Nobody's 法務

略称は「ノバ法」。知財、個人情報、プライバシー、セキュリティあたりを趣味程度に勉強している元企業ホーマーのまとまりのない日記。あくまで個人的な見解であり、正確性等の保証はできませんので予めご了承くださいませ。なお、本ブログはGoogle Analysticsを利用しています。

【書評】はじめての著作権法~著作権超入門書~

 

はじめての著作権法 (日経文庫)

はじめての著作権法 (日経文庫)

 

 

著者は森・濱田松本法律事務所の池村先生。

 

本書は月刊コピライトに連載されていた、「ざっくりさくっと著作権」がベースとなってる著作権初心者向けの書籍(新書レベルの入門書)です。

 

新書レベルの著作権入門書といえば、福井健策先生の「18歳の著作権入門」という(個人的)名著があり、本書も読書層としては被るのかもしれませんが、テイストが異なっており、「18歳~」以外での新書レベルの入門書としては本書をおすすめできると思います。

 

【ポイント】

本書のポイントは、やはり「わかりやすくしつつも必要最低限の基礎知識を入れ込んでいること」です。

具体的事例(裁判例含む)を挙げながら、説明をされているので著作権初心者でも著作権法全体のイメージを掴むことができます。

 

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※複製と翻案の違い

 

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※実際に著作権侵害かどうか争われた事例

 

また、本書は「著作権が多くの国民にとって身近なキーワードになった一方で、著作権法の基本的な知識はまだまだ浸透してないことがある(p5)」という著者の問題意識がベースになっています。

それは、

ある小説がありきたりのストーリーで全然感動しないとか、ある絵画が下手くそで見るに堪えないとか、ある音楽が耳障りで不快であるとか、あるゲームがクソゲーだとかいったような、「作品としての価値や評価」は、著作物かどうかとはまったく関係が在りません。(p31)

であったり

世間ではアイディアしか共通していない場合も含めて、あたかも著作権侵害であるかのように、「この作品はあの作品のパクリだ」なんて形で炎上することも少なくありませんが、是非冷静に判断をしていただきたいと思います。(p128)

といった記述からも問題意識が見て取れます。

たしかに、ネット上では少し似ているだけで「著作権侵害だ」といわれて炎上するケースが増えてきているように思えます。

(直近でも某ラノベが某テニスマンガのパクリだと炎上し、結果としてラノベの刊行が中止に追い込まれていたりしますね。)

もちろん、著作権法の観点からは合法であったとしても倫理的には問題があるケースはあり得るとは思うものの、私も著者の問題意識には同意見ですので、多くの人に本書が読まれるといいなと思うところです。

 

【その他個人的に興味深かった点】

  • 加戸守行「著作権法逐条講義」を「カトチク」と略す
  • 群馬出身の池村先生、グンマ愛が強すぎて「群馬あるある」という書籍を出版する

⇒探したらガチだった。

群馬あるある|TOブックス

  • 文化庁が「著作権者不明の場合の裁定制度」というシュールな動画を作成している

⇒探したらガチだった。

natalie.mu

【書評】広告法~広告業界法務のスタンダード本?~

 

広告法

広告法

 

 

Business Law Journalのブックガイド2018でも言及されていた書籍ですね。

 

著者は電通法務マネジメント局の方々*1

 

本書は、はしがきに

すでに法規制ごとにすばらしい解説書が多数出版されていますので、全般的な解説はそちらに譲ることとし、本書ではあくまで概説にとどめ、主として広告ビジネスの視座から法規制をとらえ直すことに注力しています。

と書かれているとおり、広告ビジネス実務に焦点をあてて法的解説がなされています。

 

広告ビジネスに法規制に関する書籍としては、代表的なものとしてJARO「広告法務Q&A」があるかと思いますが、あくまでQ&A形式となっているため、全体的な法規制については理解しにくい構造になっていると個人的には感じており、その点においては本書の方が最適かなぁと思うところです。 

 

  • 広告業界に入りたての法務部員
  • (広告主側になる)B to C企業の法務部員
  • 間接的に広告業界に関わる企業の法務部員

にとっては「使える書籍」になるのではと思います。

 

本書の中身を見ていきますと、まず第1編にて広告実務の解説がされています。

 

広告実務の流れ、そこで必要となる契約、関係する法令等がざっくりわかるようになっています。

 

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※一般的な広告実務の流れ

 

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※広告を作成するにあたり、関係する企業と必要となる契約の一覧表。

 

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※ケースごとに関係する法令の一覧表。

 

その上で第2編以降は関係する各法律の解説がされています。

特に知的財産法と景品表示法の割合が多いものの、個人情報保護法*2や屋外広告法、公職選挙法といった部分もカバーしています。

 

あくまで広告実務を踏まえた解説がされていますので、非常にわかりやすく、イメージがしやすいと感じました。

特にグラフィックス広告とテレビCM等の動画広告に関しては、権利関係が複雑なため、そこをどう整理してどのように実務を行っているのかわかりやすく解説されていると感じます。

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※広告の著作権と広告に使用される素材の権利の関係性。

 

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※肖像利用に関する説明。一般的な広告出演契約の条件も記載されています。

 

個人的にkanekoが勉強になった点は下記です。

 

  • (契約等を考慮しない前提で)テレビCM等の動画広告自体の著作権の権利帰属先は原則として広告主である点

かつてはACC合意により、権利帰属に関してお互いに権利主張をしないという運用が行われていたところ、知財高裁平成24年10月25日判決以降は、原則広告主が権利帰属先である前提での運用がされている旨が判決文の解説とともに書かれています。

