラクターのコスチュームを作成することは、二次元的な表現形式を立体的な表現形式に変更する変形行為に当たり、元のアニメ等(原著作物)の著作権者の許諾なしに行うと、著作権侵害(翻案権、著作権法27条)となり得る。また、原著作物の翻案物である(二次的著作物)であるコスチュームを、原著作物の著作権者の許可なしに第三者に貸与することも、原著作物の著作権侵害貸与権著作権法26条の3)に該当する。ここで、著作権は、複数の支分権が集まったものであるところ、コスチュームの作成(翻案)と、コスチュームの貸与(貸与権)とは、別の支分権に該当する行為であるため、それぞれについて原著作物の著作権者の許諾を得なければならないことに留意が必要である。*1
江頭あがさ「ファッションローとコスプレ -コスプレ衣装貸与の法的問題点について―」(発明 2019年9月号、2019)46ページ

としたうえで、マリカー事件では、コスチュームの作成は適法(著作権者からライセンスを付与された第三者が製造したコスチュームを購入して利用)であるが、貸与の点が問題になっている点が指摘されています。

 

そして、「翻案物の貸与といえるか」の「翻案物かどうか(表現上の本誌素敵な特徴が感得されるか)」について

を引用しつつ、

キャラクターの表現上の本質的な特徴はどこなのか、著作物とコスチュームの共通部分はありふれた表現ではないのか、という点は難しい判断となるだろう。

江頭あがさ「ファッションローとコスプレ -コスプレ衣装貸与の法的問題点について―」(発明 2019年9月号、2019)48ページ

と締めています。

 

1.7.愛知靖之「マンガ・アニメ・ゲームの「キャラクター」をめぐる法律問題ー「マリカー事件」を素材として」(法学教室8月号 No.479、2020)

江頭先生と同じく、マリカー事件を例にコスチュームの法的問題について論じられている文献になります。

本文献では、「マリカー事件のキャラクター(マリオ、ルイージヨッシークッパ)の画像」と「各キャラクターのコスプレ衣装の画像(本文献では【図2】とされています。)」を比較した上で、以下のように述べられています。

※各画像は判決文から引用されています。

 4つのキャラクターの内、「ヨッシー」と 「クッパ」に関しては、キャラクターの顔の表現も含めたキャラクター全体の表現自体は共通して再現されている。他方、本件では、キャラクターの体付きの表現が大きく異なるほか、(「クッパ」の甲羅の大きさなど)デザイン各部の表現に違いもあり、さらに、【図2】だけからはよく分からないが、このコスチュームは、完全な着ぐるみと異なり、着用した人間の顔が見える状態になる。このような場合にまで、類似性(創作的表現の共通性)を肯定することが可 能かが問題となるだろう。本件を離れて一般的に言えば、キャラクターの衣装のみを利用するケースよりも、着ぐるみタイプ(本件と異なり、特に着用者の顔が覆われるもの)の方が類似性は肯定されやすいだろう。
 これに対して、「マリオ」と「ルイージ」に関しては、衣装のみが利用されているにすぎず、キャラクターの顔の表現が共通して再現されていない。キャラクターの顔や体付きこそが創作的表現なのだと考える場合には、この部分を共通にしていない以上、類似性は否定される。他方、衣装自体も創作的表現と認められ、これが共通して再現されていると言えるのであれば、類似性は肯定され得る。しかし、「マ リオ」と「ルイージ」の衣装については、帽子部分や衣服部分を単体で見れば、ありふれた表現であって創作性が認められないようにも思われるため、類似性を肯定するのは困難であろう。単なる被服という実用品の機能を超えた創作性(特徴的な装飾デザインなど)が求められるのである。他方、(衣装の全体的な配色や帽子の「M」のロゴなど)衣装デザインの諸要素の組合せ全体を見れば、ゲームにおける視認性確保(キャラクターの区別等)などを目的として採用されたコスチュームの配色・デザインなど具体的な表現に一定の個性・創意工夫が看取できるとして創作性を肯定することが仮にできるとすれば、類似性を肯定する余地が出てくるだろう。

愛知靖之「マンガ・アニメ・ゲームの「キャラクター」をめぐる法律問題ー「マリカー事件」を素材として」(法学教室8月号 No.479、2020)47ページ

なお、本文献では、上記小倉先生のブログが脚注に登場します。普通にブログが脚注として引かれる時代なんですね。

 

1.8. 栗原先生の見解

例の「コスプレのルール化の記事」を契機に栗原先生が、『「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というのは本当か?』という記事を公開されています。

その中で、コスプレの上演権の該当性について以下のように言及されています。

上記記事中の気になる表現に「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というものがあります。本当でしょうか?著作権法で営利か非営利かが侵害に直接関係する条文は38条くらいです。非営利・入場無料・無報酬の上演・演奏・上映・口述等には著作権は及ばないという規定です。

 

ということは、コスプレは著作権法の「上演」にあたるということが前提なのでしょうか?確かにそのような解釈をされる人がいるようではありますが、戦隊ショーのようなドラマ仕立てなら別として、通常のコスプレイベントで元作品の演劇的要素を再現することはあるのでしょうか?

 

もし、他人の著作物を複製した衣装を身にまとって何かを演じると上演権を侵害するという広い解釈を行なってしまうと、自分で正規に買ったミッキーマウスのTシャツを着て、ライブハウスで演奏したり、劇場で漫才をしたりすると著作権侵害ということになってしまいかねません。

栗原潔『「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というのは本当か?』

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20210130-00220179/

 

1.9.その他

マリカー事件が勃発した当時に各識者(栗原先生、島並先生、小倉先生、奥邨先生)が呟いた内容を勝手にkanekoがまとめています。ご参考までに。

togetter.com

 

 2.個人的意見

マリカー事件知財高裁判決でちゃんとコスプレの著作権侵害の有無について判断してほしかった。

以下、簡単に私見を。(といっても昔書いたブログの内容をほぼコピペですが)

※法的な見解として間違ってたらご指摘お願いします。

 

まず、ベース(元)となる原著作物として以下のどちらに着目するのかによって検討の方向性が変わってくると個人的には思っています。※小倉先生のご意見に近いです。

  1. 画像としての「キャラクターそのもの」
  2. キャラクターの「衣装そのもの」

 

2.1.画像としての「キャラクターそのもの」に着目した場合

【原作品の著作物性(創作性)】

この場合には、画像としてのキャラクターについては、創作性は肯定されやすいと個人的には思います。(某人間とかだとキツイと思いますけど。)

※キャラクターそのものは法的な保護対象としては認められない点

 

