私的ダウンロード違法化拡大のパブコメ結果がでてた。
文化庁の「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ(2018年12月)」に対するパブコメ結果が公表されていたようです。
↓
「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ(2018年12月)」に関する意見募集の結果について
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h30_08/pdf/r1413427_01.pdf
「ぶっちゃけ意味ないんじゃね?」という気がしないでもないですが、「何もしないよりはマシ」と思ってkanekoも初めて提出してみました。
「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」は534件(団体35件,個人499件)の意見があったよう。「音楽・映画を対象とする私的ダウンロード違法化」の際には8720件だったよう*1ですので、それに比べると少ないものの、リーチサイト規制関連が計60件なので突出してはいますね。
パブコメを読むと、各団体の考えがわかって非常に興味深いです。
なお、kanekoが提出したパブコメの内容は以下になります。
※パブコメ提出原文のママ(誤記やわかりにくい表現含めそのままです。)
※あくまでkaneko個人の考えです。
※認識として間違っている点があればご指摘お願いします。
以下の点からダウンロード違法化の見直し(以下、本案件)に反対します。
①ユーザー側の萎縮行為が見込まれるダウンロード違法化の拡大よりも先にやるべきことがあると思われる点(海賊版対策という趣旨なのであれば、プロバイダ責任制限法の改正が優先であろうと思われる点)
本案件は、いわゆる海賊版サイトへのサイトブロッキングの議論から生じた検討事案と理解しております。海賊版サイト自体は現行法及び別途パブコメ事案のリーチサイト規制案が成立されることによって、広く違法化されるものと理解しており、ユーザー側のダウンロード行為まで違法化する必要性はないものと考えます。むしろ、海賊版サイト側が違法であっても、訴訟の手続き的な面も含めてハードルの高いプロバイダ責任制限法を改正し、権利者側にとって利用しやすい制度に変更することのほうが「現実的な海賊版対策になる」ものと考えます。
なお、本案件のまとめ案において、萎縮効果は確たる事例はでてこなかった旨の記載がありましたが、私的領域内において現行法上違法でないものを違法化する以上、程度はあれ一定の萎縮効果は発生するものであり、萎縮効果は発生する前提で法改正の議論を検討すべきと考えます。
②二次創作文化への影響がありえる点(原著作者に許諾のない二次的著作物の私的ダウンロードも違法になり得る点)
本案件のまとめ案を拝見いたしますと、『原作者に無断で二次的著作物である同人誌やイラストを作成した作者が自身でSNS等のWEB上の共有プラットフォームに当該二次的著作物をアップした場合、これをユーザーが私的にダウンロードする行為』も一定条件のもと、違法化する可能性があるものと理解しております。
コミックマーケットをはじめとする同人業界においては、二次創作した作者がイベント前にTwitterやpixivといったWEB上に作品の画像を投稿し、告知する習慣があり、購入する側のユーザーは当該画像を日常的にダウンロードしています。また、購入する側のユーザーも「この作品が現作品の著作(権)者に許諾がないこと」を概ね理解しているケースが多くあるものと思われます。
したがって、本案件は上記点から同人業界(いわゆる二次創作)において一定程度の悪影響が発生する可能性のあるものと理解しております。
③海賊版を私的ダウンロードする行為が違法となり、一方で海賊版を私的利用目的で購入する行為は合法となり、整合性があわない部分が拡大する点
本案件のまとめ案によると、海賊版を私的ダウンロードする行為が一定要件のもと違法となり、一方で海賊版を私的利用目的で購入する行為は引き続き合法であると理解しています。ダウンロードは複製行為が発生するという違いはあるものの、形式的にはほぼ同じような行為なのに違法かどうかが変わってくることに違和感を感じております。
上記②の例において言及にした同人業界において、TwitterやpixivといったWEB上に投稿された著作(権)者に許諾がない二次的著作物をユーザー側がそれを知りながらダウンロードする行為は違法になり得るにもかかわらず、コミックマーケット等の同人イベントにおいて、同人誌等を私的利用目的で購入すること(さらには、自宅で裁断し、電子書籍化して自炊することも含めて)は違法にならないというのは、整合性が合わないものと思われます。これは音楽や映画の著作物においては、現行法でも生じている問題ではあると認識はしておりますが、この整合性が合わないことが拡大することに対しての説明が本案件のまとめ案において明確に説明されていないように見受けられるため、賛成できるものではないと感じております。
ちなみに、現在改正案は自民党の文部科学会で審議になったようです。