  • 「広告実務において著作権法上の『引用』の要件を満たすケースはほとんどない」と言い切っている点

当たり前なのかもしれませんが、はっきり記載されているのは参考になります。

  • モノや死者のパブリシティ権の問題、広告に著名人の「そっくりさん」を出演させる場合の問題、映像製作時に「第三者の著作物のイメージ」の影響を受けて広告を作成した場合の問題、といった法務として悩ましい(と思われる)部分についても言及されている点

画期的な解決方法が書いてあるわけではありませんが、参考になります。 

 

IoT関連技術の発展が広告ビジネスにも影響してきており、広告ビジネスに関連する特許権取得の増加が見込まれる旨を述べた上で、以下のように言及されています。

広告ビジネスにかかわる環境が急速に変化し、従来の広告ビジネス領域内にはいなかった新規参入プレイヤーが力を増す中で、特に広告ビジネスを生業とするプレイヤーにとっては、「広告ビジネスにおける特許/知財戦略」の立案や見直しに至るまで、課題が山積しています。広告を生業とするプレイヤーはこのような状況を改めて自覚し、いち早く戦略や体制づくりをすすめていくことが、今後の広告ビジネスの維持拡大に不可欠であると考えます。(p145)

 

これを見て思い出したのですが、

kanekoも2年ほど前に、大学院の授業の一環で「アクセスログを用いた広告関連技術の特許出願動向」を簡易調査してみたことがありました。

 

その際、以下の結果がでました。

※あくまで簡易調査であり、検索式*3はザックリかつ名寄せやノイズ除去、検索漏れの確認などは行っておりません。従って、データとしての正確性の保証もできません。趣味程度だと思って下さいませ。

※以下、2016年6月時点でのデータ抽出をベースにしています。(従って2015年の出願数は追えてない)

 

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赤字の2000年と2001年の出願は米国におけるステート・ストリート・バンク事件((State Street Bank 対 Signature Financial Group, Inc., 149 F. 3d 1368 (Fed. Cir. 1998)))やamazon.comのワンクリック特許登録等の影響(ビジネスモデル特許出願ブーム?)によるものと思われますが、それ以降も20~40件で安定的に特許出願がされているので、今後もこの分野の出願は(爆発的には増えないけど)そこそこあるのだろうなぁと思ってました。

ですので上記言及を見て、改めてこの分野は今後の出願動向に注目していこうと思った次第です。

 

 

というわけで?、こちらの書籍もkanekoの会社の机に置かれる1冊となりました。

 

 

参考までに目次はこちら

    ↓

第1編 導入編

 第1章 広告ビジネスの全体像

 第2章 広告ビジネス実務の概観

 第3章 広告ビジネス実務における各手法と法的イシュー

第2編 実践編

 第1章 著作権法

 第2章 肖像権・パブリシティ権

 第3章 商標法

 第4章 不正競争防止法

 第5章 特許法

 第6章 景品表示法・ 表示規制

 第7章 景品表示法・ 景品規制

 第8章 食品の表示・広告に関する規制

 第9章 広告撮影に関する関連法規

 第10章 イベント

 第11章 屋外広告物

 第12章 個人情報保護法

 第13章 広告とインターネット関連法規

 第14章 スポーツと広告ビジネス

 第15章 製造物責任法

 第16章 特定業種の広告規制

 第17章 公職選挙法

 第18章 広告と取引にかかわる法律

 

*1:最後に編集代表者や著者の経歴が載っているのは興味深いです。電通の法務って何人くらいいるのでしょうか?法律と関係ない部署を経験してから法務に来ている人もいるみたい。

*2:個人的にはアドテク領域への言及がもっとあるとよかったのですが、そこまで書くと本書の趣旨を逸脱してしまうんだろうなぁ

*3:検索式は以下

①【検索項目:要約+請求+発明名】【検索キーワード:広告】
②【検索項目:要約+請求+発明名】【検索キーワード:アクセスログ クッキー cookie 行動履歴 閲覧履歴 広告識別情報 広告識別子(すべてor検索)】
③【検索項目:更新FI】【検索キーワード:G06F13/00 G06Q30/02 G06Q50/10 G09F19/00(すべてor検索)】
検索論理式:①*②*③=500件

2018年の抱負と具体的施策とか

Sunrise in Inubosaki

Sunrise in Inubosaki,©Takashi Hososhima,CC BY-SA 2.0

 

 

どうも。中大がシード落ちのようで少しだけ悲しいkanekoです。

 

さて本年の(プライベートの?)目標を決めました。

 

  • ブログ更新:月2回以上
  • 読書:月3冊以上
  • 英語:一日1時間程度
  • プログラム:一日1時間程度
  • テニス:試合にでて勝つ

 

なんか中学生みたいな目標ですね。。。

 

・ブログ更新

基本的に自己満足なので、ペースを維持することをとりあえず目標に。

法務ブロガーの方はいつもすごいなぁと思います。

ペースとしては去年の2倍以上ということで月2回。 

 

・読書:月3冊以上

法律・知財系、IT系、ビジネス系の3つの分野を中心に読もうと思います。

現状、積読されている本がたまりまくっており、本を買うペースと読むペースの乖離が激しいのが課題でございます。

読書状況の管理としては読書メーターブクログを考えたのですが、

・英語やプログラムの管理と一緒にやりたい

・途中の進捗管理もできるようにしたい(ページ単位や時間単位)