【侵害有無】

三者が無許可でコスプレをした場合の侵害有無については、「キャラクターとマジでそっくりなのかどうか」という観点で類似性の判断が必要になってくるように思われます。(=コスプレ時の衣装だけでなく、メイクや髪型までひっくるめて類似を検討する必要が生じるように感じます。)

また、この場合、 コスプレ衣装を人が着用した状態を複製物(翻案物)として認定することになるので、人体を著作権法上の権利義務の対象とすることができるのかという問題が生じることになります。(ただ、人体の「入れ墨」を著作物として認定した判決がある点は踏まえる必要がありそうです。入れ墨著作権事件⇒東京地判平成23年7月29日 平成21年(ワ)第31755号)

 

2.2.キャラクターの「衣装そのもの」に着目した場合

【原作品の著作物性(創作性)】

2の場合には、創作性についてのハードルが1より高く、

  • 衣装がアニメのキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」といえるか
  • 衣装単体で創作性を肯定できるか(応用美術的な論点)

(例:赤帽子・赤シャツ・青つなぎで創作性ありなん?みたいな

といった点を検討しなければならないような気がします。後者はいわゆるファッションローを含む応用美術の問題と同様の問題となるのだと思います。

※もちろん、そもそも応用美術の論点にはならないとする考えもあります。(1.6.のリンク先の島並先生の呟き参照)

ファッションローや応用美術の論点についてはちゃんと勉強してないのでこれ以上は語れないのですが、

  • 角田・関「ファッションロー」47ページ以降
  • 田村善之「意匠登録がない商品デザインの保護の可能性」(コピライトNO.676 vol.57、2017)
  • 作花文雄「詳解 著作権法」(ぎょうせい、2018)117 ページ以降
  • 駒田泰土「商品のデザインと知的財産法」『法学教室』(有斐閣、2018)
  • 著作権研究43(有斐閣、2018)

あたりが参考になるものと思われます。

【侵害有無】

三者が無許可でコスプレをした場合の侵害有無については、コスプレ時の衣装のみの類似性を検討すれば足りると認識しています。

なお、2の場合は、仮に権利の保護範囲が広すぎるといろいろ問題が生じるような気がします。

 

2.3.いろいろ実例を比較してみる。

ただ文字で見る見ているより、実物で比較して検討してみた方がいいですよね。というわけで、法クラのコスプレをみて比較考察していきましょう。(怒られたら消す)

 

以降、今回のエントリーの本題とは関係のないkanekoの個人的なネタです。ご興味のない方はすっ飛ばしてください。

 

2.3.1.エントリーナンバー1 渥美先生

まずは渥美先生。

反省する必要はないでしょう。けものフレンズのギンギツネですね。

 

2021/1/31追記

ちなみに渥美先生、他にもコスして話題になってますね↓

www.dailyshincho.jp

2021/1/31追記ここまで

 

以下が原著作物です。

f:id:kanegoonta:20190504021252j:plain

出典:けものフレンズ公式twitterより
 

ギンギツネの擬人化キャラクターですね。

キャラクターの見た目の特徴はざっとあげるとこんな感じでしょうか。

 

【髪やしっぽ】

1.髪は背丈ほどの長さで銀髪だが、耳や前髪周辺は黒

2.尻尾は根元が黒で毛先が白

【顔】

3.目は茶色

4.下まつげが強調されている

5.眉毛はほそい

6.耳は2種類あり、獣耳は黒で人の耳は肌色

【服装】

7.黒シャツ黒マフラー?に黒いネクタイ

8.紺のブレザー

9.黒のスカート

10.黒のタイツ

11.黒の手袋で手首にファーみたいなのがある

12.黒のブーツ

 

比較してみるとこんな感じでしょうか。

1⇒ほぼ類似(髪の長さが微妙に異なる)

2⇒不明(写真では確認できない)

3⇒類似

4⇒類似

5⇒類似

6⇒ほぼ類似(獣耳の色は黒ベースだが、一方はピンク色が含まれるため微妙に異なる)

7⇒類似

8⇒類似

9⇒類似

10⇒不明(写真では確認できない)

11⇒不明(写真では確認できない)

12⇒不明(写真では確認できない)

 

単純に衣装だけ比較すると、相違点がいくつかあるのですが、メイクやヘアスタイルまで含めると類似割合が多くなるのが特徴的で、原著作物の類似性を認める余地が(ry

(下まつげとかカラコンとか似せるための工夫が随所に見られるので先生コスプレ初心者ではなくけっこうガチめのレイヤーだと思われます。)

また、衣装単体(ヘアスタイルやメイクを除く)で 創作性が認められるのか(著作物として成立するのか)という点ですが、どうでしょうか。個人的には厳しい気がします。

 

ちなみにけものフレンズは二次創作ガイドラインがあり、コスプレも原則として許可されています。

GUIDELINE | けものフレンズプロジェクト

 

2.3.2.エントリーナンバー2 よみめいと先生

 続いて、筋肉弁護士ことよみめいと先生。

 

FGOFate/Grand Order) のオジマンディアス ですね。 

原著作物はコチラ 

f:id:kanegoonta:20190504141930j:plain

©TYPE-MOON/FGO PROJECT Fate/Grand Orderゲーム画面より

 

クオリティが高すぎるw(腹筋・胸筋含めて)

もはや原著作物との相違点を見つける方が難しいレベルですね。(比較を放棄した)

ちなみにFGOも二次創作ガイドラインがあります。(コスプレは明記されてないので判断しにくいですが)

Fate/Grand Order 二次創作に関するガイドライン|Fate/Grand Order 公式サイト

 

 

2.3.3.特別枠 ののみーさん

 現在の状況はわかりませんが、kanekoがフォローした当時、ののみーさんはロースクール生だったと思います。

 

 

原著作物は東方Project上海アリス幻樂団)の聖白連ですね。構図的にはイラストよりフィギュアの方が比較しやすいかも。

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©上海アリス幻樂団/グリフォンエンタープライズ *2

 

ガチですね。(比較を放棄)

 

なお、東方projectも二次創作に慣用であることは有名ですね。

東方Projectの版権を利用する際のガイドライン 2011年版 : 博麗幻想書譜

上海アリス幻樂団創作物の二次創作・使用関連ページ

 

2.3.4.エントリーナンバー3 kaneko

さて、いままではガチのレイヤーを見てきましたが、「ガチでやると元のキャラクターをかなり再現できる」ということがわかったと思います。

では素人がやるとどうなるのでしょうか。

 

こうなります。 

 

 

 

 

 

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 ※自己のプライバシー保護のため、一部にモザイク加工をしております。

 

もはや何のコスプレかわかりません。今までご紹介して来た方々に謝ったほうがいいような気がします。

 