現在、法案は文化庁・文化庁審議会での反対意見を無視する形で、自民党の文部科学部会での審議に入ったと聞く。もう本当に時間がない。海賊版対策として検討された法案だったが、その実効性に対する検討分析もないまま、私たちの文化や産業を細らせてしまう規制がこのままでは本当にできてしまう。
— 水野 祐 Tasuku Mizuno 🙊 (@TasukuMizuno) February 16, 2019
水野先生いわく、もう時間がないよう。
ちょっと修正。法案の方向性が決まるのがあと10日くらいということです。具体的な法案になるのはその後ですが、その段階ではもう既定路線を覆すことはほぼ不可能になる。
— 水野 祐 Tasuku Mizuno 🙊 (@TasukuMizuno) February 16, 2019
今が声をあげる最後のチャンスかと。
*1:山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」(2011、人文書院)、145頁
【書評】「広告の著作権」実用ハンドブック~カオスな広告周りの著作権をわかりやすく解説~
こんな時、どうする?「広告の著作権」実用ハンドブック (ユニ知的所有権ブックス)
- 作者: 志村潔,北村行夫
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2018/10/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
広告の著作権(等の知財法)に特化した書籍です。第2版をようやく読了。
広く広告関係者向けのハンドブックとして、広告に関連する知的財産管理のポイントと、いざという際の実務上の対処方法が簡潔に理解できるようなものを発行しよう。これが本書の刊行趣旨であった。
3ページ
と書かれているとおり、法務以外の現場担当者もスコープに入るように書かれています。「カオス」としかいえない広告の著作権をわかりやすく記載されていると思います。
広告の著作権については書かれた書籍は、現在であれば、電通法務マネジメント局編「広告法」がありますが、
は大きく異なる部分かと思います。
本書の目次
Ⅰ.広告は知的財産権のスクランブル交差点
Ⅱ.広告実務から見た知財権
Ⅲ.広告素材ごとの権利
Ⅳ.広告自体に働く権利
Ⅴ.広告の著作者と著作権者
Ⅵ.特に注意すべき広告素材達
Ⅶ.シンボル開発とパロディ
Ⅷ.使いたい素材への対応等
Ⅸ.広告の契約と契約書
Ⅹ.本格的ネット時代の広告と著作権
ⅩⅠ.こんな時、どう考えどう対応する?Q&A
本書の特徴
ずばり、「わかりやすさ」でしょうか。
裁判になった事件のイラストが多数引用されていたり、記載内容も広告実務に即した具体例が多い点は評価できると思います。もちろん、「うーん...」と思う箇所が個人的にないわけではありませんが*1、現場担当者向けという点を踏まえれば十分かと思います。
※なお、改正著作権法(柔軟な権利制限規定等)には対応していません。TPP発行に伴う改正については少し言及があります。
・広告の著作権の構造の説明
50、51ページ
広告の著作権を「2段構造」として分けて解説されています。ちなみに、他のページではストックフォト利用時の注意点とかも書かれていたり。
・裁判例の解説
102、103ページ
裁判例の紹介は簡潔にまとめられており、図も多く使われています。わかりやすさを重視しているため、裁判例の事件番号はかかれていないですし、脚注もありません。(個人的には、参考文献くらいは巻末にいれておいてほしいなぁと思ったり)
・素材を使って広告制作をする場合のフローチャート
158、159ページ
「とあるコンテンツを利用して広告を使いたいときに、権利関係をどうかんがえたらいいのか」をフローチャートに沿って解決できるようになっています。もちろん、これだけでは不十分な面もなきにしもあらずですが、権利関係のハードルの温度感は理解できます。
・簡易的な契約書の雛形と説明
192、193ページ
契約書の雛形もあります。結構契約書を締結しない雰囲気のある業界でもあるので、簡易的なものでもいいので契約書は結んでおけ、ということですね。
個人的には、本書を読んだ後に「広告法」を読むことをオススメしたいですね。
2018年の振り返りと2019年の抱負
sunrise,©Janice Waltzer,CC BY-SA 2.0
あけましておめでとうございます。
皆様、昨年は大変お世話になりました。
さくっと2018年の振り返りと2019年の抱負をしていきます。
2018年の振り返り
・仕事
法務4年目になってかなり仕事の幅は広がってきた気がします。(相変わらず下っ端ですが。苦笑)意図せずデジタルマーケティング領域にぶっこまれたので、アドテクと法という面で事業部と顔を合わせて一緒に日々悩みながら進めていくという貴重な経験ができました。
イメージとしては
「法務」×「知財」
だったのが
「法務」×「知財」×「アドテク」×「プライバシー(少しセキュリティ含む)」
になりました。
とはいえ、
・仕事のタイムマネジメント力が低い(仕事が遅いだけですが)
・英文契約書のスキルが皆無(というか私の英語力、低すぎ…)
・ITやセキュリティの知識がまだまだ足りない(企画側や開発側と話ができない)
このあたりは課題だなぁと思うところです。
・プライベート?