ということでstudyplusというスマホアプリで管理することにしてみました。

 

こんな感じで↓

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標数値としては、 月3冊ペースで読まないと積読が解消しない(涙目

 

・英語

英語が大嫌いなのですが、もう実務上逃げられないなという時期に来たので

とりあえず読み書きだけでもある程度できるようにしたいです。

 

・プログラム

Legal Advent Calendar 2017の時に

とpnt_law22さんにアドバイスを頂いたのでjavaを勉強しようといろいろサーチしたのですが、

こんなサービスを見つけてしまい

aidemy.net

10秒で始められるということなので(結局Pythonを)早速始めてみました。

AI学習に特化しているのですがコース別に分かれているので自分のレベルに合ったコースを選択できるようです。

 

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AidemyPython入門の画面(2018/1/3時点)

 

あ、 なんかプログラム初心者でもできる気がする!

業務(特許系)上、AI系の知識が必要になりつつあるので、こちらもコツコツやってみます。

ある程度できるようになったら、なにかしてみたいなぁ(漠然 

 

さて、法務の端くれとしてはこういったサービスのプライバシーポリシーや利用規約の内容は気になるところです。

確認したところ、ごくごく普通の規約やプラポリに見えたのですが、1点(個人的に)面白い記述を利用規約に見つけました。

 

Aidemy学習内容のSNS/ブログ記事等の発信に関して
Aidemyではご利用ユーザー様の外部サイトへの投稿を歓迎しています。下記に記載した内容を守って掲載を行なってください。

留意事項

Aidemyのコンテンツ(演習問題や添削問題など)はほぼ毎日更新されています。Aidemyのコンテンツを投稿する際は、投稿日、掲載日時が分かるように掲載してください。
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コンテンツを完全にコピーしての投稿は禁止しますが、汎用的な文法事項の質問や弊社コンテンツの一部のスクリーンショットの投稿などは可能です。

 

スタートアップの会社のサービスだと「まず拡散すること」が大事(収益化はその後)となることが多い気がするので、こういった記載を利用規約に明記するのは好感が持てました。

 

・テニス

試合云々の前に、最近肩を痛めたのでマイケル・チャンのようなアンダーサーブをまず身につけなければならないですね(苦笑

 今年はテニスを楽しむのではなく、勝ちにこだわって行きたいと思います。

 

というわけで本年もどうぞよろしくお願いします。

 

2017年総括

 

どうも。ゆとり教育の最前線(円周率は3で習った)で育った平成生まれのkanekoです。

 

毎年恒例のコミケ冬の陣を終え、戦利品(大嘘判例八百選の新刊を含むがこれに限らない)を携えて家路へ向かう電車のなかで書き上げております。

 

今年も残すところあと少し。

 

1年を振り返ると

・大学院を働きながらなんとか無事に卒業(学会発表も2つこなした)

・改正個人情報保護法対応に苦労(会社によってここまで解釈が異なるものなのかと勉強になりました)

・初めての株主総会に参加(メイン担当ではないけど)

・非公式に裏legalLTを企画(参加頂いた皆様ありがとうございます!)

・法務系 Advent Calendar 2017に参加

・テニスで肩を痛める

等々パッと思いつく限りでもいろいろありました。

 

去年以上に「アクティブに行動すること」を意識したことでいろいろ外から刺激を受けたかなと感じます。

 

おかげで「課題」や「やりたいこと」が少しだけ明確になった1年だったと思います。

もうちょっと熟考して来年の目標を決めようと思います。

 

今年のブログ更新頻度を見てみると

2016年:5件

2017年:9件

と微増。

 

来年はもっとブログの更新頻度をあげたいなぁ。。。

 

というわけで、

Twitterおよびリアルで絡んでいただいた皆様ありがとうございました。

来年も引き続き絡んでください。

 

来年は20代最後の年。わくわくする年にしたいですね。

 

皆さま良いお年を!

俺的オススメ著作権本紹介

これは法務系 Advent Calendar 2017のエントリーです。

 

どうも。最近同僚に「米津玄師の髪を薄くしたような髪型してるね」と言われたkanekoです。それは褒められているのでしょうか・・・

 

みねメタルさんからバトンを受け取りました。

 

dtkさんのエントリーに触発され?なんとなくこんなことを呟いてしまったので

 

著作権を体系的に勉強していく(知識をインプットする*1)うえで参考となる書籍』をkanekoの独断と偏見により書いてみることにします*2

 

著作権法という法律の世界ではマイナー?な分野*3かと思いますので、基本的には自己満ですが、少しでも皆様の参考になれば幸いです。

 

なお、各書籍にはAmazonのリンクを貼っていますが、アフィリエイトリンクではないです。

 

 

【目次】

  

レベルに応じて以下の流れで読んでいくといいと思います。

初心者:1.⇒2.

本格的に勉強しなおしたい人:2.⇒3.

3.だけじゃ物足りない人:とりあえず4.

 

 

1.著作権を全く知らない人向け(新書レベル:だいたい200頁以内)

非法学部の人も含めて著作権をゼロベースで勉強したい人にまず手にとって欲しい本をいくつかチョイスしてみました。

 

①福井健策「18歳の著作権入門」(2015年)

18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書)

18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書)

 

わかりやすい文章に定評のある福井先生の数ある書籍の中でも一番のオススメ。

 

☆オススメポイント☆

・文章としての分かりやすさだけでなく、写真や実際の事例も(新書としては)豊富なので全く著作権を知らない人にはまずこの書籍をオススメしています。

 

個人的にはミッフィー対キャッシー事件や廃墟写真事件を例にした著作権侵害の説明はとてもわかりやすいので何回も読みなおしています。(例えば、翻案権侵害の「原著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる」とかって正直文字だけ見ても意味わかんないじゃないですか)

 

なお、想定読者の中心は「18歳以上の学生や若い社会人」とのことで、この世代にはストライクな?話題がチョイスされています*4。が、心が18歳であれば、問題ないでしょう!!