ともかく、真面目に著作権法的な観点から見ていきましょう。

無理やり着せられたので特に誰かのキャラクターに似せたわけではないのですが、ユニフォームは下記がモデルだと思います。

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© 許斐 剛 「テニスの王子様 完全版」より

 

テニスの王子様氷帝学園のユニフォームですね。(マンガ版とアニメ版では多少異なるのですが、この写真の衣装はマンガ版がベースっぽい)

 

まず、上記写真は特に特定のキャラクターに寄せていませんので(メイクやヘアスタイルを寄せてはいない)、キャラクターに似ているとはいえないでしょう。(そう信じてる)

福井先生のこの言葉がリフレインしてきますね。 →「単にあまり似ていない」

では

  • 氷帝学園のユニフォームはそもそも著作物として保護されているといえるのか
  • 保護されてるとして、写真の衣装は原作品を複製・翻案等しているといえるのか

を考えなければなりません。

 

氷帝学園のユニフォームの特徴としては下記でしょうか。

1.全体的に白地ベースに紺(or青)※アイスブルーというらしい。

2.襟が黒

3.左右非対称

4.肩に7本の縦の黒ライン

といはいえ、かなりシンプルなデザインなので創作性があると言うのはちょっと厳しいような気もします。(と書きながら米国のチアリーディングユニフォームに関する事件を思い出す。)

念のため写真の衣装との比較もしてみましょう。

主な類似点としては下記でしょうか。

1⇒ほぼ類似?(ただ、写真の衣装は青色が薄い気がする)

2⇒類似

3⇒類似?(ただし、デザインが左右逆)

4⇒類似?(ただし、デザインが左右逆なのでラインが右肩ではなく、左肩にある)

デザインが逆であるのをどうみるかというところでしょうか。

 

というか左右逆とかこの衣装もしかしてパチモn(略

 

というわけで、少なくともガチのコスプレイヤーの方々に比べると著作権侵害の可能性は低いのではないでしょうか。(個人的意見です。)

 

とkanekoが体をはった実験をしたところでそろそろ終わりましょうか。

 

3.最後に

「コスプレと著作権」に関する論文がもっとでてくると嬉しいなと思います。(マリカー事件以降だいぶ出てきたけど)

 

 

 

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【更新履歴】

2020/3/29:

  • 江頭先生の論考を追加

2020/9/3:

  • 愛知先生の文献を追加
  • 「3.最後に」を修正(論文結構出てきたので)

2020/9/4

  • 「2.個人的意見」を修正(マリカー事件知財高裁判決が出たので)
  • 角田先生・関先生の「ファッションロー」の箇所において、澤田先生の展示権に関する見解を追記

2021/1/23

  • 小倉先生のnoteを追加

2021/1/31

  • 栗原先生のYahoo!ニュース個人の記事を追加
  • 渥美先生の記事を追記

 

 

*1:個人的にコスチュームを作成する行為については、私的使用目的の範疇内である旨の補足説明あり

*2:フィギュアを販売していたグリフォンエンタープライズは今年1月に破産。画像はamazonの販売ページより引用

平成から令和へ。20代から30代へ。

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©Ray in Manila,CC BY-SA 2.0

 

元号が変わりましたが、これと前後してkanekoも無事に歳を重ねることに成功しました。ついに平成ゆとり世代生まれ(ゆとり第1世代*1)も30代突入です。

 

この前まで大学生だと思っていたのに。苦笑

kataxさんいわく、あと体感2年で40代に突入し、

HardRockAuditorさんいわく、その(体感)半年後に50代に突入するらしいので、

一日一日を大事に生きたいですね。苦笑

 

30代の目標と行動指針は

  • 注力分野を決める
  • 昨日よりちょっとだけがんばる

です。

注力分野としては、引き続き以下と考えているので、Twitterの皆様ご教示どうぞよろしくお願いいたします。

法務 ×知財×セキュリティ(個人情報含む)


そして、「ちょっとだけがんばったこと」はしっかりメモして可視化していきたいですね。(さっき「メモの魔力」読んだ。ちなみに、最後の自己分析1000問やってみているのですが、これキツイわ。苦笑 )

 

 

 

というわけで着実におっさんになりつつあるkanekoを引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

*1:円周率が途中から「3.14」から「3」に変わったり、土曜授業なしになったり。

【書評】良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方~オンリーワンな利用規約入門書~

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【改訂新版】良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方

【改訂新版】良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方

 

 

  はっしーさん、kataxさん、雨宮先生の3人がタッグを組んだ書籍の改訂版です。

 

 Webサービスにおいて必須ともいえる、「利用規約」「プライバシーポリシー」「特定商取引法に基づく表示」の3つの規約にフォーカスして

  • そもそもなぜ規約が必要なのか
  • 規約を作成するうえで関係してくる法律の説明
  • 規約の雛形(とその解説)

がコンパクトにまとまっています。

 

 はしがきに

「この一冊を読めば、利用規約について検討すべきことがひととおりわかる」、そんなエンジニアや経営者のためのガイドブックを作りたいと考え、本書を書きました。

4ページ

と書かれているとおり、法律をよくわかってない人にも理解しやすいような工夫が各所に見られます。

 

 エンジニアや経営者だけでなく、利用規約を初めて作る法務担当者にも非常に参考になる書籍だと思います。

 

【目次】

 

 

1.法律がよくわかってない人でも読める工夫がたくさん

 法律書によくある「初っ端からガッツリ法律の解説にはいっていくので初学者が挫折する(パタンと本を閉じて二度と開かない)」系とは異なり、最初に「なんで利用規約が必要なのか」を実例を紹介しながらわかりやすく書かれています。

 

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16,17ページ

利用規約の必要性の説明。すらすら読めます。いや、ほんと。

 

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52,53ページ

↑会話形式で法的論点が整理されているページを容易する工夫も。法務担当者はこんな感じて事業部の担当者と会話しながら法的論点を抽出できないといけないですよね。汗

 

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144,145ページ

↑「いろいろ問題点があるのはわかった。で、結局どうしたらクリアになんねん」みたいなのにもちゃんと答えてくれてます。これ見ながら、「きっと著者の方々が事業部から相談が来たときに回答している内容もこれくらいわかりやすいんだろうなぁ。」と思ってました。自分もこれくらいわかりやすく説明できるようになりたいです。 ちなみに本書は全体的に箇条書きが多く使われています。これもわかりやすさの工夫のひとつでしょうね。

 

2.もちろん、法律の内容も最低限カバー

 Webサービスをユーザーに提供する上で、どのような法律が関係してきて、具体的に何が問題になるのかという点も、もちろん書かれています。

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58,58ページ

↑単純に関係する法律を列挙するだけでなく、「難易度」も書かれています。全体的に各法律の詳細が書いてあるわけではありませんが、関係する法律の「勘所(ポイント)」が把握できるようになっています。