去年のブログでは、こんな目標でした。
- ブログ更新:月2回以上
- 読書:月3冊以上
- 英語:一日1時間程度
- プログラム:一日1時間程度
- テニス:試合にでて勝つ
どれもできてないよwwww
とりあえず、大学院を卒業して、情報インプットとアプトプットの質と量が落ちたという認識なのでとりあえず、ここは上げたいですね。
2019年の抱負
知ってますか?もう平成生まれのゆとり第一世代(円周率は3で習った)も30歳に突入し始めるんですよ?もう若くないし、二郎とかキツイんですよ。(そこじゃない
今年のアドベントカレンダーでもキャリア論が盛り上がりましたが、その辺も考えながら1年過ごしたいと思っています。
・仕事?
業務効率化に重点を置いていこうと思います。
今考えている業務効率化だと
・定型契約審査の外注、一部現場側でのレビュー、一部約款化
・契約締結の電子化(クラウドサイン等)
・契約書DBとCRMの連携
・法律相談の自動化
・個人情報マネジメントシステムの自動化
あとは効率化じゃないけど法務からの情報発信(法務って受身の対応が多いから)
・プライベート?
iPadも買ったし、裁断機もスキャナーも買ってあるので自炊もできるし、このあたりを駆使していきたいですね。
iPad Air
— kaneko (@kanegoonta) November 25, 2018
※訳:本体だけまだ届かない pic.twitter.com/sNl2VHo1MQ
というわけで、今年はあえて数字的目標をおかずに以下でいきます。
・ガンガン積読する(読むとは言ってない)
・法務に限らず、趣味も含めて情報収集して発信していく
・なにか情報系の資格をとる
・英語がんばるお(・ω・)
・体型と髪の毛を維持する
・ヨガ中に寝ない
・テニスの試合にでる
さっそく積ん読
あけおめです。
— kaneko (@kanegoonta) January 1, 2019
今年もガンガン積ん読していきます。
というわけで、年末年始の積ん読。(また読まずに貯まっていく。。。) pic.twitter.com/Jmn3tBP6Xx
2019年もkanekoをよろしくお願いします!
「法務系アドベントカレンダー2018」を終えて LegalAC
25日間にわたるアドベントカレンダーも無事に終わり、ほっとしている幹事です。
幹事としてたいしたことはしておりませんが、エントリーいただいた皆様、各エントリーを読んでいただいた皆様本当にありがとうございました!!
皆様の エントリーやコメント、非常に勉強になりました。キャリア論(法務ポエム?)に始まり、法務TIPS系(Github、書籍紹介、Legaltech)やプロジェクトマネジメント論(法務組織論)、勉強(会)との両立、ガチ法律解説など、幅広い話題で盛り上がりました。
まもなく年末年始休暇に入る方が多くいるかと思いますが、今年のエントリーだけでなく、過去のアドベントカレンダーも振り返りつつ年末年始の酒の肴にしてはいかがでしょうか。
- 法務系Tips Advent Calendar 2013 - Adventar
- 法務系 Advent Calendar 2014 - Adventar
- 法務系 Advent Calendar 2015 - Adventar
- 法務系 Advent Calendar 2016 - Adventar
- 法務系 Advent Calendar 2017 - Adventar
さて、来年の幹事は誰になるんでしょうね?(遠い目
それでは、皆様よいお年を!!!!!!