 

②鷹野凌「クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。」(2015年)

クリエイター向けにはこの1冊。あ、これも福井先生の監修ですね。

 

☆オススメポイント☆

・会話形式で著作権についての説明がされており、自然と著作権とは何か理解できるような工夫がされています。

 

なお、書籍以外でクリエイター向けだと最近特許庁が出した「デザイナーが身につけておくべき知財の基本」の資料なんかも参考になりますね*5

 

③池村聡「はじめての著作権法」(2018年)

はじめての著作権法 (日経文庫)

はじめての著作権法 (日経文庫)

 

 上記以外だと池村先生の「はじめての著作権法」も外せません。

☆オススメポイント☆

・わかりやすくしつつも必要最低限の基礎知識を入れ込んでいる

・具体的事例(裁判例含む)を挙げながら、説明をされているので著作権初心者でも著作権法全体のイメージを掴むことができます

書評はこちら↓

 

 また、著作権だけでなく、知財全般としては【稲穂 健市「楽しく学べる「知財」入門」(2017年)】なんかはオススメです。インパクトのある表紙がtwitterでバズってましたね。

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)

 

 

あとは、書籍ではないのですが、コピライトで小坂先生が連載されている「コピライト・ビギナー ―著作権のボーダーラインを学ぶ判例入門―」も(読者としては著作権に疎い法務の人をターゲットにしているものの)著作権法上の白黒を見極める上で非常にわかりやすい内容となっていてオススメなんですけど、これ書籍化されたりしないですかね?(特定の方面をじっと見つめる)

 

 

2.著作権をこれから勉強しようと思う人向け(300頁くらい)

1.を見て著作権法について大まかに理解した人や法律のバックグラウンドを持つ人向けへのオススメ本です。スタンダードな入門書の他、いくつか業界別のオススメもピックアップしてみました。

 

④島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門 第3版」(2021年)

 

個人的入門書のスタンダード。若手知財学者*6によるわかりやすい説明が特徴です。初版が発売された2009年以降に著作権を勉強した人はこの書籍をベースにしている人も多いのではないでしょうか。

 

☆オススメポイント☆

・わかりやすさだけでなく、(入門書にもかかわらず)参考文献等の脚注情報が豊富。

・共著(章ごとに担当を分けている)であるにもかかわらず、ブレがほとんどないと感じます。

・令和2年改正に対応

 

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 ※こんなかんじ(上記は第2版の画像です。)

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 ※裁判例の紹介。比較写真があるのでわかりやすい。(上記は第2版の画像です。)

 

高林龍「標準 著作権法 第4版」(2019年)

 ④の島並他著作権法入門と並んでわかりやすいというご意見も多い高林著作権法。ところで上野先生も高林先生も早稲田の教授だったと認識しているのですが、早稲田の学生はどちらの書籍を使うのでしょうか。

 

☆オススメポイント☆

・わかりやすさを念頭に書かれているが、各論点(例えば応用美術)に関しては詳細に解説されている。

・令和2年改正に対応

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※こんなかんじ (上記画像は第3版です。)

 

⑥茶園成樹編「著作権法 第2版」(2016年)

著作権法 第2版

著作権法 第2版

 

「上記2つ以外では?」と聞かれると、この茶園シリーズ*7著作権法でしょう。

 

☆オススメポイント☆

・章の中の各節ごとに最初にポイントや事例が書かれた後に本文が始まるので、理解しやすい。

・理解しにくい用語については解説項目をいれている。

・上記の2つの入門書より内容としてはあっさり書かれている印象です。

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※こんなかんじ 

 

⑦その他業界別

分野別だとこちらでしょうか。

・インターネット分野

福井健策編「インターネットビジネスの著作権とルール (エンタテインメントと著作権―初歩から実践まで5)」(2020年)

著作権以外も含まれますが、松井茂記鈴木秀美・山口いつ子編「インターネット法」(2015年)

なお、この手の勉強を始めると必ずぶつかる「この謎のIT用語ってなんや」問題を解決するために1冊持っておくとよい本は影島広泰「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典 」(2021年)

書評はコチラ(下記は旧版です。)↓

 

・音楽分野

福井健策編「音楽ビジネスの著作権(第2版) (エンタテインメントと著作権-初歩から実践まで-3)」(2016年)

高木啓成「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」(2020年)

安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 6th Edition 」(2021年)

安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 6th Edition」(2021年)

 

・出版分野

福井健策編「出版・マンガビジネスの著作権(第2版) (エンタテインメントと著作権-初歩から実践まで-4)」(2018年)

 

・広告分野

志村潔「『広告の著作権』実用ハンドブック 」(2018年)

 

書評はコチラ↓

電通法務マネジメント局編「広告法」(2017年)

書評はコチラ↓

 

・ゲーム分野

福井健策編「映画・ゲームビジネスの著作権(第2版) (エンタテインメントと著作権-初歩から実践まで-2)」(2015年)

 