 

3.具体例が豊富

 具体的な事例(過去実際にトラぶった事例や規約内容)が多く書かれていて、(リスクという意味で)イメージしやすいと感じました。また、トラブル事例だけでなく、参考になる規約についても具体的な社名をあげて説明されています。

 

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104,105ページ

↑同業(類似サービス)同士での禁止事項の比較一覧表。これはウチもやってみようと思いました。絶対勉強になるし、自社利用規約でカバーできていない点も明確になりますからね。

 

 

4.でも法務が見てもためになる

 法務担当者が見ても非常に勉強になると個人的に思いました。

 

4.1.規約の雛形がある

 解説付きですので、実際に利用規約を作成するときに非常に参考になると思います。(英訳版があるのが地味に助かる。)

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170,171ページ

 

4.2.利用規約作成時の注意点が把握できる

 「ペナルティの3段階」「規約変更時の対応」といった箇所だけでなく、『役に立たない利用規約を生み出す「5つの落とし穴」』として挙げられている

  1. サービスに即した実効性のある内容になっているか
  2. 法令に適合しているか
  3. 炎上リスクのある条件がないか
  4. 正確性にかけていたり、理解しづらい表現になっていたりしないか
  5. 同意を取得するプロセスが適切なものになっているか

167ページ

は法務としても常に頭に入れて考えながら利用規約を作らなきゃいけないなと改めて思いました。

 

4.3.プラポリで意外と言及されていない点についても言及

 プライバシーポリシーで見落とされがちな「情報収集モジュール」に関する箇所にもしっかり言及されています。アプリでいうSDKを含むものとkanekoは理解しました。アプリで情報取得系SDK組み込むケースって結構増えている(が同意から漏れてトラブるケースもよく聞く)ので言及されているのは助かります。ちなみに、「情報収集モジュール」での情報取得は第三者提供と整理しているように読み取れます。

 

4.4.あとがきの「弁護士・法務担当者の3つのホンネ」が個人的に好き

 是非読んでください。「うんうん」とうなずきながら読めると思います。

 

 なお、「もっと参考文献が記載されている方がいいのに」と思ったそこのあなた。ちゃんと著者の一人であるはっしーさんによる補足のエントリーが公開されています。

『【改訂新版】良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』を上梓しました〜参考文献・リンク集〜|Takuji Hashizume|note

 

5.最後に

 たぶん会社でもう一冊買うと思う。

 

位置情報を個人情報として取り扱わなくていいのか

ここ数日、位置情報関連のニュースが日経新聞に掲載されています。

 

これらの記事の中で少し気になったのが以下の文言です。

 

位置情報そのものは日本の個人情報保護法が定める「個人情報」に当たらない。このため現状は持ち主の同意なく企業間で共有することが可能だ。

出典:日本経済新聞

 

本当にそうだっけ?と思っていろいろ文献を調べてみました。なお、ここでいう「本当にそうだっけ?」というのは、

  • 個人情報にあたらないと言い切ってしまっていいのか
  • 個人情報にあたらなかったとしても、本人同意なく企業間で共有していいのか

という問題意識です。

 

【目次】

 

 

1.位置情報の種類

総務省の「位置情報プライバシーレポート~位置情報に関するプライバシーの適切な保護と社会的利活用の両立に向けて~(平成26年7月)」(以下、位置情報プライバシーレポート)によると、位置情報は以下の3つに分けられるようです。

  1. 基地局に係る位置情報
  2. GPS位置情報
  3. Wi-Fi位置情報

また、それぞれ以下のように説明されています。

1.1.基地局に係る位置情報

基地局に係る位置情報は、携帯電話事業者等の電気通信事業者が通話やメール等の通信を成立させる前提として取得している情報のことであり、位置登録情報と個々の通信の際に利用される基地局の位置情報に分けられる。
位置登録情報とは、移動体端末が着信等を行うために、移動体端末がどの基地局のエリア内に所在するかを明らかにするため、移動体端末がエリアを移動するごとに基地局に送られるほか、あるエリア内でも定期的に基地局に送られる情報をいう。具体的には、基地局の識別番号、端末の識別番号、取得日時等によって構成される。実際に通信している際に用いられる情報ではないため、携帯電話事業者等においては個人情報として扱われる。精度は基地局単位であり、概ね数百メートル単位である。
他方、個々の通信の際に利用される基地局情報は、携帯電話事業者等においては通信の秘密として取り扱われ、基地局の識別番号、通信の発信元の識別番号、通信の発信先の識別番号、通信日時等によって構成される。精度は位置登録情報と同じく基地局単位である。

位置情報プライバシーレポート 6ページ

1.2.GPS位置情報

GPS位置情報とは、複数のGPS衛星から発信されている電波を携帯電話等の移動体端末が受信して、衛星と移動体端末との距離等から当該移動体端末の詳細な位置を示す位置情報である。緯度経度情報、端末の識別情報、取得日時等で構成される。GPS位置情報は、個々の通信を成立させるために必要な情報ではない上に、電気通信事業者が通信を成立させる前提として取得するものでもない。しかし、その精度は緯度経度単位(数メートル~数十メートル単位)であり、基地局に係る位置情報と比べて移動体端末の詳細な位置を示すことが可能である。

位置情報プライバシーレポート 7ページ

 

1.3.Wi-Fi位置情報

Wi-Fi位置情報とは、Wi-Fiのアクセスポイントと移動体端末間の通信を位置情報の測位に応用することによって、利用者によるインターネット接続の前後を問わず取得される位置情報である。例えば、プローブリクエスト(端末が、周囲にある接続可能なアクセスポイントを探すために発信する信号。この信号の中にはMACアドレスが含まれる。)の強度・時間等の情報を用いることで、アクセスポイント7のエリア内における端末の相対的位置を推定するものがある。屋内での測位が難しいGPS位置情報と異なり、屋内外を問わず利用することが可能なWi-Fi位置情報は、精度がアクセスポイント単位(数メートル単位~数十メートル単位)と高いこともあり、大型店舗等で活用される事例が見受けられる。取得される情報としては、アクセスポイントのエリア内の相対的な端末の位置、端末のMACアドレス、取得日時等がある。

位置情報プライバシーレポート 7ページ、8ページ

上記を踏まえて、それぞれの文献をみていきたいと思います。

なお、中崎隆・安藤広人・板倉陽一郎・永井徳人・吉峯耕平編「データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A」では、上記3つの位置情報に加えて、「ビーコンによる位置情報」が追加されています。

 