※あ、どこからともなく、打ち上げLegalAC打ち上げ(オフ会)の要望(黙示的な要求を含むがこれに限らない)が来ておりますが、誰か手伝って頂ける方募集です(泣)
「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」を読みながら「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化の拡大」を少し考えてみる
「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化の拡大」に関しては、パブコメでたらしっかり読んだ上でちょっと私見を呟こうと思います。
— kaneko (@kanegoonta) December 7, 2018
とつぶやいたので少しだけブログに書いてみた。
現在、音楽や映画等の動画コンテンツに限定されている「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化」の対象が書籍・写真・論文・プログラム等まで含まるように改正されようとしているようです。
この話を同僚としていた際に「あれ、そもそも違法じゃなかったの?なんで現状動画だけアウトなの?」と言われたので改めて以下の書籍を読み返してみました。
- 山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」(2011、人文書院)(以下、本書1)
- 山田奨治「日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか」(2016、人文書院)(以下、本書2)
「違法コンテンツ(静止画)の私的ダウンロード違法化」が検討されている今、改めて読み返してる。 pic.twitter.com/3DkKnPpqig
— kaneko (@kanegoonta) November 11, 2018
この2冊の書籍は、日本の著作権法の改正過程を考察し、批判的に記載された書籍です。
特に「違法コンテンツの私的ダウンロード違法化」および「ダウンロード行為の刑事罰化」に関して詳細に記載されています。
なお、本書1のあとがきに以下の記載があるとおり、著者の立場は理解した上で読む必要があります。
わたしは、著作権を厳しくし過ぎることには反対の立場なので、文章の端々にそれが出ているだろう。著作権擁護派のひとが読んだら、きっと激しい反感をもたれる部分もあるに違いない。
本書1 201ページ
1.この2冊の書籍を読むとわかること
- 「私的録音録画補償金制度の抜本的な見直し」が議論ベースなため、私的ダウンロード違法化の対象となる違法コンテンツも「録音録画(動画や映画)」に限定されたこと
音楽と映画の業界団体の要望がベースにあり、動画や映画に限定されたようです。
- 海賊版による被害額の統計情報に関する数字の信憑性には疑問がある点が指摘されていること
本書1では、文化庁が権利者団体の資料から引用した「2004年の1年間にファイル交換ソフトでダウンロードされた違法音楽ファイル数:1億900万」
本書2では、「違法ダウンロードの被害額:6683億円」
についてそれぞれ数字の根拠に疑問がある点が指摘されています。
これは非常に興味深い内容になっています。
本書1において、違法ダウンロードの刑事罰適用について、以下のような記載があり、刑事罰化しない前提で違法化したことがわかります。
この「情を知って」の限定がかかっていることに加えて、中山は刑罰についても事務局案の確認を求めた。著作物流通推進室長の川瀬は、個人のためのコピーならば違法でも罰則は適用しないのが現行法の趣旨だと答えた。「情を知って」のコピーであることっと罰則は設けないこと、このふたつを条件としてダウンロードを違法化する案に合意するよう中山はうながし、津田もそれ以上の異論は出さなかった。
本書1 137~138ページ
にもかかわらず、違法化から2年後には刑事罰化したことがわかります。(詳細は本書2を参照)
- 従来から、私的ダウンロード違法化の対象となる違法コンテンツの「録音録画(動画や映画)」から全著作物への拡大は米国から要求はされているし検討もしていること
「録音録画(音楽や映画)」以外への適用に関しては 実は今に始まったことではないことがわかります。
2.静止画に拡大されることについて
さて、今回の ダウンロード違法化の拡大に関しては、やはり賛否両論のようです。
【賛成派の意見】
- ダウンロード違法化への意見、及び出版界の海賊版対策について(日本書籍出版協会提出資料)
- ダウンロード型海賊版サイトへの対応状況(日本雑誌協会提出資料)
-
静止画ダウンロードの違法化を推進する理由、講談社の見解 | 日経 xTECH(クロステック)←有料記事なのでkanekoは未読
【反対派の意見】
- 海賊版サイトブロッキングが去って、静止画ダウンロード違法化がやって来る? | YamadaShoji.net
- 文化庁文化審議会法制・基本問題小委員会で静止画ダウンロード規制に関して意見を述べました - MIAU
- ダウンロードの違法、犯罪化対象の拡大は権利保護に逆行