・ファッション分野

初心者向けではありませんが、角田政芳・関真也「ファッション・ロー」(2017年)。コスプレと著作権についても言及されている書籍です。

 書評はコチラ↓

 

 

3.本格的(体系的に)に勉強したい方向け~基本書シリーズ~

いわゆる「基本書」です。コンテンツ系法務の机に1冊はあるのではないでしょうか。

 

中山信弘著作権法 第3版」(2020年)

もはや説明は不要でしょう。著作権の基本書といえば本書を挙げる方が多いかと。800頁越えのため、通読するのはキツイかもしれませんが、頑張りましょう(第2版から100頁くらい増えてる)。

 

☆オススメポイント☆

・「あれ、これってどうなってたっけ?」と疑問思ったときの調べ先

・脚注の情報(裁判例や参考文献)が豊富なため、不明点は脚注の文献からたどって確認できる

・法制度の背景もしっかり記載されている

 

なお、令和2年改正については、巻末補遺で解説する形式になっており本文でアップデートされていないことに注意です。(令和2年改正に関する解説についても改正内容の紹介に終始しており、中山先生個人の見解があまり反映されていません。)

 

⑨岡村久道「著作権法 第5版」(2020年)

今や個人情報保護法等のサイバー法の第一人者のイメージが強い岡村先生の著書(書籍の構成も「個人情報保護法 第3版」に近いかもしれません。)。

中山著作権法ともう一冊買う余裕があるのであれば個人的には本書をオススメします。

 

☆オススメポイント☆

・改訂スピードがとにかく速い(令和2年改正にいち早く対応。リツイート事件最高裁判決もフォロー)

・図解が豊富

・注が本番(注の私見が興味深い)

・基本書でありながら、著作権法の理論だけでなく、実務(契約実務と訴訟)の面からも書かれている

・読者へのフォローアップが手厚い*8

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※翻案と複製の違い(上記は第4版の画像です。)

 

 

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※権利関係が複雑な映画の著作物の著作者・著作権者(上記は第4版の画像です。)

 

個人的には中山著作権法で「いまいち理解できないなー」というところを本書で確認することが多いです。

 

詳しい書評はコチラ↓
 

⑩三山裕三「著作権法詳説 第10版」(2016年)

著作権法詳説 [第10版]: 判例で読む14章

著作権法詳説 [第10版]: 判例で読む14章

 

副題に「判例で読む14章」と書かれているとおり、判例分析を中心に構成されています。

三山先生は去年まで理科大MIPにて教鞭をとられており、個人的には理科大MIPのトップ3に入る満足度の講義でした。

 

ちなみにちょいとお高い(定価7000円)ため、版が古いのを中古で買うのもありですが、版が古いと縦書きの場合があるので注意です。(少なくとも10版は横書き)

 

☆オススメポイント☆

判例の紹介が豊富

・コラムが非常に興味深い

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製作委員会方式の説明

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※ネット上における著作権侵害時の裁判所管轄と準拠法
 

⑪その他

訴訟に特化した書籍としては

高部 眞規子「実務詳説 著作権訴訟 第2版 」(2019年)とかどうでしょうか。

あとは挙げるとすると

作花文雄「詳解著作権法 第5版」(2018年)

田村善之「著作権法概説 第2版」(2001年)

とかでしょうか。

作花文雄「詳解著作権法 第5版」の書評はコチラ↓

 

田村先生の本はいつか改訂版でるのでしょうか。。。

 

 

4.もはや趣味

趣味です。ええ。

 

⑫加戸守行「著作権法逐条講義 七訂新版」 (2021年)

現行著作権法の起草者である加戸先生(私、あのマフラーが気になります!)の著作。

人によっては、基本書の一つとして位置づけている方もいらっしゃるかと。

研究をするならまず必要。実務では・・・あまり使うことはないような気もしますがどうでしょうか。

 (加戸先生が亡くなった後も改訂されて...おっと誰か来たようだ)

 

小倉秀夫・金井重彦編「著作権法コンメンタール 改訂版 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」(2020年)

 

ゼミ生OBの端くれとして紹介しないわけにはいかないでしょう。

小倉金井著作権法コンメンタールがついに改訂されました(2020/10/16発売)

以下のアップデートがあります。

・令和2年改正まで対応

・1冊→3冊構成(鈍器を卒業)

・1,777頁→合計2,204頁

・14,000円(税抜)→合計21,100円(税抜)

 

 

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旧版の分厚さがなつかしい。。。(写真は旧版の画像です。)

 

⑭松田政行「著作権法ラクティス」(2009年)

著作権法プラクティス―演習10講30問

著作権法プラクティス―演習10講30問

 

著作権法上の重要論点について30問の設問を設定し、それに対する解説がなされている書籍(2009年の出版)です。

新司法試験(著作権)での論文対策が前提になった解説がなされていますが、図表が(思ったより)豊富で説が分かれる論点はそれぞれの説の比較表が付されていたりと、一通り著作権を勉強した上で論点整理のために読むといいかもしれません。

2010年以降の改正には対応していないので注意です。

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インタラクティブ配信に関する説明 

 

山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」(2011年)

日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか

日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか

 

勉強用というよりも読み物として。

著作権法改正の立法過程を検証し批判的に述べた著書。著作権法を勉強していると時々感じる「違和感」の答えのヒントがもしかしたらこれを読むとわかるかもしれません。

続編の「日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか」も合わせてどうぞ。

簡単な書評はコチラ↓

 

⑯岡邦俊「著作物を楽しむ自由のために」(2016年)