2.スマートフォン プライバシー イニシアティブⅢ

まずはスマホアプリ事業者の方ならお馴染み?の総務省の「スマートフォン プライバシー イニシアティブⅢ」(以外、SPI Ⅲ)をみていきましょう。

 

SPI Ⅲでは、まず

行動履歴や利用履歴に関する情報としては、GPS基地局Wi-Fi アクセスポイント情報に基づく位置情報、通信履歴(通話内容・履歴、メール内容・送受信内容等)、ウェブページ上の行動履歴などが蓄積される場合がある。また、アプリケーションの利用により蓄積される情報やアプリケーションの利用ログ、システムの利用に関するログなどが蓄積されることもある。これらは、それ自体で一般には個人識別性を有しないことが多いと考えられるが、長期間網羅的に蓄積した場合等において、態様によって個人が推定可能となる場合もある。移動履歴は、短期間のものでも、自宅、職場等の情報と等価になる場合がある。また、大量かつ多様なこれらの履歴の集積については、個人の人格と密接に関係する可能性が指摘される。

SPI Ⅲ 11ページ

※太字強調はkaneko(以下同じ)

としたうえで、

・利用者の行動履歴や状態に関する情報については、内容・利用目的等によりプライバシー上の懸念が指摘される。
・相当程度長期間にわたり時系列に蓄積された場合等、態様によって個人が推定可能になる可能性がある。

SPI Ⅲ 13ページ

とまとめています。

そして同意取得の必要性については、以下のように記載されています。

アプリケーションが提供するサービスへの利用以外の目的で、個人と結びつきうる形でGPS の位置情報などを取得する場合 プライバシー侵害を回避する観点から、個別の情報に関する同意取得を行う。

SPI Ⅲ 20ページ

 

 

3.個人情報保護委員会事務局レポート:匿名加工情報 パーソナルデータの利活用促進と消費者の信頼性確保の両立に向けて

個人情報保護委員会事務局レポート:匿名加工情報 パーソナルデータの利活用促進と消費者の信頼性確保の両立に向けて」(以下、匿名加工レポート)は、匿名加工の具体的方法について記載されたレポートですが、以下のように位置情報に関する記載があります。

 

詳細な位置情報(移動履歴)を扱うデータベースや、長期間の購買情報を扱うデータベースは、そこに蓄積される情報から、反復して行われる行動習慣や趣味・嗜好を読み取ることが可能である。そのような履歴情報から読み取れる行動習慣等ついては、一般的には特定の個人を識別することは困難であると思われるが、特に顕著な行動習慣等については特定の個人の識別につながることもあり得る

匿名加工レポート 27ページ

 

一般的に、位置情報それ自体のみでは個人情報には該当しないものではあるが、ある個人に関する位置情報が連続的に蓄積されるとその人の移動履歴を表し得る。特に、深夜に滞在している地点や日中に滞在している地点を表す位置情報からは、その移動履歴に係る本人の自宅や勤務先等の個人に関する基本的な属性を推測することも可能である。・・・(中略)・・・また、移動履歴は長くなるほど他人と重複する可能性が低く一意な情報となるという特徴のほか、都市部と地方、昼間と夜間等、環境や状況に応じて同じ範囲から取得できる位置情報の数が変わる、といった特徴もあるため、位置情報や移動履歴の性質を考慮した上で、措置を講ずることが望ましい。

匿名加工レポート 28ページ

 

詳細な時刻情報と紐づく位置情報の連続したデータからは、ある地点から別の地点への移動の経路のみならず、夜間に同じ場所に滞留している位置情報からは自宅を推定することができ、昼間に同じ場所に滞留している位置情報からは、勤務先や通っている学校等を推定することが可能である。

匿名加工レポート 60ページ

 

 また、それ以外でも以下の趣旨の言及がされています。

  • 夜間や昼間の滞在地点から自宅や勤務先等を推定できる可能性あり。
  • 詳細な位置情報と時刻情報の組合せが異なるデータセット間で識別子として機能し得る。
  • 所定エリア内の位置情報が極めて少ない場合に、個人の特定に結びつく可能性がある。

 

 

4.位置情報プライバシーレポート

冒頭の位置情報の定義でもご紹介した総務省の「位置情報プライバシーレポート」は、平成26年と古い資料ではあるものの、位置情報に特化して法的な問題や匿名加工方法に関して具体的な事例の紹介を含めて言及されており、資料として非常に参考になります。なお、平成26年ですので、旧個人情報保護法の時代の資料である点(対応する各種ガイドラインも古い)は留意する必要があります。

 

位置情報のプライバシー性については、旧個人情報保護法に基づく「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(本レポート内では個人情報保護ガイドラインと定義されています。)」を引用して以下のように言及されています。

電気通信事業者が取り扱う位置情報については、これまで保護法における取扱いよりも高いレベルの保護が求められてきた。具体的には、個人情報保護ガイドライン第26条においては、電気通信事業者が取り扱う位置情報について、利用者の同意又は違法性阻却事由がない限り第三者提供ができない旨等が規定されている。これは、基地局に係る位置情報については、個々の通信に関係する場合は、通信の構成要素であるから通信の秘密として保護されること、位置登録情報(kaneko注:基地局情報のこと)については、「ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高い上に、通信とも密接に関係する事項であるから、通信の秘密に準じて強く保護することが適当」であること、また、GPS位置情報については、「基地局に係る位置情報と比べ、より詳細に所在地を示す位置情報であるところ、その場所に所在することそれ自体によって、個人の趣味嗜好、さらには思想信条まで容易に推測できる場合がある。また、一定期間追跡すれば、個人の行動状況まで詳細に把握することも可能となる」ことから、「基地局に係る位置情報と比べ、高いプライバシー性を有する」ことによる。

位置情報プライバシーレポート 26ページ

としてうえで、利活用のための同意取得については、①個別同意、②包括同意、③同意不要の3つのパターンに分けて以下のように説明されています。

 

①個別かつ明確な同意の原則
このように、位置情報はその高いプライバシー性から、これまでの整理においても、他の個人情報やプライバシーより高い保護を求められてきており、これを踏まえた取扱いが必要である。
まず、電気通信事業者は、原則として、その提供するサービスごとに、位置情報の取得・利用・第三者提供について、利用者から同意を取得することが適当であると考えられる。
利用者の同意があったと言えるためには、利用者が位置情報の取扱いについて同意しているということを最低限理解できる状況であることが必要である。他方で、契約約款等は、利用者側に交渉の余地がなく、読まれない可能性がある点で、同意取得としての実質が弱いと考えられ、単に契約約款等に記述をしたとしても、利用者が位置情報の取扱いについて合理的に予測できない状況では、同意が有効と評価できない場合がある
位置情報の高いプライバシー性も踏まえれば、電気通信事業者においては、位置情報の取得・利用・第三者提供について個別かつ明確に利用者の同意を得ることが必要である。
同意の取得は、当該サービスにおいて、位置情報を最初に取得する前に行うべきである。また、取得した位置情報について、その取扱いを変更する場合など、当初同意を得た範囲外で利用、第三者提供する場合には、改めて、その利用、第三者提供の前に同意取得することが必要である。