- 静止画や小説等ダウンロードの違法化/処罰化に強く反対する
その他の賛否については、まとめ案の57ページ以降に記載があります。
3.最後に個人的にもやもやしている点を吐き出してみる
個人的には強く反対はしないもものの、いくつか違和感を感じています。
- 著作権法が個人の範囲内にまで乱入してくる違和感
まとめ案の59ページに以下の記載があります。
違法にアップロードされた著作物から私的使用目的で便益を享受しようとするユーザーの行為には,個別的には許容され得るものはあるかも知れないが広く一般的に許容されるべき正当性はない,ということを前提に考えるべきである。
まったく ロジカルに説明できないのですが、個人的にはそもそも著作権法が個人(家庭)の範囲内にまで及んでくることにすごく違和感を感じています。(これは、音楽や映画の私的ダウンロードが違法化された時から感じている違和感です。)
まとめ案にある、『「違法にアップロードされた著作物であってもユーザーにはそこから私的使用目的で便益を享受する自由が一定程度存在し,それを尊重する必要がある」(ユーザーの自由が原則)』*1という立場ほどの考えではないのですが、「そこまでする必要あるの?」と感じてします。
もちろん、今回の改正検討の趣旨も理解できますし、要件に一定程度の限定を入れており、誤解を生まぬようにわざわざパブコメのまとめ案に留意事項を付しているように委員会(文化庁)として国民に対する配慮も見て取れます。
ただ、「抑止効果のため」だけにこのような広範囲の違法化を行うことには依然として違和感を感じます。
- 違法コンテンツの私的ダウンロード違法化を拡大することで、出版業界等のコンテンツホルダー側は本当に回復するのかという素朴な疑問
ここについては、別途統計データ等をひっぱってきて検討してみたいと思っているのですが、「音楽の私的ダウンロードを違法化&刑事罰化してCD売上や音楽配信売上は伸びたんだっけ?出版でも同じことがいえるんじゃないの?海賊版を規制することでどれくらい出版業界等のコンテンツホルダーの売上が回復するのかな?」という素朴な疑問を持っていたりします。
- 条文の内容によっては、二次創作物の私的ダウンロードも違法になるんじゃね?という懸念
現行法は以下のようになっていますが、
第三十条(私的使用のための複製)
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(中略)
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
(どのような条文になるのかによって大きく変わってきますが、)
もし対象を「デジタル方式の録音又は録画」から「デジタル方式の複製」とかになった場合、二次創作への影響も少なからずあるように思われます。
というのも「著作権を侵害する 」というのは翻案権侵害も含むと思われますので、『原作者に無断で二次的著作物である同人誌やイラストを作成した作者が自身でSNSに当該二次的著作物をアップした場合、これをフォロワーが私的にダウンロードする行為』も厳密には違法になるのではないかと懸念します。
まぁ、考えすぎなのかなと思ったりしますが。
- 「ダウンロード」は違法で「購入」は違法ではないという違和感
私的利用目的での違法著作物のダウンロードが違法になる一方で、海賊版(違法著作物)書籍等を私的利用目的で購入する行為は引き続き合法になると理解しています。ダウンロードは複製行為が発生するという違いはあるものの、形式的にはほぼ同じような行為なのに違法かどうかが変わってくることに違和感を感じます。
この点は、島並先生が連続ツイートされています。
著作権に含まれる各種の支分権の多くは、提示型(上演、上映等)・提供型(譲渡、貸与等)のいずれも、著作物を他者に伝える行為を規制している。つまり、著作物を他者から受け取り、それを楽しむ行為は広く適法とされており、その点は、たとえば海賊版書籍の購入や読書でも同様だった。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
支分権のうち唯一、複製権だけが著作物を他者へ伝える行為以外を規制する。ただし、複製により複製物の数が複製者の手元で増えるだけでは著作権者に損害はないはずであり、それが規制されるのは、あくまで事後の複製物拡散への準備行為が理由。(以上、20年近く前に書いたことの要約)
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
本題に戻ると、ダウンロード自体は、そもそも著作物を他者から受け取る行為に過ぎない。違法にアップロードされた著作物をDLするのと、海賊版書籍を路上で購入するのとは、形式的な「複製」の有無以外に、実質的な差はない。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
複製物が増えるとそれだけ事後的な拡散による損害発生(正規版の売上減少)の危険は高まるが、著作権法はその危険が「私的」領域に留まる限り複製行為を規制せず、そこから公的領域へ拡散させる目的があって初めて規制対象としてきた。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