著作物を楽しむ自由のために: 最高裁著作権判例を超えて

著作物を楽しむ自由のために: 最高裁著作権判例を超えて

 

こちらも勉強用というよりも読み物として。

パロディモンタージュ事件、選撮見録事件、ロクラクⅡ事件といった重要判例において代理人をしていた岡先生の著作。著作物を楽しむ自由をもっと与えるべきではないかという点から各判例を批評しているのですが、気持ちいいくらいに判例をdisっています。上の山田奨治先生の本とセットで読むと面白いと思います。

 

⑰小泉直樹他編「著作権判例百選 第6版」(2019年)

著作権判例百選 第6版 (別冊ジュリスト 242)

著作権判例百選 第6版 (別冊ジュリスト 242)

 

 最後はおなじみ判例百選シリーズ。(あれ、おかしいなどうしても大嘘判例八百選を想起してしまう) 

第5版については、著作権クラスタなら誰しもが知る悲しい事件に巻き込まれましたが、第6版は内容が一新されています。なお、この悲しい事件は第6版では判例の一つとして掲載されています。

ちなみに第4版と第5版を比較しながら悲しい事件の判決文を読むと非常に味わい深い。

 書評はコチラ↓


 

コンパクトにまとめようとしたのに全然コンパクトにならなかった・・・orz

 

 

 お次はHirohitoNakada先生です!

 

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更新履歴

●2017/12/10

tanakakohsuke様からのコメントを参考に岡村著作権法のリンク先を修正

●2018/5/2

・池村聡「はじめての著作権法」を追加

・岡村久道「著作権法」のAmazonリンクを修正

・作花文雄「詳解 著作権法」の版を更新し、書評へのリンクを追加

電通法務マネジメント局編「広告法」の書評へのリンクを追加

・福井健策編「出版・マンガビジネスの著作権」のリンクを修正(第2版が発売されたため)

●2018/5/31

・角田政芳・関真也「ファッション・ロー」を追加

・影島広泰「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典」を追加

●2019/1/5

・池村聡「はじめての著作権法」を微修正

・志村潔「『広告の著作権』実用ハンドブック」を追加し、書評へのリンクも追加

山田奨治「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」の書評へのリンクを追加

その他書式や文言を微修正

●2019/3/23

・小泉直樹他編「著作権判例百選 第5版」を「第6版」に修正し、書評へのリンクを追加(文言も一部修正)

●2019/12/27

・岡村久道「著作権法 第3版」を「第4版」に修正し、おススメポイントも修正。書評へのリンクを追加。

●2021/6/25

・以下について版をアップデートして一部文言とリンクを修正

・新規で以下書籍を追加

  • 高木啓成「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」
  • 安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 5th Edition」
  • 安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 5th Edition」

●2022/2/5

・各書籍の出版年を追記

・以下について版をアップデートして一部文言とリンクを修正

  • 安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 6th Edition」
  • 安藤 和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 6th Edition」
  • 加戸守行「著作権法逐条講義 七訂新版」 

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*1:勉強って

・知識をインプットすること
・知識を元にアウトプットすること(実際の取引に当てはめること、問題集を解くこと、資格試験を受けること等)
の繰り返しですよね。できてないけど。

*2:正直、「著作権を勉強したいんだけど」という相談が来た場合は

「まずは知的財産権管理技能検定(2級 or 1級)とかビジネス著作権検定(初級 or 上級)の勉強するのがいいのでは?」という返答が無難な気もしますが、あえて攻めてみる。

*3:「マイナー」なだけではなく、「わかりにくい」とも指摘を受けますね。

よく著作権以外(特に特許)を勉強している人から、「著作権はあいまいでわかりにくい」とか「基本書見ても実務に当てはめられない」といった指摘を受けるケースがあります。(個人的には特許明細書の方が圧倒的に読みにくく分かりにくいのでは?と思っちゃったりしますが)

*4:YouTuberや初音ミク、総統閣下シリーズとか。あ、もちろん、プーさんとかキャンディキャンディとかもでてきますよ!

*5:あ、文化庁のHPにもWebで配信している教材ありましたね。(「著作権テキスト」はもうちょっと中の人に頑張ってほしいなぁ。。。)

*6:確か初版時にこう言われていた気がします。学者における「若手」ってどこまでの範囲なんでしょうね。

*7:茶園先生はほぼすべての知財法に関して著作がありkanekoが勝手に茶園シリーズと呼んでいる。いつか全て購入して並べてみたい

*8:専用問題集の配布が出版元のHPから出されています。

リーチサイト運営者逮捕の件

リーチサイト(侵害コンテンツへのリンクを集めたサイト)運営者が逮捕とのニュースが

www.asahi.com

 

ついにきたかというところで、

多くの法律関係者(特に知財クラスタ周り)がこのニュースに 反応していますね。

 

時間の問題とは思っていたものの、リーチサイト規制を議論しているところで、先に警察が動くのは個人的には予想外でした。

 

著作権公衆送信権)侵害で逮捕とのことですが、正犯としての逮捕なのか幇助としての逮捕なのかは気になります。

 

ただ、他の記事を見ると

逮捕者が自ら侵害コンテンツをアップロードしていたわけではない(リーチサイト運営者はリンクを貼っただけ)という記事*1

リンクを貼るだけでなく、逮捕者同士で共謀して侵害コンテンツのアップロードも行っているという記事*2

がありますので、なんともいえない状況ですが、

ACCS(コンピュータソフトウェア著作権協会)のプレスリリースを見ると後者のようですね。

 