②例外としての包括的な同意
①のとおり、位置情報の高いプライバシー性も踏まえれば、原則として、位置情報の取扱いについては個別かつ明確に同意を取得することが必要であると考えられるが、例外として、利用者が、そのコンテキストから位置情報を取得・利用されることが予測できる場合には、契約約款等で記述することで包括的に同意を取得することも許容されうると考えられる。これは、例えば位置情報を利用することが明らかなサービス(地図ナビゲーションサービス等)について、そのサービスに必要な範囲内で取得・利用するような場合である。

ただし、コンテキストから予測できる取得・利用の範囲は、限定的に捉えるべきであり、例えば、地図ナビゲーションサービスであれば、取得した位置情報を地図上に位置を表示する機能以外で利用することは、コンテキストの範囲外というべきである。
また、包括的な同意が許容されうる場合であっても、個別かつ明確な同意を取得することは望ましい取組みである。


③通信を成立させるために必要不可欠な位置情報の取得・利用
通信を成立させるために必要不可欠な位置情報を取得し、通信のために利用することは、利用者の同意を取得しなくても許容されると考えられる。

位置情報プライバシーレポート 27ページ、28ページ

 

また、本人同意を取得するにあたり、本人への説明として明示すべき内容としては、以下の項目が列挙されています。

  1. 取得者(位置情報の利用者)
  2. 位置情報の種類(基地局情報、GPS位置情報、Wi-Fi位置情報等)
  3. 精度、取得頻度、追跡期間
  4. 利用目的
  5. 三者提供の有無及びその提供先
  6. 保存期間
  7. 位置情報に紐付けて利用される他の利用者情報
  8. 利用者関与の仕組み 等

各項目の詳細は28ページ以降をご確認いただければと思います。

なお、本人への説明にあたり、以下のような概要版を記載した上で別途詳細版へ誘導する等の対応が推奨されています。

f:id:kanegoonta:20190331235210p:plain

※30ページの図表を引用

 

 

5.データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A

中崎隆・安藤広人・板倉陽一郎・永井徳人・吉峯耕平編「データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A」では、以下のように記載されています。

まず、位置情報は、個人のスマートフォンから取得される情報であるため、全て個人情報に該当するのではないかと考えられがちですが、位置情報データ単独では必ずしも個人情報に該当するものではありません。但し、特定端末の位置情報を蓄積する場合や他の情報と組み合わせる場合等、個人を特定することができるようになった場合には、個人情報に該当し、個人情報保護法に従った取り扱いが必要になることも考えられます。

位置情報が個人情報に該当しないとしても、個人の所在や行動履歴が詳細に把握できるため、高いプライバシー性を有するセンシティブなデータにあたり、プライバシーに配慮した取扱いが求められます(なお、通信事業者においては、後述する通信の秘密に該当しない位置情報であっても、個人情報として扱われています。)

具体的には、位置情報の取得に関しては、アプリ内及びウェブサイト上にプライバシーポリシーを掲載すること、位置情報の取得前にユーザーに位置情報を取得することを通知し、その明示的な同意を得ることが挙げられます。また、利用に関しては、利用目的を通知(又は公表)する必要があります。マーケティング目的で第三者に提供する場合等、自社のアプリサービス以外の目的に使用する場合についても、目的の通知・公表、同意の取得が必要です。このように、プライバシー保護のためのに必要な措置は、個人情報の取扱いに準じたものであり、重複する部分も少なくありません。但し、個人情報より広い範囲を対象として、別観点からの対応が求められる点に留意する必要があります。

中崎隆・安藤広人・板倉陽一郎・永井徳人・吉峯耕平編「データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A」136ページ(斎藤綾、永井徳人)

 

 

6.データの法律と契約

福岡真之介・松村英寿「データの法律と契約」 でも位置情報に関して言及されれています。

 

具体的には、前述の匿名加工レポートを引用したうえで、

滞留中の位置情報の重要性を示唆するに当たり、移動経路が個人情報に該当し得ることを前提としているものと見受けられる(なお、前記記載は、連続した移動経路のデータそのものから個人を特定することが可能であることから、個人情報と容易照合性がなくても、それ自体で個人情報であることを前提にしているものと考えられる

福岡真之介・松村英寿「データの法律と契約」 160ページ

としつつも

家電や自動車の稼働状況やドライブレコーダーやヘルスケアデバイス等の移動経路・位置情報については、氏名等と容易照合性がある場合には、個人情報であると解することになるであろう

福岡真之介・松村英寿「データの法律と契約」  160ページ

と書かれており、あくまで氏名等と容易照合性がある場合のみ位置情報は個人情報である(逆をいうと、氏名等を保有していない場合は個人情報ではない)という見解と理解しています。

 

7.【参考】電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン

電気通信事業における個人情報保護の取り扱いを定めた「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」では、位置情報について独自の規定を置いています。

 

(位置情報)
第三十五条

電気通信事業者は、あらかじめ利用者の同意を得ている場合電気通信役務の提供に係る正当業務行為その他の違法性阻却事由がある場合に限り、位置情報(移動体端末を所持する者の位置を示す情報であって、発信者情報でないものをいう。以下同じ。)を取得することができる。


2 電気通信事業者は、あらかじめ利用者の同意を得ている場合、裁判官の発付した令状に従う場合その他の違法性阻却事由がある場合に限り、位置情報について、他人への提供その他の利用をすることができる。

 

3 電気通信事業者が、位置情報を加入者若しくはその指示する者に通知するサービスを提供し、又は第三者に提供させる場合には、利用者の権利が不当に侵害されることを防止するため必要な措置を講ずることが適切である。

また、 このガイドライン解説では、それぞれの条項について以下のように解説されています。

第35条第1項の解説では、位置情報の取得時の同意の必要性について以下のように説明されいます。

電気通信事業者保有する位置情報は、個々の通信に関係する場合は通信の構成要素であるから、通信の秘密として保護され、あらかじめ利用者(移動体端末の所持者)の同意を得ている場合又は電気通信役務の提供に係る正当業務行為その他の違法性阻却事由に該当する場合以外に取得することは許されない。