現行法上すでに私的使用目的でないダウンロードは違法であり、さらにダウンロードしたファイルを公衆送信することも違法なので、それを越えて著作物を受け取る行為を(違法アップロード著作物&故意限定とはいえ)規制するのは、むしろそちらの方に強い正当化理由が必要ではないか。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
なお、違法アップロードされた著作物を「受け取る権利(ないし自由)」はネットユーザーにはないと思われるので、接続遮断を適法化する立法は可能だろう(その技術的有効性は別論)。先程来の私見は、あくまでダウンロード違法化、つまり複製により「受け取らない義務」の拡大に反対するもの。
— Shimanami Ryo (@shimanamiryo) December 17, 2018
なお、 パブコメの締め切りは1/6まで。
法務にtwitterをおすすめする3つくらいの理由 #legalAC
これは法務系 Advent Calendar 2018のエントリーになります。
なぜか今年のとりまとめをすることになったkanekoです。
初っ端のエントリーですね。ハードルがっつり下げていきたいと思います。
さて、気づいたらtwitter歴8年目になるのですが、なぜか最近周りの人から「twitterって何がいいの?」とよく聞かれます。(一応IT系でありながら、うちの法務ってtwitterしてる人ほとんどいないんですよね。昨日「クソ物件オブザイヤー」とか言ってもまったく通じませんでした。)
ということでそういった人向けに「法務がtwitterするメリット」を思いつく範囲で書いてみようと思いました。*1
本当は「個人データの第三者提供時のトレーサビリティ義務ってちゃんとみんなやってんの?」というエントリーを書き上げたのですが、あまりにニッチすぎると思ってやめました。。。
1.情報収集、情報共有しやすい
個人的にはこれが一番のメリットだと思っています。
kanekoの情報収集の99%はtwitter経由です。間違いない。
・その道の専門家のコメント
・最新の法律関連のニュース(法改正情報や事件を含む)
・業務効率化ツールの紹介
・おススメ書籍の書評
とかが無料かつタイムリーに把握できます。
このAdvent CalendarもTwitterベースで拡散して始めているのでその一つだと思います。
kanekoの場合は、twitter経由で収集した最新情報を部内で共有していたりします。
なお、twitterは情報量が多く取捨選択していく必要があるので、kanekoはフォローとは別に情報収集用リストを作成していたりします。他のツイッタラーの方はどのようにされているのでしょうかね。
また、自分で情報を発信すれば、反応がすぐに返ってくるのもtwitterのいいところだと思います。*2
やり方を工夫すればインプットだけでなく、アウトプットにも向いていると思います。
ちなみにtwitterをしていると「この人スゲー」っていう人だけでなく、「この人いつ仕事しているんだろう」とか「この人いつ寝ているんだろう」という人が大量に出てきておもしろいですよね。
2.同業種の人とつながることができる
ただフォローして見ているだけでもよし、
オフ会に行って実際に会ってみるもよし、
実名でもよし、匿名のままでもよし
自分の希望する距離感でつながれるのがいいところだと思います。
※もちろん場合によっては粘着されたり、炎上したり(以下自重
特に法務の人はあまり外にでて積極的に交流していく人が少ない傾向にある(某氏談)ように思われるのでこういった交流できる場は意外と重要な気がします。
※ところでオフ会といえば、法務LTって最近ないですね。(特定の方面を眺める)
3.仕事にもつながるかも
twitterのつながりでお仕事を依頼したり、依頼されたりするケースもよく発生します。
依頼したケースではクオリティの高い対応を頂くケースしかなく、Twitterやっててよかったなぁと思ったりします。
(その一方で依頼されるケースではご依頼に添える対応ができていなくて心苦しい部分もあったりしますが)
あとTwitter経由で転職した人も最近よく聞くようになりましたね。すごい時代だ。
最後に:個人的にフォローするといいかもなアカウント
よく「誰をフォローするといいのか」も聞かれるのですが、とりあえずはっしーさんのブログを3連単で爆撃させてます。
企業法務マンサバイバル : Twitterでフォローすべき20人の偉大なビジネス法務系スター
企業法務マンサバイバル : Twitterでフォローすべき20人の華麗なる法務職人
企業法務マンサバイバル : ビジネス法務の話題を効率良くインプットしたい方にお勧めなtwitterアカウント20選
でも爆撃だけだとエントリー的には物足りないので
これ以外で(kanekoの個人的な独断と偏見で選んだ)フォローするといいかもなアカウント20選をお送りします。
※kanekoの個人的興味の関係上、知財と個人情報関係の方が多めです。