後者の事情が強いのでれば、今回の逮捕も理解はできます。

また、たとえ前者であった場合でも幇助としての逮捕であれば一応は理解できます。

 

 

なお、(報道の内容を見る限り後者の理解でよさそうですので、考える必要はないと思いますが、)

仮に前者でかつ正犯(著作権直接侵害)としての逮捕だとすると疑問が生じます。

 

悪質度の違いはあれど、リンクは基本的には、著作権直接侵害にあたらないはずです(過去ブログ参照)。 

最初に今回のニュースを見た際に、「リンクを貼る行為を、カラオケ法理とか規範的主体論を適用させて逮捕なのかな?ちょっと無理あるよね」と感じていました。

 

 中川先生の見解に同意です。

 

ちなみに、リーチサイト関連の呟きを追っていると興味深い呟きが2つほど見つけました。

 

なるほど。そもそも自動公衆送信の幇助といえるかについても検討すべき事項があるのは盲点でした。卒論書いてたときはほとんど検討しなかったなぁ。反省。

 

もう一つはこちら

 

文化庁審議会が上記の流れだとすると、リンクを1つ張っただけでもOUTになる立法がなされる予感がします。 

 

 個人的には、通常のリンクは直接侵害にすべきではなく、リーチサイト等の悪質なリンク集についてはみなし侵害として差止請求の対象する方向がいいのではと思ってます。

ですので、リンク1つ貼るだけで著作権侵害になることや

二次創作にリンクを貼るだけで著作権侵害になることには違和感があり、

リーチサイトを規制するのであれば、みなし侵害の要件として、従来から検討されている 

  • 大量性(集合性・データベース性)
  • 知情性(侵害コンテンツと知っていたこと、知りうる状況であったこと

といった要件に

  • 原作品性(リンク先の侵害コンテンツが「原作品のまま」違法アップロードされていること)

を加えるべきではないかなぁと思っています。

(二次創作限定のリーチサイトとかでそうな気もするけど)

 

 

リーチサイトによるコンテンツ流通の被害額はものすごい額(うん千億円でしたっけ?)といわれていますが、

最近こういう記事とか見てるので、法規制が本当にコンテンツ業界にとってプラスになるのかなぁと感じてしまう毎日。

wired.jp

 

まぁ一概には言えないんでしょうけど。 

 

 

【書評】ファッションロー~ありそうでなかったファッション専門法律書~

 

ファッション・ロー

ファッション・ロー

 

 

本の帯に「わが国初の体系的な解説書」と書かれているとおり、ファッションの法的問題に特化した書籍です。

さすがファッションローだなと感じる(法律書っぽくない)表紙がカッコイイ!

筆者は東海大の角田先生TMIの関先生

 

ファッション分野における法的問題点をファッションショー、ファッションデザイン、ファッションブランド、ファッションモデル、コスプレに分けてそれぞれ著作権、意匠、商標、不競法、パブリシティ権等の観点から解説がなされています。

また、日本だけでなく、ドイツやアメリカにおけるファッションローの解説もされています。

 

中身としては、裁判例の紹介(個人的にこんなに裁判例があるのかと驚きました。)をベースに法的問題点の解説がなされており、いわゆる「ガチ」な法律書ですが、写真も多く使われており、体系書としては比較的読みやすいと感じました。

 

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※ガチなのがおわかりいただけるだろうか

 

ファッション業界の法務の方にはオススメな一冊です。



目次はこちら

 第1章 総 説

 第1節 ファッションローの意義

 第2節 ファッションローの沿革

 第3節 ファッションロー研究の状況

 第4節 ファッションローにおける課題

 第5節 本書の構成

 第6節 「Forever21事件控訴審

 第7節 「TRIPP TRAPP事件」

 第8節 本書の目的

 

第2章 ファッションショーの法的保護

 第1節 著作権の概要

 第2節 ファッションショーと著作権

 第3節 ファッションショーの著作隣接権による保護

 第4節 ファッションショー主催者の権利

 第5節 ファッションショー演出家の権利

 

第3章 ファッションデザインの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 著作権による保護

 第3節 意匠権による保護

 第4節 商標権による保護

 第5節 不正競争防止法による保護(周知商品等表示・著名商品等表示・商品形態)

 第6節 特許権実用新案権による保護

 

第4章 ファッションブランドの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 商標権による保護

 第3節 不正競争防止法による保護

 

第5章 ファッションモデルの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 パブリシティ権による保護

 第3節 ファッションモデルと出演契約

 第4節 ファッションモデルと専属契約

 第5節 モデル引き抜き問題

 

第6章 コスプレの法的保護

 第1節 総 説

 第2節 コスプレの著作権による保護

 第3節 コスプレイヤーの法的保護

 第4節 コスプレ・ショーの法的保護

 第5節 コスプレ・ディレクターの保護

 第6節 コスプレ・コンテンツの保護

 第7節 コスプレの契約による保護

 

第7章 ドイツにおけるファッションロー

 第1節 総 説

 第2節 著作権法による保護

 第3節 意匠権による保護

 第4節 商標権による保護

 

第8章 米国におけるファッションロー

 第1節 総 説

 第2節 著作権による保護

 第3節 意匠特許による保護

 第4節 商標およびトレード・ドレスによる保護

 

 

さて、ファッションセンスゼロ(自虐も込めている)な私がこの本を購入したかというと、第6章に「コスプレの法的保護」があるからです。

 

法律書の中でコスプレの法的保護について言及した書籍や論文については、(私個人が知っている範囲ですが、)月刊パテント誌にて少し言及されていた程度*1ほとんど見たことがなく*2、非常に興味深い内容となっています。

 

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※法律書にコスプレイヤーの写真が載っている!