・・・(中略)・・・

これに対し、個々の通信時以外に移動体端末の所持者がエリアを移動するごとに基地局に送られる位置登録情報は個々の通信を成立させる前提として電気通信事業者機械的に送られる情報に過ぎないことから、サービス制御局に蓄積されたこれらの情報は通信の秘密ではなく、プライバシーとして保護されるべき事項と考えられる。もっとも、通信の秘密に該当しない位置情報の場合であっても、ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高い上に、通信とも密接に関係する事項であるから、強く保護することが適当である。そのため、通信の秘密に該当しない位置情報の場合においても、利用者の同意がある場合又は電気通信役務の提供に係る正当業務行為その他の違法性阻却事由に該当する場合に限り取得することが強く求められる。

113ページ、114ページ

 

また、第35条第2項の解説では、通信の秘密の観点から同意の必要性について言及した上で、以下の説明がされています。

通信の秘密に該当しない位置情報についても、ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高い上に、通信とも密接に関係する事項であるから、強く保護することが適当である。そのため、他人への提供その他の利用においては、利用者の同意を得る場合又は違法性阻却事由がある場合に限定することが強く求められる。

115ページ

 

そして、第35条第3項の解説では、位置情報サービスを提供する電気通信事業者が対応すべき「必要な措置」の具体的内容として、以下の4つがあげられています。

  1. 利用者の意思に基づいて位置情報の提供を行うこと
  2. 位置情報の提供について利用者の認識・予見可能性を確保すること、
  3. 位置情報について適切な取扱いを行うこと、
  4. 三者と提携の上でサービスを提供する場合は、提携に関する契約に係る約款等の記載により利用者のプライバシー保護に配慮をすること

 

 

8.【参考】携帯キャリアのプラポリ関係資料

位置情報の加工に関する本人への説明資料としては携帯キャリアの説明が参考になります。

 

 KDDI

「十分な匿名化」により加工した位置情報の活用

https://www.kddi.com/corporate/kddi/public/juubunnatokumeika/

「位置情報ビッグデータ」の活用

https://www.kddi.com/corporate/kddi/public/bigdata/

 

ソフトバンク

お客さま情報の利活用にあたってのプライバシー保護の取り組み

https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/privacy/utilization/

統計サービス・推奨型広告について

https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/privacy/utilization/ads/

 

 9.最後に 少しだけ

以前書いたブログではアドテク関連データの個人情報該当性について以下のように記載しました。

たとえ氏名等に到達できないデータを保有していたとしても、長期蓄積性やデータ連結可能性があるのであれば、できるだけ個人情報として扱い、本人同意の取得等の対応を行っていくようにすべきなような気が個人的にはしています。

位置情報に関しても同じようなことが言えるのではないかと個人的には思っています。(むしろ、GPS位置情報だと家や職場が推定できる可能性もあるので文献によっては、個人情報と同等の取り扱いを要求しているように思われるものもあります。)

もちろん、(氏名等の情報と容易照合性がない状態の前提で)位置情報単体は個人情報ではないと判断する見解も十分理解できますが、どこで位置情報が他の情報とくっついて個人識別性が発生するかもわからない以上、少なくとも位置情報をID単位で管理かつ長期蓄積性を有する前提の場合については、個人情報と同様に扱うのが望ましいと個人的には思っています。

 

と、もやもやしていたらこんな記事が↓

個人情報に「利用停止権」検討 保護法改正へ :日本経済新聞

この記事の中で言及されている

個人情報保護委員会は、仮名処理して個人を直接特定できないようにした「仮名情報」の導入を検討する。復元が不能とまではいえないため第三者提供については制限するが、利用ルールは緩和する。

出典:日本経済新聞

というのが具体的にどのような要件になるのか、位置情報やアドテク関連データも該当するのか気になるところです。

 

10.追記

大変興味深い見解や情報を多数いただいたので(勝手に)紹介していきます。※適宜追加していきます。

 

まずは、はっしーさんから興味深い見解と記事の共有が

日本語記事 

「あなた」は特定可能:崩壊する個人プライヴァシー|WIRED.jp

英文原文

Unique in the Crowd: The privacy bounds of human mobility | Scientific Reports

日本との人口密集度の違いはあれど、「4点の位置情報で95%の個人が特定可能」という趣旨の内容のようです。

これほんとすごい。まさに求めていた情報です。英語原文を読まなきゃ!

 

そして内田先生。

 

続いて角田先生。

 

吉峯先生。

 

最後に高木先生。

 

 

【書評】著作権判例百選 第6版~著作権クラスタオールスター~

 

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著作権判例百選 第6版 (別冊ジュリスト 242)

著作権判例百選 第6版 (別冊ジュリスト 242)

 

 

 

 大学やロースクールで法律を学ぶ者であれば一度は手に取ったことがあるであろう判例百選シリーズの著作権法です。第5版から約2年という短いスパンでの改定になります。

 

 はしがきに「全体の構成、裁判例の選択、執筆者の選択を一新することとした」と書かれているとおり、第5版からかなりのリニューアルがされています。(なぜそうなったかは言うまでもないでしょう。)

 

【目次】

 

 

1.執筆者が(やっぱり)豪華

 (今までもそうですが)著作権法の専門家(学者・実務家)が勢ぞろいです。まさに著作権クラスタオールスターです。

 とはいえ執筆者も第5版からかなり入れ替わっており、いい具合に世代交代も見られます。(例えば、中川隆太郎先生、小坂準記先生、伊藤雅浩先生、中崎尚先生が新たに執筆者に加わっています。)

 

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↑目次だけみても豪華やで 

 

 

2.裁判例も最新のものをしっかりフォロー

 お馴染みの判決だけでなく、ステラマッカートニー青山事件(平成29年4月27日判決)やツイッター事件控訴審(平成30年4月25日判決)も収録されており、最新の裁判例をしっかりフォローしてくれています。

 

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本書124ページ

↑ 中崎尚先生によるツイッター事件控訴審

 

 

3.著作権判例百選事件はなんと...

 誰もが気になっているのでは「著作権判例百選に著作権判例百選事件が載るのか」「載るとして誰が担当するのか」でしょう。

 

さて。。。あるかな?

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お、

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おおー!!

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 そして担当は金子敏哉先生じゃないですか!