※掲載にあたり本人許可とってません。載せられるのを拒否りたい方はあとでコッソリ消しますので教えてください。
アカウント名 | ひとこと紹介 |
babel0101 | おなじみ「憲法ガール」シリーズ著者。 |
conductor_hvk | 特許分析のプロ。大学院時代にお世話になりました。 |
kengolaw | Link Taxのエントリーめっちゃ参考になりました。あと、とても風を感じます。 |
Toshimitsu_Dan | かの有名なWinny事件で弁護団事務局長を務められていた先生。 |
naoki_kurokawa_ | 法務に限らず気になるニュースをツイート。ラフランスおいしそう。 |
kaz_miyashita | 「逆引き」シリーズ著者。セミナー動画を公開されていて毎回更新が楽しみ。 |
NoroYuto | プライバシー関連のツイート参考になります。 |
wakateben | プライバシー関連が多いですが、自戒を込めた呟きに共感します。 |
gvashunyamamoto | おなじみAI-CONの人。僕も丸は巨人に行くべきではなかったと思います。 |
kenta_holmes | おなじみHolmesの人。 |
d_ta2bana | おなじみクラウドサインの人。 |
lawyer_alpaca | ファイナンス関係の呟きいつも参考になります。 |
tetsuyaoi2tmi | 「アドテク×法」といったら個人的にこの方。 |
kakurezat | こぶたパパさんと同じくツイートが増えると季節を感じます。 |
実は育児ブログが楽しみ(そこじゃない | |
keibunibu | 鋭い考察いつも参考にさせていただいております。 |
Junki_Kosaka | 現在鍵アカなのですが、欧州の法律関連のツイートとても参考になりました。 |
NakagawaRyutaro | 日本国内だけでなく、欧州系の知財判例を速報ツイート。 |
kaz_tan | リツイート事件の判例評釈は必読。 |
OKMRKJ | 著作権がご専門ですが、企業法務関連でもツイート多し。 |
ipfbiz | 弁理士×公認会計士という珍しい?先生。IPFbiz更新されないかな。 |
fr_toen | 著作権関連の欧米の判例がでると翻訳してブログにアップしてくれます。いったい何者なのでしょうか。。。 |
Fhijino | 商標×ブランディングについてアツくツイートしてくれています。 |
benrishikoza | 「独学の弁理士講座」管理人。弁理士受験生におすすめ。 |
hamhambenben | なんだか旅に出たくなります。『日本全国裁判所めぐり』『日本全国判例マップ』の管理人。 |
え、全然20人じゃないって?
いいじゃないですか判例百選だって(以下略
それではみなさん引き続き素晴らしいtwitterライフを!
お次は Nakagawaさん(旧しょぼんぬさん)です。
アドテク関連データを個人情報として取り扱わなくていいのか
最近アドテク(アドテクノロジー:広告関連技術)領域の勉強をしているのですが、「アドテク関連で取り扱うデータは個人情報(データ)として取り扱うべきなのでは?」と思い、各種文献がどのように記載しているのか確認してみました。
といってもよさそうな文献はほとんど見つけることができませんでしたが。。。 *1
1.「オーディエンスターゲティング広告における匿名加工情報の利用に関する提言」
まずは、一般財団法人情報法制研究所オンライン広告研究タスクフォース「オーディエンスターゲティング広告における匿名加工情報の利用に関する提言」から。
この報告書は、広告代理店等の広告事業者が匿名加工情報を適法に利活用する方法を提言するものなのですが、前半部分はオンライン広告の仕組みや歴史、改正個人情報保護法上の懸念事項等の説明に割いており、アドテク初心者にも理解しやすい資料となっています。
この報告書のなかに、オーディエンスデータ(オンライン広告事業者が保有する、アドサーバを通じて蓄積されるユーザの閲覧履歴を基に構成したユーザ毎のデータ。要は広告事業者が保有するアクセスログデータ)の個人情報保護法上の扱いについて以下のように記載されています。
※下線部はkaneko
オンライン広告事業者が自ら作成する前記の「オーディエンスデータ」は、大抵の場合、個人情報保護法の「個人情報」定義(2条1項)で言うところの氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等を含んでおらず、また、オーディエンスデータと容易に照合することができる他のデータとして個人情報をオンライン広告事業者が保有しているわけでもないことから、これまで、オーディエンスデータは個人情報保護法が定義する「個人データ」(2 条 6 項)に該当しないものとして取り扱われてきた 。
他方、メディア事業者が保有する前記の「ユーザデータ」は、メディア事業者の事業形態によっては、氏名等と共に一体的に管理される情報となっていて、法の「個人データ」に該当するものとなっている場合がある。その場合に、「ユーザデータ」から一部の属性情報を切り出したものが当該事業者において「個人データ」に該当するかは、データの性質によるものであるが、データの内容が履歴情報である場合等、詳細なものとなっている場合には、元のデータとの照合によって「個人データ」に該当するものとなっている場合が少なくないと考えられる。