 

 

個人的に「コスプレの法的保護」の項目で興味深かったのは以下の3点になります。

 

①コスプレの法的問題について詳細に検討されている。

例えば、コスプレと著作権については以下のように述べられています。

 

 コスプレの制作は、キャラクターの翻案のうち、二次的な表現形式を立体的な表現形式に変更する変形行為(著27条)に当たり、原則として、それらの原著作物の著作者の許諾が必要となる。

 コスプレは、個人で楽しむ場合が多く、通常は私的使用目的の複製または翻案という公正利用をして原作者の許諾は必要ないが、初めから各種のイベントやTVなどで業務上の使用のために複製、翻案、展示、譲渡、貸与等により利用される場合のほか、個人のコスプレイヤーがコスプレショーやイベントに参加する場合には、原著作者の許諾を得る必要が生じる。

 もっとも、アニメーションやゲームソフトなどの登場人物であっても、そのような登場人物の映像に普通にみられるごくありふれたものである場合には、「表現上の創作性がない」として著作物性は認められず、その複製または翻案は著作権侵害とはならないとされることがある。

 また、コスプレは、通常の著作物の複製または翻案とは異なり、コスプレイヤーを通した原著作物の利用行為であり、そのコスプレイヤーの肖像ないし容姿とともに複製物や翻案物を制作し、そのコスプレイヤーがアニメや漫画のキャラクターに成りきってコスプレを公衆に提示することがある。そのため、コスプレの写真や映像を利用するためには、上記の著作権の処理に加えてコスプレイヤーの肖像権とパブリシティ権の処理が必要となる点が特徴的である。さらには、コスプレイヤーの動作は思想感情を創作的に表現する場合があり、舞踊または無言劇の著作物となる可能性があるし、実演として実演家人格権や著作隣接権が生じる。

 コスプレにおける衣装の制作は、キャラクターを複製または翻案する行為であるが、原著作物の著作者の許諾を得ていない場合には、その著作権(翻案権)侵害となる。

【228~229頁より】

 

個人な感想ですが、コスプレは一般的に行われるようになりつつある(コミケだけでなく、ハロウィンとかでも気軽にコスプレしますよね。ディズニーハロウィーンとか川崎ハロウィンとか。)にもかかわらず、法的問題について考えると、非常に複雑であると改めて感じます。

例えば、コスプレと著作権について「対象となる人」と「権利」について考えてみると、パッと思いつく限りでも考慮すべき点が以下のようにあると思います。

 

【対象となる人】

  • アニメ・マンガ・ゲーム等のキャラクターの権利者(アニメの製作委員会、漫画の作者、ゲーム会社等)
  • コスプレ衣装の制作者
  • コスプレ衣装の販売者
  • コスプレ衣装の貸与者
  • コスプレイヤー(コスプレ衣装を着る人)
  • コスプレイヤーを撮影する人(いわゆるカメコとか)
  • 写真に撮ったものを写真集にして販売(いわゆるROM販売)する人

 

【対象となる権利】

※原著作物であるアニメのキャラクターの著作物性やアニメのキャラクターの衣装の著作物性の検討をしたうえで

著作権ではないが、コスプレイヤー自体の権利としての

 

対象となる人それぞれに対象となる権利がどう発生し、どう適用され得るのかを検討することになると思うのですが、正直複雑すぎて一般の人には理解できないのではと感じてしまいます。

(モチロン私自身も全てを理解できていないですが)

 

たとえ法的には著作権侵害であった場合でも、あくまでファン活動の一環としてコスプレをする分には、例えコミケニコニコ超会議といった場であっても著作者側がクレームをつけて問題になるケースは少ないであろうと考えられるものの、

一般の方にも分かりやすいガイドラインのようなものがあるといいのかなと感じます。

ワンフェスのような一日版権許諾をとるという方法もありますが、コミケにような何万人と来るようなイベントにおいて同様の措置をとるのは現実的ではないでしょう。)



②コスプレして公衆に見せる行為を展示権として整理している。

個人的には上演権と理解していたのですが、本書では展示権として整理されている点が勉強になりました。

※展示権は原作品が対象だが、二次的著作物としてのコスプレ衣装を原作品として解するため展示権が及ぶ。

 

 

③コスプレ利用許諾契約やコスプレ出演契約の契約書雛型が記載されている。

単純な体系書ではなく、実務を考えた体系書であると感じた部分です。(体系書で契約書雛型が添付されているものってほとんどないですよね?)

業務上、キャラクターライセンスの契約書を普段見ることがないので「ライセンスの範囲ってこれくらいなのかー」を考えながら読みました。

 

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※右側に契約雛型が記載されています。

 


コスプレを含むファッションローの分野は今後も‘‘アツい”分野だと思うので、研究や判例の蓄積がより進むといいなぁと思う次第でございます。

 

*1:月間パテント2016年10月号 平成27年著作権委員会第4部会「コンテンツ内オブジェクトによるビジネスについての法的諸問題」https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201610/jpaapatent201610_046-062.pdf

*2:Webの記事であれば、福井健策先生が書いたコラムがありますし、小倉先生もブログを書いていますね。

福井先生のコラム:http://www.kottolaw.com/column/001429.html

小倉先生のブログ:http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2013/12/post-787c.html