 (金子敏哉先生といえば、かの高名な法学教室でパロディー全開の記事を掲載してkanekoの中ではもはや伝説になっています。詳細は法学教室2018年2月号32頁以降を参照されたい。なお、kanekoとは一切血縁関係はございません。念のため。)

 

 

4.最後に

  まだ私も全部読めていませんが、引き続き著作権法を学ぶ人の必需書となると思います。

 

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歴代の判例百選を並べてみた。 大学時代に購入した第4版はもうボロボロ。。。

【書評】データの法律と契約~経産省データ契約ガイドラインを上手く補足してくれる一冊~

データの法律と契約

データの法律と契約

 

 

 著者は西村あさひの福岡真之介先生と松村英寿先生。福岡先生といえば、「AIの法律と論点」「IoT・AIの法律と戦略」といった書籍にかかわっており、この分野の第一人者の一人だと思います。(「IoT・AIの法律と戦略」は3/18に第2版がでるようです。)

 また、著者の福岡先生は経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会」(以下、契約ガイドライン)の構成員もされていますね。(福岡先生自身はAI側の検討班とのこと。)実務で契約ガイドラインの雛形を利用されている方も多いのではないでしょうか。

 

 

1.データに関する法体系書

 はしがきに『本書は、ビッグデータに関する法律について解説したものである。筆者が知る限り、ビッグデータの法律問題に関して体系的に整理した書籍は本書が初めてではないかと思う。』と書かれている通り、ビッグデータに関わる法律問題について詳細に解説されています。

 「データ」とはなんぞや?という話から契約法、知財法、個人情報保護法独禁法といった法律にまでしっかり解説されています。

 ちなみに、本書のうち、契約法が約30ページ、知財法が約70ページ、個人情報保護法が約130ページ、独占禁止法が約40ページ程です。やはり実務的に問題になりやすい個人情報保護法に本書の大部分を割いているのは特徴的だと思います。

 契約ガイドラインでもこの辺りに記載はあるものの、簡易的な記載に留まっているため、個人的に「足りないな」と感じていたところをしっかりカバーしてくれている印象です。

 

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本書10、11ページ

↑「データとは?」「データって何で価値があるの?」みたいな項目も。データの概念的なところから解説されています。

 

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本書36、37ページ

↑データに関わる法律。ちなみにここに限らず、図面や一覧表が要所要所に記載されており、イメージがつきやすいような工夫がされています。(とはいえ、まったく一般人向けではありません。笑。法務や弁護士向けですね。)

 

2.体系書ではあるが、しっかりビジネス取引を想定しつつ突っ込んでく

 法津の体系書なのですが、(当たり前かもしれませんが、)しっかりビジネスを想定した言及がされています。

 例えば、パーソナルデータの箇所では、

データを用いたビジネスの事業者の視点からは、集める情報はなるべく多い方が良いと考えがちである。確かに一見無関係のように見えるデータであっても、その中から新たな関係を見つけてビジネスに役立てることがビッグデータの発想であり、データは多ければ多いほど良い。また、データ分析を行うAIの能力を上げるためには、教師となるデータは多ければ多いほどよい。そのため、知らず知らずのうちに、多くの情報を集めようとする結果、個人のプライバシーを侵害する方向での設計になってしまう危険性がある。

  プライバシー侵害が懸念されるようなビジネススキームは、社会的に批判されることになりかねない。プライバシーを侵害するビジネススキームで事業を行なっていたところ、ある日突然ネットで炎上して、作り上げてきたビジネススキームが崩壊するようなことも、現実に起こっている。プライバシー侵害が懸念されるようなビジネスやサービスは、社会的批判を受けるだけでなく、多くの人が敬遠して利用しなくなるため、ビジネス的に失敗するおそれが高い。プライバシー保護とデータビジネスは必ずしも相反するものではなく、プライバシーに配慮することが、結果として、ビジネスの発展にもつながる。

149、150ページ

とプライバシーへの配慮の必要性についてもしっかり言及してくれています。

 個人的に実務をやっていて「個人情報保護法的にOKでもプライバシー的にNGっていうのがあって、明確に線引きはされていないけど、その境界線ををちゃんと見極めないといつか炎上する」と思っていたりするので、上記は「うんうん」と頷きながら読んでいたり。

(上記引用箇所を読みながら炎上したたくさんの事例が頭の中で思い浮かんだらあなたは立派な個人情報クラスタだと思います。)

 

 また、個人情報の定義の説明箇所では、個人に「関する」の範囲について

家電や自動車の稼働状況やドレイブレコーダーやヘルスケアデバイス等の移動経路・位置情報については、氏名等と容易照合性がある場合には、個人情報であると解することになろうが、このような解釈は広すぎるとの批判もあるところである。例えば、企業が氏名と照合できるデータベースを持っている状況で、自動車のエンジン回転数・ブレーキ作動状況や冷蔵庫の温度データのみを外部に提供することについて、個人情報の第三者提供に当たり、本人同意が原則として必要ということになるのは、一般的な感覚と乖離があるようにも思われる。データベースとの連携を断ち切ることによって容易照合性をなくすという方向性もあるが、この「関する」を制限的に解釈することによって、これらのデータは個人に「関しない」と整理することで、個人データではないとする考え方もあり得る。

160ページ

 と少々突っ込んだ?解釈を示したり、個人情報の委託スキームの限界の解釈に記載されていたり、興味深い点がたくさんです。

 

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本書214、215ページ

↑実務的に「どこまで委託スキームで解釈できるのか」を考える上で参考になると思った箇所です。このページの内容については、ちょっとまだkanekoもうまく咀嚼できていない部分です。委託して委託し返すスキームとか。

 

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本書338、339ページ
↑データ利用契約時に検討すべきポイント。契約レビューやドラフト時に手元にあると抜け漏れているポイントがないかを確認できます。もちろん巻末にモデル条項もついています。契約ガイドラインと比較しながら読むと面白いと思います。

 

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本書392、393ページ

↑物理的なデータの流れと法律的なデータの流れが異なる点にもしっかり言及してあります。特に当事者が多数になる場合も想定して書かれていますので、参考になります。ちなみに、この手の解釈って結構法務の感覚では当たり前ですけど、現場担当者はすごく混乱しますよね。苦笑

 

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本書400、401ページ

↑データのジョイントベンシャーなんて項目も。データ関連ビジネスをしている会社だとこのような相談もあると思うので、すごい参考になると思います。

 

3.改正法にも対応

改正不正競争防止法(限定提供データ)やH30年改正著作権法にも図解を用いながらしっかり言及されています。

 

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本書88、89ページ

↑限定提供データの解説。ここでも図を用いて理解しやすいように工夫されています。先日公表された「限定提供データに関する指針」も案の段階ですが、ちゃんと踏まえて記載されています。

 

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本書130、131ページ

↑H30年改正著作権法の解説。図解で現行法との比較がされています。いやぁ著作権法って複雑だなぁ(遠い目

ちなみに、「データについて著作物性を認める余地があるのか」という点については思ったよりも深く考察(パターンごとに考察)されていて勉強になりました。

 

4.結論

自分用に1冊買いましたが、会社用にもう一冊買うことになりました。