オンライン広告において、メディア事業者、オンライン広告事業者、広告主の各ステークホルダにおけるデータの取扱いが、個人情報取扱事業者としての義務(個人情報保護法第 4 章の規定)の対象となるかは、取り扱うデータが「個人データ」に該当するかによる。「オーディエンスデータ」は、前記のように、これまで、「個人データ」に該当しないものとして取り扱われてきたことから、日本では、オンライン広告の法令適合性を個人情報保護法に照らして検討することはなされてこなかった。
しかし、諸外国においては、特に EU(欧州連合)諸国においては、従前のデータ保護指令 (Data Protection irective) の下で、ターゲティング広告で用いるオーディエンスデータが「personal data」に該当するとされ 21、法の義務の対象であったこと、また、米国においては、連邦法による規制はないものの、連邦取引委員会 (FTC) の監視の下で業界団体による自主規制の取組みが続けられてきた 22 ことから、それらの国々でサービスされるターゲティング広告では、ユーザによるオプトアウトの機会を確保することや、透明性確保のため事実関係を公表することが、実務上必要な措置となってきた。その結果として、日本のオンライン広告事業者においても、特に国際的にサービスを展開している場合には、同様の措置が必要となっていた。p25
なお、本報告書では、オーディエンスデータとユーザーデータを「個人データ」と仮定して提言を行っているのですが、その場合、以下の論点が生じる旨が記載されています。
- 従前より行われているターゲティング広告の事業が、日本の個人情報保護法に照らして適法と言えるか*2
- ユーザ識別子(cookie、IDFA 等の端末識別子、メディア事業者が運営する媒体のアカウントID、メールアドレス等の識別性を持つ情報)によるターゲット指定の方法が用いられている場合には、ターゲット指定のためのユーザ識別子の送信が、個人データの第三者提供に当たるのではないか
2.「データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A」
続いてはこちら
データを取り扱う上で問題となる法律問題についてQ&A形式で書かれている書籍です。はしがきに「個人情報保護法以外を重視」と書かれている通り、個人情報以外の関連法についても幅広くかつしっかり記載されていて非常に参考になります。
もちろん、アドテク領域の言及もあり、AppleのITPに関する記載があるのには驚きました。
本書ではDMPで取り扱うデータの個人情報保護法上の扱いについて以下のような記載があります。
※下線部はkaneko
DMPサービスやこれに付随するサービスでは、各利用者の様々なデータを連携するため、DMPサービスの利用業者が有する顧客データ、及び、DMPサービス事業者(又はDMP関連ツールサービスの提供事業者)が有することとなる顧客データのいずれもが、個人情報に該当してしまう場合が多いと考えられます。
顧客の氏名の情報を取得していなかったとしても、広告ID、SNS ID(例.Facebook ID)、メールアドレス等の容易に照合できる情報を通じて、本人を特定できてしまうケースがあれば、個人情報を含むことになるからです。特にメールアドレスについては、「個人名@ドメイン」等と、個人名を含むメールアドレスとしている利用者も少なくないですから、個人情報を含むと整理することが通常です。
関係先企業、あるいは、自社の関連部署から、個人情報を取り扱っていないとの説明を受けても、これをうのみにせずに、慎重な検討を行うことが重要です。
p118
3.少しだけ個人的に思ったこと
個人的に感じていることなのですが、今のアドテクを含めたデジタルマーケティング領域でのトレンドは「データとデータをくっつけていかにリッチするか」になっていると思っています。昔であれば、氏名や電話番号等を含まないデータ同士をくっつけるのは容易ではなかったはずですが、今ではCookieSYNCやIDSYNCといったアドテク手法やTreasureDataやDrawBrigdeを利用したデータ連携を利用すれば容易にくっつけることができるようになってきたと感じます。
非個人情報であるデータが転々流通していくなかでデータがくっついて突然個人情報になることも十分想定できるのではないでしょうか。(データを提供する際に提供元では個人データではないが、提供先で個人データに該当するケース)
たとえ氏名等に到達できないデータを保有していたとしても、長期蓄積性やデータ連結可能性があるのであれば、できるだけ個人情報として扱い、本人同意の取得等の対応を行っていくようにすべきなような気が個人的にはしています。
(また、GDPRやePrivacy規則案を踏まえてもアドテク領域のデータは日本でも個人情報として扱うほうがいいのではと思ったり。)
もちろん、広告ターゲッティングの仕組み上、難しい場合があることは理解しているつもりですが・・・